【Q&A】セックスワーカーの人権を擁護する方針に関して

  1. ホーム
  2. ニュースリリース
  3. その他
  4. 【Q&A】セックスワーカーの人権を擁護する方針に関して
2016年5月26日
[その他]
国・地域:
トピック:
  1. アムネスティ・インターナショナルは、セックスワーカーの人権を擁護する方針がなぜ必要と考えるのか。

    多くの国でセックスワーカーは、人権侵害を受ける危険性が高いためである。私たちの方針は、各国がセックスワーカーの保護を強化するために何をすべきかの要点を示している。
     
  2. セックスワーカーはどんな人権侵害に遭う恐れがあるのか。

    セックスワーカーは、次のようなさまざまな人権侵害に直面する恐れがある。

    ・強かん
    ・暴力
    ・人身売買
    ・強奪
    ・恣意的な逮捕と拘禁
    ・強制立ち退き
    ・嫌がらせ
    ・差別
    ・保健サービスからの排除
    ・HIV検査の強要
    ・法的補償の欠如

    アムネスティは、セックスワーカーが警察官、客、それ以外の一般人から虐待を受け、加害者が処罰されない事例を多数確認している。
     
  3. 方針は、各国政府に対して何を求めているのか。

    方針は、政府に対して、セックスワーカーの権利を保護し、尊重し、実現すべきだと述べている。例えば

    ・暴力、搾取、強制から保護する
    ・セックスワーカーを自身の生活や安全に関わる法律や方針の制定過程に参画させる
    ・保健医療や教育を受ける機会および雇用の選択肢を保障する
    などである。

    方針はまた、セックスワークの非犯罪化を求めている。犯罪化されていることにより、警察の保護が受けられなかったり、虐待者の不処罰を招いているなど、セックスワーカーの安全を脅かしている現状があるためである。 (方針の全文はこちら
     
  4. セックスワークの非犯罪化とは、どういうことか。

    セックスワーカーの搾取、人身売買、暴力などを犯罪とする法律の廃止ではない。これらの法律は引き続き維持し、強化されるべきだ。

    そうではなく、セックスワークを犯罪化・処罰化する法律や方針を廃止すべきだということだ。

    この対象には、客引き、場所の借用、売春宿の経営、売春による稼ぎへの依存など、セックスワークの売買や組織化に関わる法律や規則が含まれる。

    アムネスティが「セックスワーク」と言う場合、成人間の同意による行為のみを指す。
     
  5. なぜ非犯罪化を支持するのか。

    非犯罪化というモデルは、セックスワーカーの権利の保護を強化しやすい。具体的には、

    ・保健医療へのアクセス
    ・犯罪行為を受けたときに、警察などへの被害の届け出ができる
    ・安全性を高めるために、セックスワーカーが団結したり、一緒に働いたりできる
    ・家族が、セックスワークでの稼ぎに依存することで罪を問われないという安心感を得る
     
  6. セックスワーカーには保護が必要だとするが、なぜ「ポン引き」を保護するのか。

    アムネスティの方針は、「ポン引き」を保護するためのものではない。セックスワーカーの虐待や搾取は、法に基づき全面的に裁かれるべきだ。

    しかし、いわゆる"売春あっせん禁止法"には深刻な問題点があると認識する。対象範囲が広すぎて曖昧であるため、虐待の加害者ではなく、セックスワーカー自身がしばしば罪に問われてしまう。

    例えば、多くの国では、身の安全を守るために2人のセックスワーカーが一緒に働くと、その場所は売春宿とみなされ、違法となる。

    アムネスティは、法律はセックスワークの搾取、虐待、人身売買の問題の解決に向かうべきだと考える。そして、「何でも犯罪」はセックスワーカーの身を危険にさらすだけであり、最良の方法とは考えてはいない。
     
  7. アムネスティはなぜ、買春を人権だと考えるのか。

    そうは考えていない。私たちの方針は、セックスの買い手の権利についてではない。犯罪化がもたらしかねない人権侵害から、セックスワーカーを保護することがすべてだ。

    またアムネスティは、買春を人権だとは見ていない。(だが、セックスワーカーには人権があると考える!)

    はっきりしておきたいのは、いかなるセックスも同意がなければならないということだ。権利としてセックスを要求することは、誰にも許されない。
     
  8. セックスワークの合法化と非犯罪化の違いは何か。

    合法化とは、セックスワーカーを犯罪者扱いする法律の廃止ではなく、セックスワークを公式に規制するために、セックスワークに特化した法律や方針を導入することである。

    私たちは合法化そのものに反対しているのではない。政府は、制度がセックスワーカーの人権を尊重するものとなるよう保障しなければならないと主張しているのである。

    合法化の特に悪い事例は、チュニジアで見られる。公認の売春宿で働くチュニジアのセックスワーカーが仕事をやめたい場合は、警察から承認を得なければならず、「誠実な仕事」で生計を立てることを証明しなければならない。また、規制の外で仕事をすることはいまだに犯罪であり、法律の保護を受けらない。
     
  9. セックスワークの非犯罪化は人身売買を促進するだけではないのか。

    明確にしておきたい。セックスワークの非犯罪化は、人身売買の刑罰を無くすことではない。人身売買は、忌まわしい人権侵害だ。各国は、人身売買を罰する法制度を整えるべきであり、被害者が保護され、加害者が裁かれるよう、法律を実践しなければならない。

    非犯罪化すると人身売買が増加することを示す信頼できる根拠は何ひとつない。

    一方、セックスワークの犯罪化は、人身売買の摘発の障害となる。たとえば、被害者がセックスワーカーの場合、警察が自分に不利な行動をとることを恐れ、訴えを控えることもある。犯罪化により、セックスワーカーはまた、人身売買の監視強化や摘発・防止などの労働現場での保護策から排除される。

    フリーダムネットワークUSA、女性の人身取引対策グローバルアライアンス、ラストランダ国際協会などの反人身売買団体・機関は、非犯罪化が前向きな役割を果たすと考えている。
     
  10. セックスワークの非犯罪化は、世界における、女性の権利の弱体化やジェンダーのさらなる不平等に結びつくことにはならないか。

    ジェンダーの不平等は、女性がセックスワークに就く上で大きな影響を与えるが、犯罪化はこの点には対処しておらず、女性の身を危険にさらしているだけである。

    同じことが、差別や不平等扱いをされてきたトランスジェンダーや男性(多くがゲイやバイセクシャル)のセックスワーカーにもあてはまる。

    国は、差別の撲滅、ジェンダーに関する有害な固定観念の撲滅に取り組み、女性やその他の周縁化された集団が自身の持つ能力を発揮できるよう支援し、すべての人びとが、生計手段を選択できるようにしなければならない。
     
  11. アムネスティはなぜ北欧モデルを支持しないのか。

    北欧モデルの意図に関わらず、買春やセックスワークの組織化を取り締まる法律は、セックスワーカーにとってリスクがある。

    こうした法律では、警察の摘発から買い手を守ろうとして、しばしばセックスワーカーがより多くのリスクを負わなければならないことになる。

    例えば、複数のセックスワーカーの話では、買い手が摘発されないよう相手の自宅に行かなければならない圧力を感じているという。つまり、自主性が損なわれ、時には身を危険にさらす恐れがあるのだ。

    北欧モデルでは、セックスワーカーたちが、安全上の理由で仕事を一緒にしたり、組織化したりすると罰せられる。

    また、家主がセックスワーカーに部屋を貸したことで起訴される恐れがあるため、住居の確保が難しいことがある。時には、家から立ち退かされることもある。
     
  12. つまりアムネスティは、性産業を奨励しているのか。

    アムネスティは、性産業を支持しているわけでも非難しているわけでもない。

    だが、性を売る人びとに対する人権侵害や差別に対しては、強く非難する。そして、非犯罪化は、それらの問題に対処する重要な一歩だと考える。
     
  13. 非犯罪化に反対する人びとには、どう対応するか。

    セックスワークの非犯罪化とはまったく相容れない意見があることは承知しており、私たちの立場を支持しない人たちの考え方を尊重する。

    セックスワーカーの人権を擁護する最良の方法について、互いを尊重しながら開かれた議論をしていきたい。

    セックスワークに就いているあるいは就くことを考えている人たちが、別の生計手段を得られるようにする、本人の希望でセックスワークを辞められるようにするなど、合意できる部分は多いと考える。
     
  14. アムネスティには、今回の方針を支える根拠があるのか。

    セックスワーカーの権利を擁護する方針の取りまとめには、2年以上の時間をかけた。方針は、信頼できる調査と多数の団体や個人との協議に基づいている。

    アムネスティは、世界保健機構、国連合同エイズ計画、健康への権利に関する国連特別報告者、その他の国連機関や各種団体がこれまで作成した膨大な資料に目を通した。私たちはまた、女性の人身取引対策グローバルアライアンスなどの団体の見解も検討した。

    調査の一環として、アルゼンチン、香港、ノルウェー、パプアニューギニアにおいて、200人以上のセックスワーカーに聞き取りをした。

    世界中にあるアムネスティの事務所も協力し、多種の団体・個人と率直な協議を行った。セックスワーカーのグループ、サバイバーを代表する団体、セックスワークの犯罪化を求める団体、フェミニストなどの女性の権利の代表者、LGBTI(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス)の活動家、人身売買反対団体、HIV/AIDSの活動家などである。

    さらに、セックスワーカーに関わる人権侵害を取り上げたアムネスティのこれまでの調査も活用した。以下に、その例を挙げる。

    ・ウガンダにおける女性への暴力に関する報告書では、「売春をしているということはセックスを求めているのだ」「売春婦なのだから、強かんには当たらない」と言われた女性たちのケースを取り上げた。
    ・ギリシャに対して、セックスワーカーと思われたHIV感染者たちへの犯罪化と侮蔑をやめるように訴える公開書簡を出した。
    ・ナイジェリアの拷問に関する報告書で、セックスワーカーが、強かんと賄賂の格好の的になっている件を訴えた。
    ・緊急行動(緊急を要する署名活動)では、ホンジュラスでセックスワーカーが狙われ殺されているケース、ブラジルで警察がセックスワーカーを立ち退きや虐待の対象としているケースを取り上げた。
    ・チュニジアに関する報告書では、セックスワーカーが警察などによる性的搾取や恐喝、強要の的になりやすい状況を詳述した。
     

5月26日、セックスワーカーの権利に関するアムネスティの方針と4件の調査報告の公開に合わせて、本ページの内容は更新された。

アムネスティ国際ニュース

2016.05.26 アムネスティがセックスワーカーの権利保護に関する方針と調査結果を公表