フランス:違法行為は、法律を破ることでは解決しない

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2005年11月22日
国・地域:フランス
トピック:難民と移民
11月9日、フランス国内の数多くの都市や町で起こった深刻な暴動に続いて、フランス政府はパリその他の市街について非常事態宣言を出した。

非常事態宣言は、1955年に成立して以来、過去に一度しか適用されていない。各県知事(=地方長官(Prefet))が「法第5条の規定に基づき治安維持に必要な手段をとる」ことが許されるというものである。これにより、限られた地域や時間帯に夜間外出禁止令を発令すること、警察官が令状なしで家宅捜査を行うことができること、全ての集会場所を閉鎖すること、あるいは人びとを自宅に軟禁状態にすることなどが可能となる。

同日、内務省は各県知事に対して、在留許可を有する者を含め、合法・非合法な滞在資格に関わらず、この暴動の際に犯罪に関与した人びとを即時追放するよう命じたと発表した。

アムネスティ・インターナショナルは、この追放手続きが処罰の一形態にみえること、また、追放を迫られている人々が、不服申立を行なおうとしても、独立した公平な法廷で公正な審理を受けられない可能性があることを懸念している。アムネスティは、この執行命令が主として外国籍の者を対象にしていることから、これが差別的であると考える。アムネスティは、また、この追放が追放者の家族に与える影響に対しても懸念を抱いている。私生活および家族生活の権利は、ヨーロッパ人権条約第8条において保護されている。

アムネスティは、フランス政府に対して、拷問と虐待を受ける恐れのある他の国への追放をやめるよう要求する。「拷問その他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」の第3条は、締約国が人びとを「その者が拷問を受けると信ずるに足る実質的な理由がある国」に追放、送還、あるいは引き渡すことを禁止している。

アムネスティは、内務省の施策が、難民として認められている、あるいは難民申請中の人びとを追放の危機にさらしていることを懸念している。難民の地位に関する1951年条約(難民条約)の第33条は、難民を「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放と送還すること」を禁止している。フランスは難民条約の締約国であり、そのような難民の追放あるいは送還を行わないことを義務づけられている。

フランス政府には人びとを暴力的な犯罪行為から守る義務がある。しかしその一方、アムネスティは、政府の取ったいくつかの政策が人権侵害につながる可能性を懸念している。そして、政府当局に対し、今回の目的のためにとられた全ての施策が必要かつ適当なものであることを保証するよう要求する。自由権規約委員会によれば、特定の人権保障措置の制限が必要な場合、それは「急迫的な状況のために厳密に必要」とされるものでなければならない。人権保障措置を制限するためのどのような施策も、その緊急時の状況と均衡したものでなくてはならない。均衡の原則は、その施策が脅威に比べて過剰でないこと、予測としての脅威や一般的な怖れなどではなく、実際の脅威、あるいは犯罪に発展する可能性のある実際に行なわれている行為に相当するものでなければならない。

国際人権法もまた、追放に関する適正手続きの保証を規定している。「市民的・政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)の第13条では、この規約の締約国内にいる外国人を追放する場合は、「法律に基づいて」決定しなければならないとしている。国の安全のためのやむを得ない理由がある場合を除いては、当該外国人は自分が追放されることに反対する理由を示し、代理人を持ち、「権限のある機関」によって自分を追放するという事案の審査を受けることができなければならない。

アムネスティは、フランス政府が今回の暴動に関連して拘束された人びとに対して、国内法と国際人権基準に沿って、手続を行う権利をすべて保障するよう要求する。アムネスティはまた、当局に対し、過剰な力の行使と人種差別的な人権侵害の疑いについて徹底的かつ独立した調査を行うことを要請する。

さらに、アムネスティは、政府の公式声明や安全対策について、北アフリカ系、サハラ以南系、あるいは移民のコミュニティをターゲットとしないことを保証するよう要求する。そのような声明は、これらのコミュニティが一般の個人から被害を受ける原因になり得る。

アムネスティは、過去に、民族的少数者に対する人種差別、そして差別的扱いに関する情報についての懸念を政府に対して表明した。 特に、2005年の4月の報告、「フランス:正義への探求―発砲、拘禁中の死亡、拷問、虐待などにおける法執行官の事実上の不処罰」において、アムネスティは法執行官による虐待が疑われる事例の多くが、主に北アフリカ、またはサハラ以南等の非ヨーロッパ系出身の人びとに対するものであるということを強調した。

虐待に対する苦情の件数は近年増加している。そのような数の増加は、特に警察の身元確認や警察留置場との関連で認められている。身元確認はしばしば暴力に発展するが、それらの原因の多くが警察官による攻撃的、あるいは侮辱的な行為によるものである。

報告書はまた、警察官による人権侵害を起訴し罰するという司法制度が広範にわたって機能していないことを証拠をあげて強調している。このような不処罰のパターンは、市民が、警察官が法の下に任務を行っており、その行動に対する説明責任があるということについての信頼の喪失につながっている。

アムネスティは、政府や関係のあるその他の政府機関にたいして、4月に発表した勧告を繰り返し表明する。

  • 差別的な行動が取られないことを保証するために、身元確認に関した手続き、ガイドラインそして実施についての再調査を行う。
  • 人種差別的な人権侵害を禁止する現在ある法制度を執行し、監視する。
  • 人種差別的動機を加重事由としている特定の犯罪規定の執行を保障する。
  • 国家の諸機関を含め、人種差別一般を禁じる「第12ヨーロッパ人権条約」に署名し、批准する。
  • 「国内の少数民族保護のための枠組み条約」に署名し、これを批准する。


背景

 11月8日、フランス内相は国内で起きた暴動に対して、貧困地域における社会的排除を終わらせるための真剣な取り組みが必要だという考えを表明した。

騒動は、10月27日にパリ近郊のクリッチー・ソウス・ボイスで、警察の身元調査から逃げていた二人の少年が変電所で感電死したことが発端となった。

暴動は、主として、フランス籍を持つ北アフリカ系、サハラ以南系の人々や移民が、彼らの居住する地域が受ける社会的差別や雇用差別、そして社会的不平等、更には、警察官による人種差別的で過剰な行為に対する不満をフランス政府に表すために起こった。

 暴動は、ツールーズ、マルセイユ、ニース、ルーアン、ストラスブール、リール、ディジョン、そしてアヴィニヨンを含む各地の主要都市にまで拡大した。セーヌサンドニに住むジャン・ジャック・ル・シェナデック(61歳)は、11月4日の暴動で受けた怪我により死亡した。その暴動では、30人以上の警察官が怪我をし、建物や車に損傷を与えたと報告された。11月9日現在、未成年者を含む1,124人以上の人々が警察に身柄を拘留された。


アムネスティ発表国際ニュース
(2005年11月10日)
AI Index: EUR 21/011/2005

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