フランス:「表現の自由の擁護者」は偽善

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2020年11月27日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:フランス
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(C) GettyImages
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中学の「表現の自由」の授業でイスラム教預言者のムハンマドの風刺画を扱った教師サミュエル・パティさんが殺害された事件は、フランス中に衝撃を与えた。表現の自由とは何か、その権利は誰のものか、事件は同国に難しい問いを投げかけている。

マクロン政府は、事件を受けて表現の自由を支持する声明を出す一方で、イスラム教徒に対する中傷を積極的に擁護する姿勢を見せ、さらに表現の自由も攻撃し始めた。

表現の自由への攻撃は、自身の主張を否定することでもある。11月初旬には、教師が風刺画を扱ったことを非難した児童4人が、テロ行為を弁明した疑いで長時間の取り調べを受けた。

フランス政府は、言論の自由の擁護者を自認しているようだが、実際は違う。

昨年、抗議活動でマクロン大統領を模した人形を燃やした市民が、侮辱罪で有罪判決を受けた。現在議会では、ソーシャルメディア上で警官ら治安当局者の画像の使用を禁止する法案が審議中だが、その一方で政府が、預言者ムハンマドの風刺画を描く権利を積極的に擁護しているのは、辻褄があわない。

表現の自由の権利は、他人に不快感や怒りを与えるおそれがある意見でも保障されるものであり、ムハンマドの描写も例外ではない。風刺画の複製や出版で、暴力や嫌がらせを受けるようなことがあってはならない。

一方、風刺画の公表に反対する意見を表明するのも、表現の自由で保障された権利だ。宗教の通俗的、侮辱的な扱いを批判することは権利であり、風刺画を非難した人を「分離主義者」「偏屈」「イスラム教徒」だとするのは、筋違いだ。

フランスでは、宗教に対する侮辱的表現の権利は、しっかり保障されているにもかかわらず、イスラム教徒の表現と信仰の自由は、ほとんど顧みられることがない。国是とする普遍主義がその背景にあるからだ。また、世俗主義の名の下に、学校の生徒や官庁の職員は、ヒジャブの着用など宗教的身なりを禁じられている。

他の分野でも表現の自由をめぐる状況は、お寒い限りだ。毎年数千人の市民が、公務員を侮辱したとして有罪判決を受ける。警察や検察が、政府批判者の口封じにあいまいな罪状に基づく訴追を繰り返すからだ。イスラエル製品の不買運動をした11人が有罪判決を受けて欧州人権裁判所に提訴した裁判で、同裁判所は6月、有罪判決は「表現の自由の侵害」とする裁定を下した。

中学教師の殺害事件で当局が取った素早い対応は、5年前のパリ同時多発襲撃事件後の非常事態宣言を思い起こさせる。非常事態宣言で、警察は、イスラム教徒の家屋をしらみつぶしに家宅捜索し、住民らを自宅軟禁にした。

歴史は繰り返すというが、残念ながら政府は今、過激派とみなした団体やモスクの解散や閉鎖を進めようとしている。非常事態下ではしばしば、敬虔なイスラム教徒が過激派とみなされていた。

ダルマナン内務大臣は、イスラム教徒に対する差別と闘う団体「イスラム嫌悪に反対する集団(CCIF)」を解散させる意向を示した。「国家の敵」とか「秘密のテロ組織」だということだが、その根拠は示さなかった。

教師殺害事件の2日後、内務大臣は「過激派」「国家の脅威」とみなした外国人231人を国外追放すると発表した。その後16人を、アルジェリア、モロッコ、ロシア、チュニジアへと追放した。いずれの国も、国家の脅威とみなされた人物を拷問にかけるおそれがあることは、アムネスティの調べでわかっている。

米国に新政権が誕生するにあたり、国内外の人びとが新政権に人種差別解消への対応を期待する中、フランスでは、国民教育省が、多文化主義や人種差別解消のための取り組み・制度を否定する立場を取ってきた。同省は、人種差別との闘いは米国から持ち込まれたものであり、分離主義と過激思想の温床だと主張している。しかし、イスラム教徒などの少数派は人種差別の被害者だと指摘することは、なんら過激ではない。それは事実であり、そう指摘することは、表現の自由で保障されている権利だ。

フランス政府の表現の自由をめぐる巧言は、自らの恥知らずな偽善を繕うには力不足だ。
政府は「言論の自由」というスローガンを、市民を人権侵害にさらす方策の言い訳にしてはならない。表現の自由は、万人に適用されなければ、意味をなさない。

アムネスティ国際ニュース
2020年11月12日

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