日本:アムネスティ事務総長より日本国首相にあてた公開書簡

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2009年10月 9日
国・地域:日本
トピック:国際人権法
鳩山内閣総理大臣閣下

今回の選挙の結果について、アムネスティ・インターナショナルを代表してお喜び申し上げます。私どもアムネスティは、ここに閣下ならびに貴政府に対し、私どもが持つ人権に関する懸念事項をお伝えできることを喜ばしく思っております。閣下が、首相としての在職期間中に、人権の保障と促進を政府の優先事項とされるよう、ここに謹んで要請いたします。

国際的な開発協力と人権

日本は人間の安全保障という概念を促進する指導的な役割を果たしてきました。人間の安全保障は、世界の人びとの状況を改善するために人権活動と人道活動をともに行おうとする概念です。日本政府は、これまで東ティモールやアフガニスタンにおける紛争後の復興支援や人道援助において指導的な役割を果たしてきました。スリランカやビルマ(ミャンマー)、カンボジア、パラグアイなどでは、日本は2国間援助における最大支援国です。国際的な開発協力にあたっては、その条件を人権の促進と保護にまで広げ、開発協力のための資源が人権侵害に用いられることのないように保証するべきです。日本政府は2008年の国連人権理事会の理事国への立候補の際に、人権の促進と保護のために2国間対話を推進すること、そしてそれを支えるために民主的な統治の奨励、女性へのエンパワーメント、教育の提供などを行うと誓約しました。しかしながら、アムネスティは、日本が国際的な開発協力を行っている多くの国ぐにに対して、人権のための声をもっと大きくするべくさらに努力されるべきだと考えています。

スリランカでは、25万人近くの人びとが、軍が警備する体制のもと、非衛生的な状況で拘束されたままです。避難民収容キャンプは、本来紛争で住む場所を追われた人びとに緊急援助を提供するためにあるものです。それにもかかわらず、そこは今や大規模な恣意的拘禁を行うための施設と化し、キャンプに入れられた人びとの身柄の自由と移動の自由を侵害し、法的な保障措置や蒙った侵害に対する救済を得ることを拒否しています。ビルマでは、アウンサンスーチーさんをはじめとする約2200人にも上る政治囚が拘禁され、公正な裁判を受ける権利や公民権を拒否されています。カンボジア政府は、依然として適切な住居を得る権利を保障しておらず、人びとを強制立ち退きから守ろうとしていません。2008年だけでも、アムネスティはカンボジア国内で27件の強制立ち退きの事例を情報として得ており、その被害を受けた人数は2万3千人にも上ります。パラグアイ政府は、ヤクエ・アシャとサウォヤマシャという2つの先住民族コミュニティに先祖伝来の土地を返すよう命じた米州人権判所の2つの重要な法的拘束力を備えた判決に従っておりません。土地が無いと、これらのコミュニティは水、衛生施設、保健衛生、教育その他のサービスがほとんど得られない、道路脇でのみじめな条件下で生活するよう強いられることになります。

アムネスティは日本政府に対して以下要請いたします:
・ 日本の政治的・経済的影響力を駆使して、国際人権法の尊重と人権侵害の責任者の処罰という国際的な要求を支持し、人権侵害に対する異議の声を大にし、自国の国際開発協力の政策において堅固な姿勢をとっていただきますようお願いいたします。


死刑制度および代用監獄制度

アムネスティは、あらゆる死刑に反対します。死刑は生きる権利の侵害であり、究極的に残虐で非人道的かつ品位を傷つける刑罰であると考えています。2009年9月10日に、アムネスティは、「首に掛けられたロープ:日本における精神医療と死刑」という報告書を発表し、日本が、精神に障害を持つ人びとが死刑の宣告を受けたり、死刑を執行される危険に対して効果的な防止策を講じておらず、国内法のみならず国際法にも違反していることを指摘しています。日本での死刑の適用は、代用監獄制度と密接に結びついています。日本の刑事司法は自白に多くを頼っており、そうした自白の多くは被疑者が代用監獄に収容されている間に引き出されるのが通常です。アムネスティは、この代用監獄制度が、拷問や虐待に相当する殴打や脅迫、睡眠はく奪や休みなしで長時間におよぶ取調べなどを通じて「自白」を得る温床となっていると考えています。この制度にもとづいて人権侵害が起きる危険性は、弁護士の支援を効果的に受けられないことでさらに高まります。アムネスティは、民主党がそのマニフェストにおいて、捜査取調べの全面的な録音録画を導入するとされたことを歓迎いたします。

アムネスティは日本政府に対して以下要請いたします:
・ 代用監獄制度を廃止するために直ちに措置をとられるか、さもなければこの制度を国際人権基準に沿ったものとし、全取調べの録音録画と同じように、速やかに遅滞無く弁護士の支援を受けられるようにするなどの保障措置を実施するようお願いいたします。
・ 死刑を用いることについて直ちに再検討を開始され、その再検討の結論が得られるまでの間、その執行を停止する措置をとり、すべての死刑判決を減刑するようお願いいたします。

日本軍性奴隷制のサバイバーたちの正義の回復

現在にいたるまで、日本政府は第2次世界大戦前および大戦中における旧日本軍の性奴隷制について、適切な形で認め、謝罪していません。旧日本軍は、年齢や貧困、階級、身分、教育、国籍や民族などのために弱い立場にあり、性奴隷制の罠に最もはまりやすかった多くの女性や少女を苦しめました。「慰安婦」という軍の性奴隷として徴用された女性たちは、その結果、肉体的かつ精神的な障害、社会的孤立、屈辱そしてしばしば極度の貧困などに苦しめられています。日本政府によって提供された補償は、国際基準を満たすものではありません。正義が否定され続けていることは、こうした女性たちの恥と苦痛を引き延ばすことになります。アムネスティは、この問題は、重大かつ進行中の人権侵害であると考えています。過去3年の間に、米国やカナダ、オランダ、韓国、台湾、そしてEU加盟27カ国を代表する欧州議会は、いずれも、日本政府に対して、元「慰安婦」女性たちの正義を回復するよう求める決議を採択しています。日本国内でも、宝塚、清瀬、札幌、福岡、箕面、京田辺、小金井、三鷹、生駒の各市議会が、日本政府に対して同問題の解決を求めています。これらの市議会のうち6市議会は2009年に決議を採択しており、直近では奈良県生駒市の市議会が9月10日に採択しました。自由権規約委員会や拷問禁止委員会、さらに最近では2009年8月の女性差別撤廃委員会など、各種の国連条約機関が、日本政府に対して、日本軍性奴隷制のサバイバーの正義を回復するよう勧告しています。

アムネスティは日本政府に対して以下要請いたします:
・ 法的責任を含めて全面的に責任を認め、被害者の苦しみを公的に認めることで、「慰安婦」制度について正面から謝罪し、サバイバーの尊厳の回復を図ってくださるようお願いいたします。
・ 十分かつ適切な国家賠償を、直接サバイバーとその家族に行ってくださるようお願いいたします。

難民および庇護申請者

日本において国際的な保護が必要であるとして難民認定を受けた人の割合は、庇護希望者の数に対して低いままです。2008年の難民申請数は1,599人でしたが、難民として認定されたのはわずか57人、難民と認定されなかったものの人道的な配慮により在留が認められたのも360人でした。アムネスティは、難民認定の審査期間が長期にわたり、最終的な決定がくだされるまでに最長で10年かかること、難民認定の決定に対して不服を申し立てる効果的な制度が確保されていないことに懸念を表明いたします。

アムネスティは日本政府に対して以下要請いたします:
国際的な保護にかかわる決定は、難民法と人権法、そして庇護希望者の母国の情報に精通した独立機関によってなされるようにしていただきますようお願いいたします。

国内人権機関

アムネスティは、日本が、人権を保障し促進する国内機関の地位と権限に関する原則(パリ原則)の要求を満たすような、独立した国内人権機関を有していないことに懸念を表明いたします。既存の人権擁護局は法務省の下に置かれていますが、同省は、刑務所や拘置所、そして入管収容所を所管しております。アムネスティは、このような制度設計では、検閲されることなく国内の人権問題について批判的に検証するという人権機関の権限が損なわれると考えます。2008年5月の普遍的定期審査において、国連人権理事会は、日本政府に対し、出来る限り速やかにパリ原則に従った国内人権機関を設置するよう勧告しました。日本は、この勧告をフォローアップすることを受諾しており、実施する責任を負っています。

アムネスティは日本政府に対し以下要請いたします:
・ 緊急の課題として、パリ原則の要求を満たす国内人権機関を設置する勧告を実施するようお願いします。

アムネスティは、閣下と日本政府に対し、人権の保護と促進に最優先に取り組むよう要請いたします。そして、この書簡で言及した問題について、さらに詳細に話し合う機会を設けていただければ大変幸いに存じます。

敬 具

2009年9月22日
アムネスティ・インターナショナル事務総長
アイリーン・カーン

ASA 22/013/2009 (Public)
TG ASA 22/2009.007