日本:死刑執行に抗議する

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2010年7月28日
[日本支部声明]
国・地域:日本
トピック:死刑廃止
アムネスティ・インターナショナル日本は、本日、東京拘置所の篠澤一男さん、尾形英紀さんの2人の死刑確定者に対して死刑が執行されたことについて強く抗議する。特に、前回の死刑執行から一年という日に死刑執行を行ったことは、政府の死刑存置への意思を示そうとした恣意的な執行と言うほかなく、人の命をもてあそぶものとして、強く非難する。

今回、執行された二人は、以前から執行の対象となることが危惧されていたため、アムネスティは緊急行動(UA)の対象としていた。当局に対しても世界中から執行停止などを求める要望が寄せられていた。尾形さんは一審判決後に控訴を取り下げたため、再審査を経ないまま死刑が確定した。

今回、千葉法相は、死刑の在り方について検討するための勉強会を立ち上げるとともに、東京拘置所の刑場についてマスメディアの取材の機会を設けるよう指示した、と発表した。しかし、死刑制度に関する情報公開や、存廃に関する公の議論は、死刑の執行を正式に停止してから行うべきである。一方で人を処刑しながら、他方で死刑についての議論を行うという行為は矛盾しており、執行を続けながらの検討は、死刑の正当化を後押しするものになるとの危惧を抱かざるを得ない。

すでに、2007年と2008年の2年連続して、国連総会において、全世界に対して死刑廃止に向けて死刑執行の一時停止を求める決議が、100カ国以上の賛成で採択されている。また、2008年10月には、国連自由権規約委員会が、「世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し、必要に応じて、国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである」と勧告を行っている。今回の死刑執行は、こうした声に背を向けるものである。また、「結論の方向性を決めて行うものではない」とする勉強会の設置も、こうした勧告に沿ったものではない。

近年、志布志事件や富山氷見事件、そして足利事件など、相次いで冤罪事件が明らかになり、代用監獄や捜査取調べ中の自白強要など、日本の刑事司法における人権侵害が多数報告されている。福岡事件や三崎事件、飯塚事件など、死刑事件における死後再審も行われており、死刑制度を含む日本の刑事司法制度の見直しが強く要請されている。今こそ死刑の執行停止を正式に宣言し、死刑廃止を視野に入れた、日本の刑事司法制度の抜本的見直しが必要である。

アムネスティは、あらゆる死刑に例外なく反対する。死刑は生きる権利の侵害であり、究極的な意味において残虐で非人道的かつ品位を傷つける刑罰である。犯罪被害者は生きる権利を侵害された人である。国家がなすべきことは、こうした権利の侵害が起きないように、犯罪の少ない社会を作って国民を守ることであり、新たに国民の命を奪うことではない。犯罪の背景には、多くの場合、貧困や社会的差別があり、死刑によって犯罪者を排除しても問題は解決できない。

昨年、全世界で死刑を執行した国は18カ国であった。死刑を行う国は減少を続けており、世界の7割の国ぐにが死刑を廃止している。世界は、犯罪に対して、死刑を用いるのではなく、行刑制度の見直しや犯罪被害者支援、そして貧困や差別問題に取り組む社会政策によって対応しようとしている。

日本政府は、人権諸条約の締約国として、死刑に頼らない刑事司法制度を構築する国際的な義務を負っていることを再確認するべきである。日本政府は、一刻も早く人権保障の大原則に立ち戻り、死刑の執行を停止し、死刑廃止に向けた議論を開始しなければならない。

2010年7月28日
社団法人アムネスティ・インターナショナル日本

背景情報
・現在、世界139カ国が死刑を法律上および事実上廃止しており、アジア太平洋地域においても27カ国が死刑を廃止している。東アジアでは、韓国が2008年に事実上の死刑廃止国となり、今年に入ってモンゴルが死刑執行停止を公式に宣言した。死刑廃止に踏み切ったこれらの国の多くで、世論の多数は死刑の存続を支持していた。例えば、フィリピンでは、1999年の調査で世論の8割が死刑を支持していたが、2006年に死刑廃止に踏み切った。

・科学的な研究において、死刑が他の刑罰より効果的に犯罪を抑止するという確実な証拠がみつかったことは一度もない。死刑と殺人発生率の関係に関する研究が1988年に国連からの委託で実施され、1996年と2002年に再調査されているが、最新の調査では「死刑が終身刑よりも大きな抑止力を持つことを科学的に裏付ける研究はない。そのような裏付けが近々得られる可能性はない。抑止力仮説を積極的に支持する証拠は見つかっていない」との結論が出されている。

・犯罪被害者遺族の感情について、アムネスティは、次のように考えている。「アムネスティは死刑に反対ですが、死刑判決を受けた者が犯した罪を過小評価したり許したりしようとするものでは決してありません。人権侵害の犠牲者に深くかかわってきた組織として、アムネスティは、殺人事件の被害者には心からの哀しみを共有しますし、その痛みを軽視するつもりはありません。当局が殺人事件の被害者に近しい人びとを支援し、苦しみを緩和するためのシステムを構築することがどうしても必要です。しかし、加害者を処刑しても、長期間におよぶ遺族の苦しみを癒すことはほとんどできません。それどころか、処刑された人の家族に同じ苦しみをもたらすことになるだけです」