- 2019年6月18日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:ミャンマー(ビルマ)
- トピック:先住民族/少数民族
アムネスティの最近の調査で、一昨年のロヒンギャ掃討で国際社会の批判を浴びた国軍が今年1月から、戦争犯罪や人権侵害を新たに犯している疑いがあることがわかった。国軍の作戦は今も続き、被害がさらに拡大するおそれがある。
1月4日、ラカイン民族武装集団のアラカン軍が、警察施設を襲撃した。この事件を受け、政府はアラカン軍「せん滅」命令を出し、国軍が軍事作戦を開始した。
相変わらず非情で無責任な国軍は、各地で住民を無差別に殺傷し、処刑、連行、拷問などを繰り返し、人びとを恐怖に陥れている。ロヒンギャ掃討から2年弱、国軍は同じラカイン州で再び、複数の少数民族の人権を侵害している。
アムネスティは3月下旬、ラカイン州の少数民族の住民81人に聞き取りをした。紛争地の人には電話などで、紛争地以外では直接、接触した。彼らは、民族的にはラカイン、ムロ、ロヒンギャ、カミに分かれ、宗教的には、仏教、キリスト教、イスラム教のいずれかを信仰する。また、人道機関の職員や活動家らの話も聞き、写真や衛星写真などでも検証した。
ラカイン州のラカイン民族社会が、政治への不満を募らせる中、アラカン軍には、同州のラカイン民族主義の若者およそ7000人が参加する。2009年に設立されたアラカン軍は、ミャンマー北部で他の民族武装集団と共に行動する。ここ数年は、ラカイン州や隣のチン州で国軍との間で散発的な衝突を繰り返してきた。
繰り返される国軍の残虐行為
国軍の軍事作戦には、一昨年のロヒンギャ掃討作戦を担った部隊に加え、別の部隊も参加している。
攻撃は、無差別攻撃もあれば直接市民を狙った攻撃もあった。攻撃を受けて、子どもを含む住民14人が死亡し、29人以上が負傷した。
迫撃砲による攻撃では、家屋が破壊され、少なくとも村人4人が死亡した。 家屋が破壊された様子は、衛星写真で確認できた。
ラカイン民族だけでなく、ロヒンギャの人びとも国軍の攻撃を受けた。ヘリからのロケット砲攻撃で、少なくともロヒンギャ6人が死亡、13人が負傷した。
民間人に対する直接攻撃・無差別攻撃は戦争犯罪である。
国軍は、仏教遺跡で知られるミャウーの古代遺跡群の中に陣取り、無差別攻撃を加え、遺跡も破壊した。歴史的建造物の破壊行為は、国際人道法違反である。
アムネスティはまた、ラカイン州で1月以降、国軍が7人を拘束したことを確認した。いずれも戦闘員年齢に達するラカイン民族の男性で、拷問でアラカン軍の情報を引き出すためだ。
さらに2月中旬、ムロ1人、ラカイン5人の計6人が、国軍に拘束されて以降、消息が途絶えた。
一連の軍事作戦で、自宅を追われた住民は3万を超え、食糧や医薬品などに事欠く厳しい状況に置かれている。当局が、人道支援を認めないからだ。
ラカイン州の人びとは、国軍の襲撃とその後の国の対応で、かつてない被害を被った。しかし、政府は今回も、人びとが直面する深刻な危機について、沈黙を守り続けている。
アラカン軍の人権侵害
ラカイン軍側も、拉致などの形で人権侵害を犯している。
2月、近隣のチン州の村で子どもを含む男女53人を拉致し、ラカイン軍の拠点に移動させ、荷運びや施設づくりをさせた。脱出できた2人を除いて、他の被害者の安否は、不明のままだ。
ラカイン軍は時には、戦闘の際、村民を巻き込むことがあった。また、村の幹部らに、脅迫まがいの文書を送りつけるなどして、自分たちの行動への口出しを封じた。
制限される表現の自由
国軍の攻撃がメディアなどで取り上げられると、当局は批判封じのために、地元の報道機関3社の編集者を刑事告発した。
政府は5月、国際社会の批判を受けてロイター記者2人を釈放したばかりだが、メディアへの弾圧姿勢は今もって変わっていないことがわかる。
アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟政権は、国軍の対応を変える力を持つ。国会議員の過半数を占める同党は、抑圧的な法律の廃止・改正に動くべきである。
今こそ国際的圧力を
国軍が1年半前、ロヒンギャの人びとに人道に反する罪などを犯したことで、90万人を超えるロヒンギャが国外に逃れ、バングラデシュでの難民生活を強いられてきた。国軍による住民への襲撃が続く状況では、ロヒンギャ難民の安全な帰国は期待できない。
国連は今こそ、国軍の数多の残虐行為に対し措置を講じ、圧力を強化する必要がある。
国連事実調査団は、人道に対する罪、戦争犯罪、集団虐殺に関与したとされる国軍幹部を取り調べ、裁判にかけるよう求めた。
アムネスティは、国連安全保障理事会に対し、直ちにミャンマーの状況を国際刑事裁判所(ICC)に付託すること、および、武器の全面的輸出禁止を課すことを求める。
ミャンマーと取り引きする国は、軍の指導者との関係を見直し、EUやASEANなど地域機構を通じで国軍幹部が関わる輸入を停止すべきである。
国際社会はこれまで、国軍の卑劣な戦争犯罪をやめさせず、市民の保護に手を打ってこなかった。安保理は、このような事態に対応するために設置されたのであり、今こそ、その本領を発揮すべきである。
アムネスティ国際ニュース
2019年5月29日
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