ギリシャ:コロナ危機 緊縮財政がもたらした医療崩壊

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2020年5月13日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:ギリシャ
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(C) Hospital Clinic Barcelona
(C) Hospital Clinic Barcelona

新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)の中、ギリシャでは長年にわたる不況と緊縮財政政策のあおりを受け、医療制度が破綻寸前に陥っている。

多くの市民は、収入減で医療費を払えず、医者にかかることができない状況にある。一方、医療従事者によると、医療現場では人手がまったく足りず、コロナ感染でさらに深刻化しているという。

2008年の世界金融危機への対応として、ギリシャは2010年、緊縮財政政策を導入した。公共予算は、全部門で一律32%削減され、2009年から2017年までの公的医療関係費は、43%近くまで削減された。その結果、医療費の大部分が患者負担になった。

10年にわたる緊縮財政は、EUの諸機構、国際通貨基金(IMF)、ユーロ圏諸国が融資条件としてギリシャに要求したものだった。その結果、公的医療制度は急激な機能不全に追い込まれた。今、医療機関の人手と機器の不足がトップニュースとなっているが、実は何年も前から悪化の一途を辿っていたのだ。

さらに、債権国・機関がまとめたギリシャ支援条件には、医療制度の劣化を引き起こした緊縮財政を後押ししたり、同政策に影響を及ぼしたりする要件が入っていた。引き締めは強化され、そのしわ寄せは医療従事者や患者に重くのしかかってきた。

政府は、今回の危機を重大な警鐘と捉え、公的医療制度の再建に向けた資金投入に着手すべきである。

アムネスティは、患者75人と医療従事者55人に話を聞いた。聞き取りをした患者の9割が病院で極端に長く待たされたと語り、また医療費高騰で通院が難しくなった人も多かった。

彼らは口々に、「お金がなければ、病院へは行けない」「緊急じゃなければ、痛みを我慢するしかない」「金融危機のツケが、低所得者や労働者に回ってきた」などと語った。税金を払い、社会保険料を払ってきた彼らの理不尽な思いが滲み出ていた。

ギリシャで最初のコロナ感染者が報告されたのは、2月だった。4月初旬、ある医療従事者はアムネスティにこう語った。「金融危機で医療費が削減され、多くの病院で人員は半分になった。感染者が増えれば、医療機関はパンクする」

医療制度の諸問題を認識した政府は、コロナ対策としてロックダウン(都市封鎖)などの緊急措置を急いで打ち出し、感染者と死者の数を最小限に抑えてきた。政府はまた、市民に対する経済的支援策を実施し、医療費には2億ユーロ(約230億円)を追加計上した。

緊縮財政による医療現場の問題は、パンデミックで悪化し、医療従事者自身の健康や労働環境が、危ぶまれる事態になっている。

経済危機と緊縮財政で、特定の人びとに偏っていたしわ寄せが、コロナ危機で、さらにその傾向が強くなっている。

一方、疲弊しきった公的医療制度の中で迎えた今回のパンデミックでも、医療従事者たちの奮闘ぶりが、際立っていることを忘れてはならない。

パンデミック後の世界経済の落ち込みが危惧される中、ギリシャの経験から学ばなければならないことがある。ギリシャの10年間の苦い経験を繰り返してはならないということ、そして緊縮財政では人権に悪影響を及ぼす策を選択してはならないということである。

アムネスティ国際ニュース
2020年4月27日

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