ギリシャ:難民船沈没で食い違う証言 人権本意の調査を

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2023年8月17日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:ギリシャ
トピック:難民と移民

ギリシャ南部の港町ピロスの沖合での遭難事故をめぐり、救助された人たちとギリシャ当局の証言が大きく食い違っていることから、第三者による公正な調査が緊急に必要なことが浮き彫りになっている。

6月14日、およそ750人を乗せた漁船アドリアナ号が、ピロス沖で沈没した。104人が救助されたが、そのうちの数人の証言によると、漁船はギリシャの沿岸警備艇にえい航されてから沈没し、多数の死者が出たという。ギリシャ当局はこれらの主張を強く否定している。

アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは7月4日から13日の間にギリシャで漁船沈没と救助の状況を調査した。聞き取りでは、生存者19人、行方不明者の家族4人、非政府組織、国連や国際機関、ギリシャ沿岸警備隊と警察の幹部らに話を聞いた。

2団体は、漁船が沈没するまでの状況について信頼できる複数の情報筋から懸念すべき情報を得ていたが、初期調査でその懸念が裏付けられた。

聞き取りをした生存者全員が、「現場に派遣された沿岸警備隊が漁船のえい航を始めると漁船が揺れだし、やがて転覆した」と話した。また、「乗船者はずっと救助を求めていたし、転覆の数時間前には衛星電話で救助を訴えている人たちもいた」とも語った。

一方、沿岸警備隊の幹部によると、ボートに乗っていた人たちは食料と水だけを求めただけで、イタリアに向かう意向を示し、漁船は航海を続けたという。

警察当局は、密輸業者とされる人物の捜査と沿岸警備隊の対応に関わる捜査を始めた。いずれの捜査も公平性、独立性、有効性という国際人権基準に準拠することが極めて重要だ。また、司法捜査の信頼性を高めるためには、刑事捜査を最高裁検察局の監督下に置くべきだ。

数人の生存者によると、当局は携帯電話を押収したが、押収したことを示す文書を作成せず、いつどこで押収品を受け取るのかについての説明もなかった。

ギリシャ当局は長年、国境での暴力的で違法な押し戻しに対する説明責任を果たしておらず、公正な捜査をする意欲と能力が疑問視されている。 沈没後の対応については、2014年の転覆事故での欧州人権裁判所の判決に学ぶべきものがある。

当時救助された人たちは、ギリシャ沿岸警備隊がトルコ領海にえい航する際、操船に問題があったために自分たちの船が転覆したと主張した。同裁判所は、ギリシャ当局の救助活動での失策と被害者の証言の取り扱いなどでの捜査上の不手際を非難した。

今回の漁船の沈没事故の捜査では、船の沈没原因と救助活動の遅れや過失の可能性の両面で救助当局の責任を明らかにする必要がある。

通信記録や動画、写真など事故当時の状況を知る手助けになる物品を押収し検証すべきだ。一方、携帯電話などの物品は一定期間に所有者に返却が不可欠だ。

ギリシャ沿岸警備隊や欧州国境沿岸警備機関(フロンテックス)、救助に参加した漁船の船長や乗組員など沈没当時の様子を知る人たちには、捜査への協力が求められる。

ギリシャ国内での捜査と並行する形で、EUオンブズマンは、今回の難破船への対応を含む地中海での捜索救助活動でのフロンテックスの役割について関係機関の考えを調査すると発表した。

アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは、今回の沈没事故をめぐる対応の調査を続け、被害を受けた人たち全員の正義を求めていく。

避けられたはずの今回の悲劇は、移民・難民に対する人種的排除と排除時の死者の発生を前提とするEUの移民政策が破たんしたことを示している。

地中海で起きている多数の悲劇に終止符を打つために、EUは国境政策を海上での救助と難民・移民の安全で合法的な入国手段の提供に方向転換すべきだ。

背景情報

フロンテックスによると、6月13日の朝方、フロンテックスの偵察機が漁船アドリアナ号を発見し、ギリシャとイタリアの当局に通報した。その後、フロンテックスが漁船と交信した。6月14日早朝、漁船は転覆した。その後、救助されたのは子ども数人を含むわずか104人だった。

その後、救助されたうちのエジプト人9人に逮捕命令が出た。密輸、組織犯罪へ参加、殺人などだった。

現在、沈没船の状況とフロンテックス隊員による処罰の対象となりうる犯罪についての予備調査が実施されている。アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは、フロンテックス隊員の対応への懲戒調査に関する情報を求める書簡をギリシャの海事・島嶼政策担当大臣に送った。

アムネスティ国際ニュース
2023年8月3日

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