日本:香港の国家安全法の制定に関する要請書

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2020年6月26日
[公開書簡]
国・地域:日本
トピック:表現の自由

2020年6月26日

外務大臣 茂木 敏充 殿

公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
事務局長 中川 英明

 

 

香港の国家安全法の制定に関する要請書

 

6月17日のG7外相声明において、日本もその一員として、中国が計画している香港への国家安全法導入について重大な懸念を表明されたことを歓迎いたします。また、表現の自由や集会、結社の自由など基本的人権が尊重されるよう、そして、香港だけでなく世界の人権状況の改善のために、国連人権理事会の理事国として日本が建設的な役割を引き続き果たすことを期待いたします。

6月30日頃には発効するとも言われている香港国家安全法については、特に次の3つの課題が解決されなければ基本的人権の侵害につながるのではないかとの深刻な懸念を私たちはもっています。

 

  1. 表現の自由がどのように保護されるのかが不明瞭

    中国政府が6月20日に発表した、香港国家安全法についての「説明」によれば、国際人権規約や香港基本法に規定されている人権は、尊重され、保護される、とありますが、その保護がどのように実現されるのかが不明瞭です。特に、香港が批准している自由権規約第19条に規定されている表現の自由が侵害される懸念があります。同条の規定によれば、表現の自由についての権利の行使については一定の制限を課し得えますが、そのような制限ができるのは、法律で定められたものであり、かつ、(a) 他者の権利または信用の尊重、( b)国の安全、公の秩序または公衆の健康もしくは道徳の保護という目的のために必要な場合に限られます。また、国家そのものの存続や領土の保全が、武力行使や武力による威嚇によって危ぶまれる場合にのみ、 「国の安全」を保護するためという名目で表現の自由への制限は正当化されます。中国が制定しようとしている法律に明確な規定がなく、表現の自由がどのように保護されるのかが不明瞭なままでは、治安に対する脅威を防ぐという一方的な目的の達成のために、あるいは国家の考えと異なる政治的意見を表明しただけで、表現の自由が制限されてしまうことにつながるのではないかとの懸念があります。
     
  2. NGO などの人権活動が不当に制限されてしまう懸念

    中国本土で2015年に国家安全法が施行されて以来、弁護士、学者、ジャーナリストやNGO職員を含む多くの市民が、「国の安全」を脅かす違反行為をしたとされ不当な有罪判決を受けており、その中には外国籍の市民も含まれています。アムネスティ・インターナショナルは、市民の人権活動を抑制するための言い訳として、中国の国家安全法が体系的かつ広範囲に乱用されている事実を明らかにしています。中国政府が香港に導入しようとしている国家安全法では、中国本土の国家安全法と同様に、「国の安全」を脅かすとされる違反行為があいまいに定義され、香港市民のみならず日本人など外国籍の市民による人権活動も不当な取り締りを受けるおそれがあります。
     
  3. 国の安全に関わる新しい組織体制によって市民の人権が侵害される懸念

    香港の国家安全法の下で新設が計画されている「香港特別行政区国家安全維持委員会」および中国政府の出先機関「国家安全公署」による、反体制派の個人に対する人権侵害が懸念されます。
    中国本土では、人権活動に取り組む市民や反体制派に対する中国政府機関の組織的な監視、嫌がら せ、脅迫、拘束が行われていることが明らかであり、拷問やその他の虐待行為の兆候も見られます。
    このような人権侵害を繰り返してきた中国政府によって「香港特別行政区国家安全維持委員会」や 「国家安全公署」が香港に設立されることは、人権活動に取り組む市民、メディア、反体制派だけでなく、一般の香港市民全てにとっても脅威となります。香港は自由権規約を批准していますが、中国政府はまだ批准していません。これらの新設機関は、自由権規約や香港基本法に規定されている国家の義務から逸脱してしまうおそれがあります。

 

上述の人権課題の克服に向けて、貴省が引き続き建設的な役割を果たされることを期待いたします。
特に、中国政府及び香港特別行政区に対して、次の3点を引き続き求めてくださるようお願い申し上げます。

  1. 香港国家安全法の規定が国際人権法に依拠するものとなるように改められない限り、香港国家安全法の導入計画は撤回すること。
  2. 表現の自由などの人権を平和的に行使するための手段については、「国の安全」を脅かす違反行為にはあたらないと香港国家安全法など関係する法令に明記すること。
  3. 香港国家安全法について議論するための開かれた討議の場を設けること。

以上