ミャンマー(ビルマ):グローバル企業 国軍の人権侵害に関係

  1. ホーム
  2. ニュースリリース
  3. 国際事務局発表ニュース
  4. ミャンマー(ビルマ):グローバル企業 国軍の人権侵害に関係
2020年9月10日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:ミャンマー(ビルマ)
トピック:ビジネスと人権

少数民族に対して国際法上の罪や人権侵害を犯しているミャンマー国軍の資金調達に、グローバル企業が関係していることが、アムネスティの調査で明らかになった。

アムネスティが入手した文書によると、国軍は、ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)の株を保有し、巨額の資金を得てきた。MEHLは、鉱業、ビール、タバコ、衣料品などの製造、銀行業など営む複合企業だ。日本のキリンビールホールディングスや韓国の鉄鋼大手POSCOなど国内外の多数の企業と提携関係にある。

同社の株主資料によると、国軍の複数の部隊が、株式のおよそ3分の1を保有し、1990年の創業以来毎年、配当を受け取ってきた。また、同社の取締役会は、国軍の幹部で構成されている。

これらの資料は、国軍がどのようにして巨大企業から利益を受けてきたかを示す新たな証拠だ。MEHLは、あずかり知らないところで国軍の人権侵害を資金面で支えているのではない。両者は、切っても切れない関係にあるということだ。

MEHLの事業活動から利益を得ている軍人の中には、ミャンマーの近年の歴史の中で最悪の人権侵害の加害者もいる。例えば、ロヒンギャの人びとに対する民族浄化作戦を指揮した国軍トップのミンアウンフライン総司令官は、2011年にMEHL株を5,000株保有していた。

議論の余地のないこの証拠を前に、MEHLと提携する企業は、同社との関係を断たざるを得ないだろう。

グローバル企業とMEHLとの結びつき

アムネスティの調査で、MEHLの提携企業と国軍による人権侵害との間には、直接的な関係があることがわかる。

MEHLは提携先と合弁事業を起こしたり、収益分配契約を結んだりする。その事業収益が、株主であるMEHLに還元され、さらにMEHLの株主に分配される。

アムネスティは、MEHLと提携する次の8社に質問状を送った。

エバーフローリバー・グループ(EFR)(ミャンマーの物流企業)、カンボーザ・グループ(ミャンマーの複合企業)、キリンホールディングス(日本の飲料メーカー)、イノ・グループ(韓国の不動産ディベロッパー)、パン・パシフィック(韓国の衣料製造輸出会社)、ポスコ(韓国の鉄鋼メーカー)、RMHシンガポール(シンガポールの投資会社・ミャンマーでたばこ事業に出資)、万宝鉱業(中国の鉱業会社)だ。

前向きな回答を返したのは3社だけだった。

パン・パシフィックは、「アムネスティの調査と昨年の国連事実調査団の報告を受け、MEHLとの事業提携を解消する手続きを進めている」と回答し、カンボーザ・グループとキリンホールディングスの2社は、「提携関係を見直している」と答えた。

残る5社は、具体的な対応に触れなかったか、回答そのものを送ってこなかった。回答の全文(英文)は、調査報告書で見ることができる。

8社はすべてMEHLと提携してミャンマー国内で事業展開しているが、国際的に知られる企業もいくつかある。キリンホールディングスは、世界のビールメーカーの一角を占め、その商品は、キリン、サンミゲル、ライオン、ファットタイヤなどのブランドで世界の街角で販売されている。ポスコは世界最大級の鉄鋼メーカーで、自動車、建設、造船業界向け鋼材を生産する。

軍とMHELの隠された関係

MEHLは、1990年にミャンマーの軍事政権により設立され、今も、軍人・退役軍人により所有・経営されているが、国軍や軍人が実際の経営にどう関わっているかは、ベールに包まれている。

アムネスティは、MEHLから国軍への資金の流れに関する新たな事実を示す文書2点を入手した。1点目は、MEHLが今年1月、ミャンマー投資企業管理局に提出した書類だ。この文書によると、同社の個人株主は38万1,638人で、全員が軍人・退役軍人だ。「機関株主」は1,803で、小隊、大隊、師団、戦争退役軍人協会などだ。

2点目は、2010年度(2010年4月~2011年3月)の株主に関する機密文書だ。ここには、株主の個人情報と彼らが設立年から2011年までの20年間に受け取った配当金が記載されている。

この文書は、アムネスティとジャスティス・フォー・ミャンマー(JFM・正義と説明責任を求める同国の活動グループ)が、共同で入手した。同文書の内容はJFMのウェブサイトに掲載されていたが、9月1日、当局により閲覧できなくなった。運輸・通信省は、「このウェブサイトが、フェイクニュースを拡散させている」と主張するが、JFMは、「批判意見の封じ込めだ」と批判した。

2011年までの20年間で支払われた配当金の総額は、1,070億ミャンマーチャット(約18億米ドル※・当時の公定レート)を超える。このうち、950億ミャンマーチャット(約16億米ドル)が、国軍の部隊に送金されている。

2点の資料は、国軍の部隊と幹部がMEHLの株主として名を連ね、多額の資金を受け取っていたことを示す動かぬ証拠だ。

例えば、2010年度の報告書で、ラカイン州での軍事行動を指揮する西部司令部下の95の部隊が、それぞれ株主として登録され、430万株以上を保有し、12億5,000万ミャンマーチャット(約2億800万ドル)以上の配当を受け取っている。

また、株主として登録されている部隊の中には、アムネスティの調査で、ラカイン州でのロヒンギャ虐殺、カチン州、シャン州北部での戦争犯罪への関与が判明した2師団も、入っている。

ミャンマー投資企業管理局への報告書にも、戦争犯罪に関わった幹部を含む司令官らの名前が株主として記載されている。

ロヒンギャの人びとへの集団虐殺などを指揮したとして国連が調査・訴追を要請している、ミンアウンフライン総司令官もその一人だ。2010年度に5,000株を保有し、150万ミャンマーチャット(約25万米ドル)の配当金を受け取っている。

軍部隊が受け取った配当の使途は知る由もないが、金額の規模と継続性からすると、軍の維持費に使われた可能性が高い。

MEHLは、株主への配当という形で国軍に資金を提供し、人道に対する罪や戦争犯罪の軍事行動を資金面で支えていると言える。

同社と関わるすべての企業は、国軍の人権侵害に加担するリスクを背負っているのであり、早急に同社との関係を断つ手続きを進めなければならない。

MEHL内で取締役会を監督する「後援者グループ」に人権侵害に関わった当の将校らが入っていることからしても、MEHLが自ら組織改革に乗り出すことは期待できない。提携企業に対して改革に向けた姿勢も見せず、透明性のある関係構築を進める気もない。

提携各社には人権を尊重し、MEHLとの事業展開の先にある人権への悪影響を防止・軽減する責任がある。MEHLが改革に消極的であることを考えれば、MEHLとの関係を見直し、関係を解消すべきだ。ミャンマーの社会、経済、人権に対する潜在的な悪影響を正しく評価した上で、関係を断つ際には、これらの悪影響を軽減するための措置を講じることが求められる。

アムネスティはミャンマー政府に対し、軍と経済との結びつきを断ち切るための介入を要請している。その一環として、MEHLの所有と経営を徹底的に改革しなければならない。政府はまた、MEHLの収益を基に基金を設立し、国軍による人権侵害の被害者を補償する制度を作るべきだ。

アムネスティ国際ニュース
2020年9月10日

※ミャンマーでは2012年まで公定レートは固定相場制がとられており、対米ドル換算は現在と大きく異なる。

英語のニュースを読む

関連ニュースリリース