- 2020年11月 4日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:日本
- トピック:
日本の菅義偉首相は、10月26日の所信表明演説で、日本の長期的な温室効果ガス排出をゼロにする目標を発表した。これは、世界第3位の経済大国が目指すべき目標に向けた一歩だが、2050年までに実質ゼロにするという目標では、気候変動における日本の人権義務を果たす上で不十分だ。
2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議で合意されたパリ協定は、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5度に抑える努力を追求する」ことを長期目標として掲げている。気候変動のリスクや影響・対策について討議する政府間パネルIPCCは、温室効果ガス排出量が現状レベルのままなら、上昇を1.5度未満に抑えるためのカーボンバジェット(排出できる温室効果ガス量の上限)を2028年までに使い切ってしまうと予測している。ただし、2030年までに2010年比で世界で45%の排出制限ができれば、その限りではないとしている。
ただ、開発途上国に先進国と同じようなペースでの排出削減を求めるのは、理不尽な話だ。これまでに世界の排出量の3分の1ほどを排出し、多様な資源と強力な技術力を持つ富裕国は、2030年まで、あるいはできるたけ早い時期に、温室効果ガスの排出量ゼロを達成する必要がある。カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロの状態)に到達するのにあと30年もかかるというのでは、開発途上国に過度の負担をかけるだろう。また、気候変動の危機による人権への影響を軽減する上でも不十分だ。人権への悪影響は、日本を含む世界の国々の人びとがすでに体験している。2018年、日本では豪雨と猛暑により数百人の命が奪われ、異常気象の影響を最も大きく受けた国となった。温室効果ガス排出量に対して歴史的責任を負う他の富裕国と同様、日本は2030年をめどにできるだけ早い時期に温室効果ガス排出量をゼロにすべきである。
今回の所信表明演説では、「長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換する」という重要な公約が示されたが、エネルギーミックス(発電方法の組み合わせ)で引き続き大きなシェアを占めている石炭、石油、ガスの段階的な利用削減の時期については触れられなかった。化石燃料の段階的低減を含む排出を回避・削減する対策は、炭素の回収・除去(ネガティブエミッション)の仕組みに頼る以前に優先的に取り組むべきだ。ネガティブエミッションの効果は、まだ科学的に実証されておらず、短期的には、何百万人もの人権を危うくする可能性がある。たとえば、炭素の回収・貯蔵システムを用いたバイオ燃料は、広大な土地と大量の水を必要とするため、強制立ち退き、食料や水の不足、利用料金の上昇などの問題を引き起こしかねない。
パリ協定の目標達成に向け、各国は温室効果ガス削減目標や対策案を国連気候変動枠組条約事務局に提出している。しかし、国連環境計画によれば、その総削減量は、気温上昇を1.5度に抑えるという目標達成に必要な削減量の5分の1に過ぎない。各国は2020年12月31日までに目標を引き上げて再提出することが要請されているが、締め切りが迫る中、富裕国でより野心的な国別目標を打ち出したのはほんの一握りにすぎず、日本もまだである。
日本の関係当局は、政権が示した意志を長期的な目標だけでなく短中期的目標にも反映し、より野心的な取り組みに落とし込むべきだ。パリ協定の下での日本の2030年国別目標は、1.5度目標に向けた責務からは大きくかけ離れており、化石燃料の明確な段階的利用停止時期を含め、野心的なものに改めた目標を速やかに提出することが求められている。そのためにも日本は、海外の化石燃料プロジェクトへの融資を例外なく直ちに停止しなければならない。また、2030年までの石炭火力発電の全廃に向け、期限を定めた段階的な利用停止を早急に開始すべきだ。また、その計画を来年半ばに公表する次期エネルギー計画に盛り込む必要がある。同時に、脱炭素経済と強靭な社会への移行が、国の人権義務に照らして公正かつ公平であり、社会の格差をなくす機会を作り、性別、階級、世代間の平等を促進し、人権が十分享受されるようにすることを保障すべきだ。
アムネスティ国際ニュース
2020年10月29日
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