中国:香港国家安全維持法が生む人権の危機

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2021年7月 1日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:中国
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(C) AFP/Getty Images
(C) AFP/Getty Images

中国主導の香港国家安全維持法(国安法)の施行からちょうど1年、香港では、市民の自由が奪われ、人権保護が日に日になおざりにされる事態に陥っている。 国安法は、批判的人物を不当に取り締まる自由裁量を当局に与え、危険視された人物の権利を奪ってきた。

この1年で、香港は警察国家に急激に変貌し、香港で暮らす人たちが人権の危機にさらされる事態になっている。

同法は、政治から文化、教育、メディアに至るまで、香港社会のあらゆる分野に深刻な影響を与える一方、疑心暗鬼になった市民の間では、発言やソーシャルメディアの投稿、行動の場で自己検閲する風潮が強まっている。

適用対象が広範で抑圧的な法律が施行されてから1年、いずれ香港も中国本土と同様に人権の焦土と化してしまう懸念が拭えない。

アムネスティは、裁判所の判決、法廷審問、国安法違反で取り調べを受けた活動家らへの聞き取りなどをもとに、国安法がどのように運用され、人権侵害のまん延を招いているのかを分析した。

香港政府は、検閲、嫌がらせ、逮捕、起訴を正当化するために繰り返し国安法を持ち出してきた。同法が規定する人権保護措置が、事実上機能しないことを示す明らかな証拠であり、既存の香港基本法が定める保護措置も風前の灯になった。

保釈取り消しは公正な裁判を受ける権利の侵害

国安法施行の翌日、昨年7月1日には、当局は、国安法に抗議する市民300人以上を拘束した。そのうちの10人は、国安法違反の容疑で逮捕された。この取り締まりを皮切りに、当局は、表現の自由、集会・結社の自由の権利を行使したというだけで、市民の逮捕・起訴を繰り返してきた。

さらに問題は、同法違反で訴追されれば、実質的に有罪と推定されてしまうことだ。つまり、「国家の安全に危害を及ぼす」行為を繰り返さないことを立証できない限り、保釈が認められない。その結果、勾留が長期化する。実際、被告人の70%は保釈を認められず、現在も勾留が続いている。無罪推定は、公正な裁判を受ける権利に欠くことのできない原則だ。

当局は次の2点でも国安法を利用している。

  • 国境を越えた政治的な主張に対する摘発:他国の外交官と接触したり、中国への制裁を求めたり、迫害から逃れる人たちを庇護するよう他国に求めたことが、外国勢力との共謀や共謀準備にあたるとして、12人に逮捕状が出された。また、ソーシャルメディアの投稿や海外メディアの取材に応じたために対象となった人たちもいた。
  • 警察当局の権限の拡大:民主派メディアのリンゴ日報に対する2度にわたる家宅捜索に見られるように、香港警察の国家安全部に家宅捜索や資産の凍結・没収、資料の押収などの権限を与えている。権限の抑制が機能しなければ、捜査中に発生しがちな人権侵害を未然に防ぐことは極めて難しくなる。

香港政府は、自由の制限を徹底するために、「国家の安全に危害を及ぼす」という、過度に曖昧で、どのようにでも解釈できる法律の適用をやめなければならない。まず、人権を行使しただけで起訴された人たちの容疑をすべて取り下げるべきだ。

また国連にも、香港での国安法が引き起こしている問題含め、悪化の一途をたどる中国の人権状況について、緊急協議を開始する責任がある。

背景情報

国安法は、中国の全国人民代表大会常務委員会において全会一致で可決され、香港での議論がないまま、昨年6月30日、成立・施行された。同法は、国家分裂、国家転覆、テロ、外国勢力と共謀して国家の安全に危害を及ぼす行為を取り締まる。

中国政府の方針に沿った「国家の安全」の定義はあまりにも広範で、明確さに欠け、何をしたら処罰されるのかもわからず、表現の自由、平和的な集会、結社といった人権の制限や政府批判や政治的な反対勢力の抑圧に利用されている。

国安法は犯罪定義があいまいで、恣意的に適用されるため、いつ、どういう場合に違法になるのかを知ることは事実上不可能で、市民の間では、施行当初から当局への警戒心が広がっていた。

昨年7月1日から今年6月23日までで、国安法違反の容疑で逮捕状が出されたのは、少なくとも118人で、6月23日時点で64人が起訴され、うち45人が勾留されている。

アムネスティ国際ニュース
2021年6月30日

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