中国:越境弾圧 留学生への監視・嫌がらせ

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2024年6月11日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:中国
トピック:表現の自由

中国から数千キロも離れた国々に留学している中国や香港の学生は、母国への批判的発言に神経質な中国当局による監視、嫌がらせ、脅迫などに怯える日々を送っている。抗議活動に参加しているところを撮影されたり、尾行されたりすることもある。また中国にいる留学生家族の多くが、警察から脅しを受けているという。

学生は、留学中の大学構内の廊下や教室でも中国当局から嫌がらせを受けることがある。留学生への当局の対応は、自由な意見交換を重んじる学問の自由への重大な脅威となっている。

各国の政府と大学は、中国に対して厳しい措置を取るべきだ。

「あなたは監視されている」

アムネスティは、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、オランダ、スイス、イギリス、アメリカの8カ国で学ぶ中国人留学生32人(うち香港人12人)に聞き取りをした。

天安門事件(1989年)の追悼集会に参加した女子学生の1人は、集会から数時間も経たないうちに、中国にいる父親から連絡を受けた。父親は「国の評判をおとしめるような集会に参加しないように娘を教育しろ」と当局に告げられたという。

女性は集会に参加する際、名前や素性を一切明らかにしていなかった。にもかかわらず、当局は女性の身元や父親の連絡先を突き止め、父親が警察の警告を受ける事態になった。女性は中国当局の対応とその速さに驚きを隠さなかった。女性はアムネスティに「中国当局のメッセージは、『お前は監視されている。地球の反対側にいても当局の監視から逃れることはできない』であることははっきりしています」と話した。

監視や検閲 家族も標的に

中国当局はここ数年、国外での天安門事件の追悼集会や香港の民主化デモ(2019年)に参加する中国人留学生に圧力を加えてきた。アムネスティは当局のこの対応を「越境弾圧」と呼び、人権侵害とみなしてきた。

アムネスティが聞き取りをした32人のうち、3分の1近くの学生は、中国にいる親が当局から娘や息子が中国批判をしないよう求められた。パスポートのはく奪、失職、退職金の受け取り妨害、身体の自由の制限などの脅しもあった。留学中の娘や息子への仕送りをやめるよう要求された事例は、少なくとも3件あった。

数人の学生は、「中国当局や代理人の監視を受けているようだ」と話した。抗議活動に参加している時の写真や動画を当局に撮られたという学生も何人かいた。撮った相手の身元を知る手がかりはないということだったが、聞き取り調査で得た情報から学生たちの証言には信憑性があった。

多くの中国人学生にとって、海外留学は国内の政治や教育の制約を受けずに学び成長する機会を約束するが、今回の調査で国外にいても政府の監視や抑圧から逃れられない実情が明らかになった。

オンライン上の監視と自己検閲

中国にいる家族とのやり取りをする際、学生の3分の1近くが国内と同様にメッセージアプリ微信(ウィーチャット)を使っていたために、国内と同様の監視を受けていた。ドイツに留学中の学生は、抗議活動についてのコメントを微信で投稿した後、投稿がしばらくできなくなったと話していた。

キャンパスでの不安と恐怖

聞き取りに応じたほとんどの留学生は、中国当局の報復をおそれて、投稿する内容を何度か見直していた。また聞き取りをした学生の大半は授業に参加する回数を減らし、学生の3分の1が、専門科目を変えたり進学を断念したりしていた。

香港の学生は、国家安全維持法の施行後当局への恐怖心が強まったという。学生の1人は、香港当局に自身の素性を知られることをおそれ、学術上の経歴で必要な論文の発表を見送った。

聞き取りをした学生の半数以上が、ストレスから被害妄想やうつ病に悩まされた。8人の学生は、中国にいる家族や友人との連絡を取らなくなった。

多くの学生は、自身のSNSのメッセージが当局に読まれることを恐れ、他の中国人学生との距離を置いた。当局につながるホットラインの存在もSNSを控える背景にある。

聞き取りに応じた学生の半数近くが中国への帰国に躊躇し、6人は帰国時の取り調べをおそれ、政治的理由による亡命を申請するつもりであることを打ち明けた。

中国人学生の支援体制が整っていない大学

海外に留学する中国人学生の数は90万人と言われているが、これらの学生を受け入れる国や大学は、中国当局からの国境を越えた抑圧に対して学生を保護する対応を強化することが求められる。

2024年初め、アムネスティは、8カ国の55の大学に、中国の越境弾圧から学生を保護するための取り組みについて文書で照会し、24の大学から回答を得た。回答から、学生への越境弾圧の実情と弾圧を受けて萎縮する学生への理解も対応も不十分であることが明らかになった。

一部の大学は、学生の人権を支援する取り組みをしているものの、アムネスティの調査で浮き彫りになった問題に効果的に対処する上で必要な人材や方法がほとんどない状況にあった。

一方、この数週間、米国の多くの大学でパレスチナの権利を支持する学生が抑圧的対応を受け、またヨーロッパでも同様の事態がみられた。これらの状況は、学生の表現の自由と集会の権利を保護する大学側の取り組みが一層求められていることを示している。

留学生を受け入れる国や大学には学生を保護する責任がある。一方、留学生への弾圧の主謀者は中国当局であることは言うまでもない。中国当局は、越境での弾圧行為を全面的に停止し、中国人留学生が学業に専念できるようにすべきだ。

アムネスティ国際ニュース
2024年5月13日

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