シリア:悲惨な状況に留め置かれる数万人の子ども 帰還の実現を

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2021年12月10日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:シリア
トピック:子どもの権利

シリア北東部のアルホル・キャンプには、何万人もの子どもたちが自由を奪われ、命にかかわる非人道的で劣悪な環境下で過ごしている。子どもたちの出身国政府には、彼らを帰還させる意志がまるでないため、子どもたちの前途には暗雲が立ち込めている。

この2年間、子どもたちは、食糧や飲料水に事欠き、教育や医療も満足に受けられなかった。キャンプを管理するクルド人勢力の自治政体は、少年を拘束し、乳児を親から引き離し、医療機関での受診を制限するなどしてきた。児童労働や暴力・殺人などがはびこり、子どもたちの成長に深刻な影響を及ぼしている。

子どもたちの出身地はシリアやイラクはじめ60カ国以上とさまざまだ。悲惨な環境に放置され、心に傷を負い、死と背中合わせの生活を送っている。この事態を生む背景には、子どもたちの出身国が、彼らを安全な環境に帰還させる責任を放棄していることがある。

関係各国は、自国の子どもの生きる権利を保障し、彼らを速やかに受け入れるという国際上の人権義務を果たすべきだ。また、クルド人の自治政体は、シリアの子どもや母親らがシリアに帰還できる仕組みを構築しなければならない。

アムネスティは、キャンプにいた人たちを含む関係者10人に話を聞いた。

国連人権高等弁務官事務所によると、2019年、シリアで自称「イスラム国」が敗退し、その後、シリア人、イラク人、その他の国籍で、大半が女性や子どものおよそ6万人が、適正な手続きを経ないままアルホルのキャンプに収容された。

収容されたのは、程度の差こそあれイスラム国と関わりのあった人たちだが、紛争から逃れるためにキャンプに来た、イスラム国とは無関係の人たちも数千人いる。

親から引き裂かれる子どもたち

キャンプの主要部にはイラクとシリアの出身者が収容されている一方で、検問所で隔てられた別の場所(アネックス)には、両国以外からの女性や子どもが入れられている。アネックスの子どもは、さまざまな形で保護者から引き離されている。

たとえばこの1年、キャンプを管轄するクルド自治政府の警察は、12歳前後の少年たちをなんの根拠もなく、将来過激化するおそれがあるという理由で保護者から引き離し、アネックスに収容してきた。その後は、キャンプ外の「矯正センター」と呼ばれる拘束施設に少年たちを移している。そこでは食事や水が満足に与えられず、医療も不十分で、結核や皮膚病がまん延している。

アネックスの子どもが病院に行く時は、たとえ2歳児でも保護者の付き添いは認められない。また、キャンプ外の医療機関を利用する時は、人道支援団体が医師や病院を紹介するが、手続きに非常に時間がかかる。病院には、治安隊員が同行し、診察内容や容態を聞き取るが、その内容は保護者に知らされることはない。

子どもの権利条約に基づけば、すべての子どもは自由の権利を恣意的に侵害されてはならず、拘束は最終手段であり、拘束期間は最短かつ適切でなければならない。

クルド人自治政体は、不当に拘束している少年を全員、解放し、保護者から引き離されたままの子どもを速やかに親元に返し、引き離し政策をやめなければならない。

制限される移動と生計

クルド人自治政体による厳しい移動制限は、自由の剥奪にあたる。住民の証言によると、女性や子どもは、キャンプ外に出るには警察の許可が必要で、ほとんどの場合、許可は降りないという。

支援団体が物資の配給や医療を行っているアネックスのサービスエリアに行くには、女性や子どもは、警察の許可をもらい、警察が管理する検問所を通らなければならない。検問所では顔写真を撮られるため、顔を覆うベールは取る必要がある。サービスエリアに行くたびに毎回この手続きを繰り返さなければならず、女性は通院をためらい、その後、病状が悪化することもある。

男女とも仕事に就く機会は、極めて少ない。これまで自治政府は、人道支援団体による雇用を短期間、認めていたが、最近、明確な説明もなく雇用を認めなくなった。

親が収入を得る機会に恵まれない上、子どもに安全な場所や学ぶ場がなくなったことで、児童労働が増加する事態が起きている。

NGOセーブ・ザ・チルドレンの調査によると、3歳から17歳まで子どものうち教育を受けているのは、わずか40パーセントにすぎない。新型コロナウイルスで教室が閉鎖され、インターネット環境や端末の問題でオンライン授業もできず、子どもたちは学びを続けることができなくなっている。

厳しい現状と暗い先行き

住民によると、キャンプ内で暴力がはびこっているにもかかわらず、自治政府は適切な治安対策を怠り、その結果、住民の間に不安と怒りの声が広がっているという。

セーブ・ザ・チルドレンの報告でも、今年発生したキャンプ内の殺人は、発砲で亡くなった子ども3人を含めて79件で、高い犯罪率を示している。

殺伐とした状況は、すでに心の傷を負っている子どもに深刻な影響を与えている。

支援国は、人道支援団体が必要とする資金を提供し、アルホルなどのキャンプにいる子どもが、心のケアを受けられるようにすべきだ。

帰国への障害

シリア人の中には、キャンプを恒久的に出ることを認められた人もいるが、彼らが自国に戻るまでには、多くの障害がある。

シリア人がアサド政権下の暮らしに戻ることへの不安、自治政府が家族の一部の帰還を認めないために起こる家族の離散、拘束や行方不明で男性親族がいない女性の帰国へのためらい、高額な移動費の問題などだ。

また、子どもだけでキャンプを出る場合、さまざまな危険がつきまとう。武装勢力による拘束、人身売買や強制結婚、兵士への徴用などだ。そのため、これまでは人道支援団体が、キャンプを後にする子どもの警護を担ってきたが、団体の資金不足で警護ができなくなっている。

子どもたちにとって、自国への帰還はキャンプを出る唯一の方法だ。今年、イラクは帰還受け入れを徐々に始めた。しかし、ほとんどの国が、全面的な子どもの帰還には消極的だ。

アムネスティ国際ニュース
2021年11月30日

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