シリア:「イスラム国」敗北後に拘束された人たち 拷問・虐待にさらされる

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2024年5月10日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:シリア
トピック:

シリア北東部で、「イスラム国」(IS)を自称する武装組織の敗北後、ISと関わりがあったとみなされた5万6000人以上の人たちが、北東部を実効支配する自治当局に拘束され、暴力や虐待など非人道的扱いを受け、数百人が命を落とした。

拘束の体制づくりと体制維持に深く関わってきた米国は、事態の改善に向け、対応を取る必要がある。

27カ所を超える拘禁施設と2カ所の収容キャンプには、およそ男性1万1500人、女性1万4500人、子ども3万人が収容され、ISの敗北から5年以上が経った今も、解放される見通しが立っていない。

拘束されている人たちの中には、IS戦闘員との結婚を強要された女性や少女、ISに徴用されていた少年や青年、親から引き離されて拘束された子どもなどがいる。

多くが非人道的環境の中で拘束され、暴行、不自然な姿勢の強要、電気ショック、性暴力などの虐待や拷問を受けてきた。こうした扱いは、戦争犯罪にあたる可能性が高い。

拘束体制はISに関係していたとみなした人たちの権利を奪った上、ISによる犯罪の犠牲者や被害者に対する正義と犯罪の責任追及の妨げにもなっている。

シリア北東部では、ISの脅威が今も残る中で紛争が続いている。市民の苦悩は深まり、子ども世代は不正義の世界しか知らない事態に置かれている。

拘禁施設と収容キャンプに深く関わってきた米国は、この悲惨な事態を改善する上でもその役割を果たすべきだ。また、虐待と暴力の連鎖に歯止めをかけるには、自治当局、米国主導の連合軍、国連の対応が欠かせない。

米国が主導する連合軍の役割

シリア北東部で収容されているのは、シリア人やイラク人を含むおよそ74カ国の人たちで、その大半は、2019年初頭のISとの紛争時に自治当局に拘束された。

拘禁施設を管理運営する自治当局は、シリア民主軍(SDF)、SDF傘下の治安部隊、SDFの文民組織である北・東シリア民主自治局(DAANES)で構成される。

2014年、ISの壊滅を目指していた米国は29カ国からなる連合軍を組織し、戦略、計画、資源、戦闘を主導する一方、拘禁施設の改修や新たな建設を進めた。同時に米国は、SDFと傘下の治安部隊に数億ドルを拠出した。拘禁施設の環境改善や人権侵害の軽減に向けて支援をしてきたが、その支援は国際法が求める規模には程遠かった。

連合軍は、住民をSDFの管理下に置くことになった共同作戦や、拘束した人たちの第三国送還への中心的役割を果たしてきた。

一方で連合軍と国際社会は、実効性ある捜査を怠り、正義を待ち望む被害者とその家族の期待に応えてこなかった。また、拘束された人たちは何年もの間、自治当局に不当に拘束されたが、紛争下での資源に限りがある自治当局にとっては、ISの敗北で巻き添えになった人たちの拘束は大きな負担になっていた。

自治当局、米国政府、連合軍加盟国、国連は協力して、現行の拘束体制を国際法に沿った体制にする方策を立てると同時に、ISによる犯罪の責任を問う法的解決策を打ち出す必要がある。

直ちに解放されるべき人たちを、ISの被害者や子ども、高齢者、障がい者などを中心に洗い出すとともに、人権侵害を即座にやめさせ、暴力や死亡の報告に関しては独立した調査を保証しなければならない。

アムネスティの調査員は2022年と2023年、シリア北東部を3度訪れ、合わせて314人に聞き取りをした。また、自治当局と米国政府とは文書でやり取りした。

紛争で困難な状況にあるという自治当局は、「各国はそれぞれの法的、道義的な責任を果たさず、拘束されている人たちの国の政府と国際社会は、IS後の問題を自治当局に押し付けている」と批判した。

米国務省は、シリア北東部での深刻な人道的課題や治安上の課題に精力的に取り組むと回答した。また「SDFをはじめとするすべての関係者に対し『人権の擁護』を求めており、米国は『適切に審査された』SDFのグループ・個人と協力している」と説明し、「唯一の解決策は、避難民と被拘束者の母国への送還か帰還であり、権利を尊重する法的手続きにより、加害者に罪の責任を問うことができる」とした。

治安部隊施設での拷問と死

アムネスティは、シリア北東部のハサカ県アル=シャダディ市郊外にあるSDFの拘禁施設に入っていた男性8人に聞き取りをした。

8人によると、被拘禁者は定期、不定期に、殴打、鞭打ち、ストレスがかかる体位での手首からの吊り下げ、性的暴力、電気ショックなどの拷問や虐待を受けたという。過密で高温の部屋に入れられ、食料や水を与えられない中、治療を受けられない怪我人や病人など数百人が亡くなったそうだ。

入手した情報では、結核に感染した人たちへの対応はごくわずかで、この報告の時点では治療を受けられた人はいなかった。一方、米国国務省はアムネスティに、「結核などへの対応は現地関係当局と調整中だ」と説明した。

アムネスティは、SDFと治安部隊が運営する拘禁施設で、拘束されている人たちが日常的に拷問を受けている事実を確認した。聞き取りをした施設に収容されていた46人が、暴力や過酷な扱いを受けていた。その大半はシリア人で、自白を引き出すための対応だった。

拷問・虐待が横行している件に対し自治当局は「不当な扱いを受けた事実があれば対応するが、そのような情報や苦情はこれまでのところ届いていない」とコメントした。

女性、子どもの収容

2023年12月末現在、4万6600人を超える人たちが2カ所の収容キャンプに入れられ、衛生状態が悪く、食物や水にも事欠く極めて劣悪の環境に置かれている。約94%が女性と子どもだ。

被収容者はこれまで誰一人として起訴されず、裁判所で身の潔白を訴えることもできない状況が続いている。

「道徳的違反」とみなされた女性に対する暴力や性的搾取なども多発している。危険にさらされる女性を保護する仕組みもない。

数多くの女性や少女が、収容キャンプから拘禁施設に移された。ISに関わったとして有罪になった女性の多くが、拷問を受けて自白したとアムネスティに証言した。

8人の女性が、拘禁施設で拷問やジェンダーに基づく暴力を受けたという。妊娠していた女性は「『流産させるぞ』と脅され、電気ショックを受けた」と語った。性的な脅迫や屈辱を受けたと証言した女性は他にもいた。女性の中には、「子どもを置き去りにしたまま拘禁施設に移された」と証言した人たちもいた。

また、およそ1,000人のシリア人などの青少年が「更生施設」を含む拘禁施設に入れられているが、犯罪容疑で立件されたのは、10人に1人にすぎない。一方、ISとの関係を疑われて拘束され、施設に入れられる少年の数は増え続けている。

外国籍の少年たちは収容キャンプで母親や保護者から強制的に引き離され、拘禁施設に移されている。

忘れられたISの犯罪犠牲者

自治当局が、ジェノサイド(集団殺害)から生き残ったヤジディ教徒の送還に取り組んでいたにもかかわらず、ヤジディ教徒数十人がいまだ拘束されている。拘禁施設に収容されている女性や子どもたちも、ISの犯罪や人身売買の被害者だった。

外国籍の女性の1人は、だまされてISの支配地域に渡航し、結婚の要求を呑むまで女性専用のゲストハウスに監禁されたと語った。強制的に結婚させられた相手は、彼女に性的暴力やその他の虐待を加えた。

他にも27人の女性や子どもが、ISによる人身売買の被害者だと証言した。ISのために働き、戦うことを強要された少年の多くは、ISによる人身売買の被害者だが、これまでのところ、この種の被害者を特定し、保護する体制は整わないままだ。

不当な裁判

自治政府によると、この10年間で女性や子どもを含む9,600人以上の人たちがISに関わったとして有罪判決を言い渡された。いずれの裁判も、拷問や虐待で引き出された証言に基づき、または弁護人不在の中での判決で、人権無視の審理がまん延していることを示している。

夫の行動を当局に通報しなかったためにテロ容疑で有罪判決を受けた女性もいるが、女性が夫の暴力を受けていたことが考慮されることはなかった。子どもの場合は、親と話す機会も与えられないまま、起訴されることもあった。

拘束された人たちの多くに課された容疑は、戦争犯罪や人道に対する罪ではなく「テロ」容疑がほとんどで、性奴隷などISが犯した罪に問われることはなかった。

イラクへの送還

情報筋によると2022年1月、SDFとイラク当局、米主導の連合軍は、拘禁施設のイラク人男性を毎月50人、イラクに送還することで合意し、その後、イラク人男性数百人が母国に送還された。アムネスティがイラクに送還された7人について追跡調査をしたところ、7人中4人は死刑の執行を待つ身になっていた。

イラクへの送還は、自治当局と米国政府の対応が、生存権や拷問を受けない権利、国際法のノン・ルフールマンの原則(迫害のおそれのある国への難民送還禁止)にも違反するおそれがある。

調査方法

アムネスティは、シリア現地とリモートでの聞き取りを実施し、かつて拘束されたか、現在拘束され、ISとつながりがあるとみられる126人と自治当局者39人、シリア内外のNGO職員53人、国連関係者25人に話を聞いた。

アムネスティ国際ニュース
2024年4月17日

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