アフガニスタン:タリバン政権下で行き場を失うジェンダー暴力の被害者

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2021年12月14日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:アフガニスタン
トピック:女性の権利

アフガニスタンではタリバンによる政権奪取以来、ジェンダーに基づく暴力の被害者のシェルター(避難場所・保護施設)や被害者への支援が、大幅な減少や縮小を余儀なくされ、被害女性・少女が逃げ場を失っている。

アムネスティが聞き取りをした暴力の被害者やその支援者らの話から、タリバンはシェルターを閉鎖に追い込み、一方で暴力の加害者を含む囚人を釈放していることがわかった。その結果、多くの被害女性らだけでなく、シェルターの職員や被害者を支援する弁護士、判事、政府職員らが今、身の危険に直面している。

被害女性は社会から見捨てられ、支援者のネットワークは崩壊し、ほとんどのシェルターが閉鎖に追い込まれている。

タリバンが囚人を釈放する際、性暴力の加害者が被害者やシェルター職員らに及ぼす危険をまったく考えなかったとは、信じがたい。

タリバン政権は、女性・少女を保護するためにシェルターと被害者の保護や支援の再開を認め、女性課題省を復活させ、シェルター職員や支援者らが報復をおそれることなく職務を果たせる環境作りに取り組まなければならない。

また国際社会には、被害女性の保護や支援活動への長期的な資金提供、被害者やシェルター職員らの安全確保、女性への義務を果たすべきタリバン政権への働きかけなどが、求められている。

11月26日と29日、タリバンの報道官はアムネスティに 「イスラム教では、女性への暴力は決して許されない。家庭内暴力を受けている女性は、裁判所に訴えれば対処される」と話した。

支援ネットワークの崩壊

タリバン政権以前は、被害者の多くが、各地のシェルターや法的支援、治療、社会心理的支援などを利用することができた。被害女性は、女性課題省や人権委員会、あるいは各地のシェルター、医院、警察などを通じて、保護や支援を受けることができた。

十分とは言えなかったが、毎年数千人がこのネットワークを利用した。国連アフガニスタン支援ミッションによると、アフガニスタンではこれまで、女性10人中9人が、夫や親から何らかの形の暴力を受けていた。

聞き取りをしたシェルター幹部や職員によると、最も多い暴力は、殴打、強かん、強制結婚などで、被害者の多くは、緊急の医療措置を必要としている。指の爪を剥がされた、バールで皮膚を剥がされたという事例もある。

タリバン政権発足後、支援ネットワークは崩壊した。シェルターは閉鎖に追い込まれ、多くの場合、タリバンのメンバーに略奪され、占有された。職員がタリバンから嫌がらせや恐喝を受けることもある。

シェルターが閉鎖され、職員は、多くの被害女性・少女に帰宅を促さざるを得なくなった。被害者が家族に無理矢理連れ戻されることもあった。路上などの危険な場所でシェルター職員と寝起きを共にするケースもある。

1人の女性は、日常的に夫や兄弟から暴力を受け、シェルターに駆け込んだ。タリバン政権になり、他の仲間数人とシェルターを出て身を隠してきた。「着の身着のままで、寒いし、空腹のまま寝ている。夫たちはシェルターの閉鎖を知っているから、私たちを捜しているに違いない」と怯える。

被害者とともに身を隠しているシェルター幹部は、「私たちが暮らせる場所がない。外には出られない。本当に恐ろしい。どうかここから連れ出してほしい。そうでなければ、私たちが殺されるのを待つしかない」と訴えた。

野に放たれた暴力加害者

タリバンは政権奪取後、刑務所の囚人を釈放した。その多くがジェンダーに基づく暴力の加害者だった。目撃者らの証言や報道によると、タリバンのメンバーが釈放を指示したという。タリバンの報道官はアムネスティに、タリバンによる釈放を否定し、釈放したのは、前政権だと主張した。

タリバン政権に先立つ1年で、ジェンダーに基づく暴力の加害者3千人以上の有罪判決に関わった法律の専門家は、アムネスティに「タリバンは侵攻する先々で囚人を釈放した。想像できますか。1カ月間に3千人以上ですよ」と怒りをあらわにした。

また、アムネスティが入手した信頼できる情報で、タリバンが被害者の一部を拘束施設に送り込んでいることもわかった。

暴力被害者の支援者が求める保護

被害者を支援する人たちの多くは前政権下でも常に身の危険にさらされたが、タリバン政権下で直面するリスクはさらに深刻になり、自身が保護を得るのに必死だ。

シェルター職員の1人は、「今は同僚女性全員にシェルターが必要だ。毎日、不安と恐怖の中で生きている」と話す。

タリバンや自称「イスラム国」、加害者や被害者家族などから毎日のように脅迫を受けているという職員もいる。別の職員は「日に3回、刑務所から脱走した男たちから電話を受けた。タリバンからも電話があったので、電話番号を変えた」と語る。

職員たちは、苦労を重ねて築いた支援体制が崩れるのを目の当たりにし、打ちのめされている。元判事も、「20年間、すべてをゼロから築き上げた。大変な勇気と犠牲が必要だったが、女性を保護する枠組みを築くことができた。それが今、無に帰した」と嘆く。

なくなった駆け込み寺

タリバンの復権以降、暴力の被害女性が駆け込む場所がなくなった。ジェンダーに基づく暴力の被害者を診てきた精神分析医は、「タリバンは暴力問題の扱い方を知らない」と話す。

暴力事件を扱った検事は、「女性は以前なら、女性課題省に自由に相談に行くことができた。しかし今は、男性保護者なしには行けなくなった」と言う。

聞き取り時に妊娠9カ月の女性は、「ほぼ毎日、そこら辺にある物で夫に殴られ、その度に家族が集まり、眺めていた。針金で打たれた時、体中にあざができた。それ以来、腰から下だけを叩くようになった。安全に暮らせる場所に行きたい」と切実な思いを話すが、以前いたシェルターは閉鎖され、新たな行き場はなくなった。

7歳の時80歳の男性と結婚をさせられた少女は、「1年間、一緒に暮らしたが、『どうして妊娠しないのか』と怒鳴られ、暴力を振われた」と話す。逃げ出して実家に戻ったが、別の男と結婚させられ、再び夫や親族から暴行を受けた。幸いにも最近、数少ない運営中のシェルターに移ることができた。ただ、「みんな怖がっている。いつまでここにいられるか。タリバンが頻繁にやって来る。タリバンに『ここは私たちにとって安全な場所だ』と訴えたけれど、全然信じてくれない。もうどこにいても安全じゃない」と不安を隠さない。

調査方法

アムネスティは、今年10月26日から11月24日にかけて、バードギース、バーミヤーン、カーブルなど10州で、被害者6人と支援サービスの関係者20人(シェルター代表者・職員、検事、判事、医師、女性課題省の担当者など)に聞き取りをした。また、活動家、ジャーナリスト、NGO担当者、国連職員ら18人からも話を聞いた。

アムネスティ国際ニュース
2021年12月6日

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