パキスタン:表現の自由を奪う電子犯罪防止法の撤廃を

  1. ホーム
  2. ニュースリリース
  3. 国際事務局発表ニュース
  4. パキスタン:表現の自由を奪う電子犯罪防止法の撤廃を
2022年3月14日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:パキスタン
トピック:

「表現の自由を制限し、反対意見の抑圧を進めるパキスタン政府は今回、電子犯罪防止法を改正した」とアムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは批判した。

2月18日、政府が成立を目指していた電子犯罪防止法(PECA)を改正する法律案が可決され、ネット上での当局への名誉毀損が厳しい罰則を伴う犯罪になった。

「電子犯罪防止法は、『フェイクニュース』、サイバー犯罪、デマなどを取り締まるという口実のもとに、表現の自由の制限に利用されてきた」(ナディア・ラーマン、アムネスティ南アジア地域担当次長代行)

「この改正は、パキスタン憲法に違反するだけでなく、国や国の機関に異議を唱える人びとをさらに危険にさらすことになる。特に、ジャーナリスト、人権活動家、政治的に対立する人は、弾圧を受けやすく、その職責を果たしているだけで訴追されるおそれがある」

電子犯罪防止法には、「自然人」の名誉毀損を犯罪とみなす幅広い条項がすでに入っているが、改正法では「人」の定義を拡大し、法律などに基づいて国が設置した「企業、組合、協会、団体、機関、組織、当局」が追加されたため、政府機関や軍の批判も「名誉毀損」とみなされるようになった。

また改正により、名誉毀損罪に保釈が認められなくなり、有罪判決での刑期は、3年から5年に引き上げられた。名誉毀損罪の刑事手続きを開始できる者についての定義も拡大し、任意の人または機関も告発できるようにした。

パキスタンも批准する市民的および政治的権利に関する国際規約(自由権規約)の第19条は、他の者の権利の保護目的での表現の自由の制限を認めているが、必要かつ狭義でなければならないとしている。

アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは、すべての刑事名誉毀損法に反対する。評判を守る必要性に対して不釣り合いで不必要な対応であり、表現の自由を萎縮させるものだからだ。すでに適用範囲が広すぎる名誉毀損条項を政府機関についてのインターネット上の発言にまで拡大することは、パキスタンの国際的義務に違反する。

また、法改正にあたり政府が実施した公聴会には、市民グループと民間部門が排除されたため、公聴会としての本来の役割を果たさなかった。

改正電子犯罪防止法では、裁判所は6カ月以内の審理の終了と係争中の裁判の月次進捗報告の提出が義務付けられる。また連邦や州の職員は、裁判の進行を妨げる可能性がある障害を取り除く義務を負う。すでに負担の大きい裁判制度にあって、どのようにして人びとが不公正な裁判や不十分な証拠から保護されるのか、明らかではない。

「電子犯罪防止法は、サイバー犯罪に対する本来の懸念から一般市民を保護していないし、基本的人権も尊重していない」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア・アソシエイトディレクター、パトリシア・ゴスマンさんは言う。「今回の法改正は、基本的権利の侵害を法律の薄皮で包むようなものだ」

イスラマバード高等裁判所は2月23日、電子犯罪防止法の主な捜査機関である連邦捜査局に対し、この法律に基づく逮捕を制限する命令を出した。一時的な救済策にはなるが、インターネット上の発言で処罰を受けるおそれがあるという、すでに表現の自由が危うい状況で、改正法が与える重大な影響を軽減するには不十分だ。

電子犯罪防止法は、犯罪行為の対象があいまいで過度に広い強権的な法律だ。パキスタンの人権擁護家や市民団体は、この法律は、国の安全保障上懸念されるものに基づく正当な意見を犯罪とみなし、イスラム教の主要な解釈を擁護しているとして、同法を批判してきた。政府批判の弾圧が続く中、オンラインとオフラインでの表現の抑圧は、その一環だ。

昨年、パキスタン・メディア開発局条例案が提出された。同条例は、すべてのメディアを一官庁の管轄下に置き、政府には、ジャーナリストに高額の罰金の支払い、特別な「メディア法廷」の設置、政府の役人の重要ポストへの任命に自由裁量が与えられる。

昨年10月には、オンライン上のコンテンツを検閲する法律が施行された。

「今回の改正で当局は事実上、人びとのオンライン上の発言を取り締まり、その発言内容が『好ましくない』と判断すれば、重い罰を科すことができる」(パトリシア・ゴスマンさん)

「法律の中心に据えるべきは人権保護であり、批判からの政府保護ではない。政府がやるべきことは、電子犯罪防止法そのものを廃止するか、国際人権基準に沿うように大幅修正するか、どちらかだ」(ナディア・ラーマン)

アムネスティ国際ニュース
2022年2月28日

英語のニュースを読む

関連ニュースリリース