ウクライナ:市民を危険にさらすウクライナ軍の戦術

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2022年8月10日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:ウクライナ
トピック:

  • 学校や病院を含む住宅地に軍事拠点を設置
  • 民間人居住区から攻撃
  • だからといってロシアの無差別攻撃は決して正当化されない

ウクライナ軍は、ロシア軍の侵攻撃退にあたって、人口の多い住宅地に拠点を設置し攻撃を行うことで、民間人を危険にさらしている。学校内や病院内に拠点を置いた事例もある。

こうした戦術は国際人道法違反であり、民用物を軍事目標にしてしまうため、民間人を危険にさらすことになる。現実にロシア軍による人口密集地への攻撃では民間人が犠牲となり、民間のインフラが破壊されている。

防衛的立場にあるからといって、ウクライナ軍が国際人道法の尊重を免れるわけではない。

ただし、アムネスティが確認したロシアの攻撃がすべてこのパターンに当てはまるわけではない。アムネスティがロシアによる戦争犯罪だと結論づけた他の地域(ハルキウ市の一部地域含む)での攻撃では、ロシア軍が違法に標的とした市街地にウクライナ軍がいたことを示す根拠はなかった。

アムネスティの調査員は4月から7月までの数週間にわたり、ハリキウ、ドンバス、ミコライウでのロシアの空爆を調べた。空爆を受けた地域を視察し、生存者、目撃者、犠牲者の親族に聞き取りをし、リモートセンシングによる分析や武器の分析を行った。

これらの一連の調査の中で、ウクライナ軍が19の町や村で、人口が密集する住宅街に拠点を置き、攻撃を行った証拠を得た。これらの証拠のいくつかについては、衛星画像の分析で裏付けを取った。

ウクライナ兵が拠点を置いた住宅街の多くは、前線から何キロも離れていた。民間人を危険にさらさずに拠点として利用できる場所は、他にもあった。例えば、近くの軍事基地や密集した森林地帯、あるいは住宅地からさらに離れた場所にある他の建造物などだ。アムネスティの調査では、住宅地の建物に拠点を置いたウクライナ軍が、市民に近くの建物から退避するよう求め、あるいは退避を支援した事実を確認することはできなかった。

民間人居住地域からの攻撃

ドンバス、ハルキウ、ミコライウへのロシア軍の空爆を受けた人たちの話では、空爆の前後に自宅近くでウクライナ軍が活動し、一帯をロシア軍からの報復攻撃にさらすことになったという。アムネスティは、多くの地域でも同様の証言を得ている。

国際人道法は、すべての紛争当事者に対し人口密集地やその近隣に軍事目標を設置することを可能な限り避けるよう求めている。また、民間人を保護する義務として、軍事目標付近から民間人を排除すること、民間人に影響を与える可能性のある攻撃について効果的に警告することなどを定めている。

ミコライウ南部の村で6月10日にロケット弾攻撃を受けて犠牲になった男性(50歳)の母親はアムネスティにこう語った。

「わが家の隣には軍が駐留していて、息子はよく兵士に食べ物を持って行っていった。息子のことが気がかりだったので、兵士に他の場所に移動するよう何度も頼んだ。その日の午後、空爆があり、庭にいた息子が犠牲になった。息子の体はずたずたに引き裂かれていた」

この家の隣家には軍の装備や制服が残っていたことを、アムネスティの調査員は、確認した。

リシチャンスク(ドンバス)は、ロシア軍から何度も攻撃を受け、少なくとも1人が犠牲になった。リシチャンスクにあるマンションに住むミコラさんは、「なぜウクライナ軍は戦場ではなく街から砲撃するのかがわからない」とアムネスティに話した。

別の男性(50歳)は「近隣で軍事活動が行われているのは間違いない。発砲音の後には、着弾の音が聞こえる」と話した。

アムネスティの調査員は、犠牲になった年配の男性が利用していた地下シェルターの入り口から20メートルほど離れた住宅地にある建物を兵士が使っているのを目撃した。

ドンバスのある町で5月6日、ウクライナ兵が砲撃に使っていた民家の近所にロシア軍のクラスター弾が落とされた。クラスター弾は本質的に無差別攻撃を引き起こす武器であり、広く使用が禁止されている。母親のアンナさん(70歳)と息子、祖母(90歳)3人の自宅は、クラスター弾の子弾を受け複数の壁に損傷が入った。

アンナさんはアムネスティに語った。「破片がドアを突き破って飛んできた。私は家の中にいた。ウクライナ軍の大砲は家の畑近くにあった。紛争が始まったときから兵士たちは畑の裏や家の裏にいた。出入りするのを見た。母の体は麻痺しているので逃げることができなかった」

7月上旬、ミコライウにある農業用倉庫がロシア軍の攻撃を受け、農業従事者1人が負傷した。攻撃があった数時間後、アムネスティの調査員は、穀物倉庫にウクライナ軍の兵士がおり軍車両があるのを見た。また、目撃証言から、民間人が生活し働いている農場から道を隔てた所にある倉庫を軍が使用していたこともわかった。

アムネスティの調査員は、ハルキウやドンバス、ミコライウの東にある住宅や近隣の公共施設の被害を調べている最中に、近くのウクライナ軍拠点から発射音を聞いた。

バフムートでは複数の住民が、ウクライナ軍は高層住宅から通りを隔ててわずか20メートルほどの所にある建物を使っていたと、話した。5月18日、ロシア軍のミサイルがこの高層住宅の正面部分を直撃し、アパート5室がそれぞれ一部損壊し、近隣の建物も被害を受けた。

アパートの住民カトリーナさんがアムネスティに語った。「何が起こったのかわからなかった。窓ガラスが割れ、家の中は埃でいっぱいになった。母がここを離れたがらないのでここに残っていた。母は健康問題を抱えているから」

他の住民3人によると、攻撃を受ける前、ウクライナ軍は爆撃を受けた建物の向かいの建物を使っており、ミサイル攻撃の被害を受けた別の家の前には軍のトラック2台が止まっていたという。アムネスティの調査員は、土嚢、窓を覆う黒ビニールシート、米国製の外傷用救急薬など、建物の内外に軍がいたことを示す痕跡を発見した。

この攻撃で自宅が被害を受けた別の住民はアムネスティに「軍が何をしようと私たちは何も言えない。だが代償を払っているのは私たちだ」と話した。

病院内の軍事拠点

アムネスティの調査員は、ウクライナ軍が5つの町で病院を事実上の軍事拠点として使っていることも確認した。そのうち2つの町では、兵士数十人が病院で休み、動き回り、食事をしていた。別の町では、兵士が病院近くから攻撃していた。

ウクライナ軍はハリキウ郊外にある医学研究機関の敷地にも拠点を設けていたが、4月28日、ロシアの空爆を受け研究機関の職員2人が負傷した。病院を軍事利用することは、明らかに国際人道法に違反する。

学校内にも軍事基地

ウクライナ軍は、ドンバスやミコライウの町や村で学校にも拠点を置いている。

紛争開始以来、学校は閉鎖されていたが、ほとんどの学校は市民が住む住宅街に近いところにある。アムネスティ調査員が訪れた29校のうち22校で、兵士が校内の敷地を使用している様子、あるいは現在または過去の軍事活動の証拠(軍服、廃棄された弾薬、軍の配給品、軍用車両など)を目にした。

ロシア軍は、ウクライナ軍が使用していた学校の多くを攻撃した。少なくとも3つの町では、ロシア軍による学校への砲撃を受けたウクライナ兵が別の学校へ移動したため、移動した先の学校周辺の地域を同様の攻撃を受ける危険にさらした。

オデーサの東にある町では、市民が宿泊や移動の中継地として利用する所をウクライナ兵が使っていた。住宅街にある樹木の下に装甲車を置き、人口が密集する地域の学校を利用するなどだ。4月から6月下旬にかけロシア軍が学校付近を攻撃したことで、民間人数人が死傷した。その中には、6月28日にロケット弾攻撃を受けた住宅に住む子ども1人と年配女性1人が含まれている。

バフムートでは、大学の建物を拠点としていたウクライナ軍が5月21日、ロシア軍の攻撃を受け、兵士7人が死亡したと伝えられた。アムネスティは、爆撃を受けた大学の建物の中庭で、軍用車両の残骸を確認した。大学に近かった高層住宅も、50メートルほど離れたところにある住宅街とともに空爆の被害を受けた。

国際人道法は、授業が行われていない学校に戦闘拠点を置くことを特に禁じていない。しかし、軍には、やむを得ない軍事的必要性がない限り、民間人が多く住む住宅街やアパート近辺の学校を使用し住民の命を危険にさらすことを避ける義務がある。

どうしても使用する場合は、民間人に警告を発し、必要であれば退避を支援する必要がある。アムネスティが調査した限りでは、警告や避難支援は確認できなかった。

武力紛争は子どもたちの教育を受ける権利を著しく損なう。学校の軍事利用は建物の破壊につながり、紛争が終わっても子どもたちの学ぶ権利を奪うことになりかねない。ウクライナは、武力紛争下で教育を保護する協定である「安全な学校宣言」に署名・賛同した114カ国うちの一つである。同宣言は、実現可能な代替手段がない場合においてのみ、放棄された、あるいは生徒が避難した後の学校の利用を認めている。

ロシア軍による無差別攻撃

アムネスティの調査では、ロシア軍はここ数カ月間、多くの攻撃で、国際的に禁止されているクラスター弾など無差別に殺傷し、広範囲に影響を及ぼす爆弾を使用してきた。また、さまざまなレベルの精度の誘導兵器を使い、中には特定の対象を狙うことができるほど精度の高いもあった。

ウクライナ軍が人口密集地内に軍事拠点を置いていることは、ロシアの無差別攻撃を決して正当化するものではない。紛争当事者は、常に軍事目標と民用物を区別し、武器の選択を含め、民間人への被害を最小限に抑える上でのあらゆる実行可能な予防措置を取る必要がある。民間人を殺傷し、民用物を破壊する無差別攻撃は戦争犯罪にあたる。

ウクライナ政府は、軍を人口密集地から距離を置いた場所に移動させるか、軍事活動地域からの民間人の退避を直ちに実行すべきだ。軍は決して病院から攻撃をしてはならないし、同様に学校や民家の使用は、代替手段がない場合の最後の手段でしかない。

アムネスティは、7月29日、ウクライナ国防省に今回の調査結果を送ったが、記事公開時の8月4日時点で、同省から回答は得ていない。

アムネスティ国際ニュース
2022年8月4日

> このニュースに関するアムネスティ・インターナショナルの声明

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