日本:「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン案」に対するパブリックコメントを提出

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2022年9月12日
[公開書簡]
国・地域:日本
トピック:ビジネスと人権

「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン案」に対するパブリックコメントの募集が経済産業省大臣官房ビジネス・人権政策調整室からあり、アムネスティ日本として、次のような意見(抜粋)を8月29日に提出しました。

  • 国家による人権保護義務の明記
    国家が、国際人権法上の自らの義務を果たすために、企業活動による人権侵害から個人を保護するための措置を取ることをガイドラインに記載するべきである。
     
  • ライツホルダーの特定と対話・協議の必要性を明記
    ステークホルダーを特定する際には、特に、企業の事業活動を通じて人権に影響を受けるライツホルダーの特定と対話・協議が求められることを明示すべきである。
     
  • 企業による積極的な情報開示を求める
    企業に積極的な情報開示を求め、企業の取組状況を政府が把握し、政府が企業に対して指導を行うことにより、本ガイドライン記載事項の実効性が向上することが期待される。
     
  • 企業だけでなく国家による救済の仕組みを十分に機能させる
    企業に対して救済の仕組みの設置・整備を求めるだけでなく、関係省庁が連携し一貫して国家による救済の仕組みを十分に機能させていくことを示すべきである。

「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」とは?

2011年に「ビジネスと人権」の最も重要な国際的枠組の一つである「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合『保護、尊重及び救済』枠組実施のために」(以下「国連指導原則」)が国連人権理事会において全会一致で支持されました。日本政府もこの国連指導原則を支持し、2020年10月、「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」を策定・公表し、2021年11月には、この行動計画のフォローアップの一環として、経済産業省と外務省が共同で「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」を実施、結果を公表しました。

この調査で日本政府によるガイドラインの策定等への強い要望が示されたことを受け、2022年3月、「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」が経済産業省に設置され、ガイドライン案が8月8日に公表されました。

ガイドライン(案)を読む

アムネスティ日本が提出した意見全文

<全体に対して>

  1. ガイドラインについての意見募集を日本語に限定すべきではない。 また、ガイドラインは複数の言語(最低でも日本語と英語。外国語は抄訳ではなく日本語と同じ内容)で同時期に公表すべきである。

    理由:日本企業や日本国内で活動する外国籍企業に加え、政府が関わる事業活動のステークホルダーは国内外に存在しているので、幅広いステークホルダーを対象とするガイドラインは、日本語だけでなく主要な他言語、少なくとも英語で公表するべきである。特に、企業とサプライチェーンでつながるライツホルダー(権利保持者)には日本語を母語としない者も多いが、人権面での影響を受ける、またはその可能性があるライツホルダーが、自ら本ガイドラインの内容を理解し、意見を表明できるように考慮すべきである。
     
  2. 本ガイドラインのようなビジネスと人権に関する基準を国として策定する際には、策定の準備段階において、企業の人権デュー・ディリジェンスの取り組みに関するギャップ分析を行い、現状の把握を行うべきである。また、本ガイドラインの施行後には、定期的にギャップ分析を行って現状と求められる対応との差異を明らかにし、その結果を企業に対する施策やガイドラインの見直しにおいて活用すべきである。

    理由:ガイドラインには、ギャップ分析を通じて明らかになった企業側の課題や疑問点に応える内容を含めるべきである。また、定期的にギャップ分析を行うことで、企業の取り組みの現状と求められる対応との差を把握し、企業の対応の促進に必要な施策を検討し、ガイドラインの見直しに活用することが期待される。
    特に、市民社会組織がすでに指摘している日本企業が関わる人権課題については、日本企業のサプライチェーンにおいて重大な人権侵害リスクが存在する事業領域を国家として把握するとともに、国から企業に提示し、国家として企業の取り組みを促進する施策を明示すべきである。
    アムネスティ・インターナショナルでは、コンゴ民主共和国南部でコバルトを手掘りする採掘労働者の労働環境や児童労働の問題を2016年と2017年に指摘した際に、問題のコバルトがサプライチェーンで日本企業ともつながっていることを指摘している。このような高いリスクを抱える原料だと指摘されているものを把握し、人権状況の改善のための施策を国と企業がそれぞれの立場から取るべきである。

<1 はじめに>

  1. 国家が、国際人権法上の自らの義務を果たすために、企業活動による人権侵害から個人を保護するための措置を取ることをガイドラインに記載するべきである。また、そうした措置については、関係省庁が連携して政府として一貫した対応をとるべきである。

    理由:人権を保護し、人権侵害を防ぐ責任は第一義的に政府にある。このことは国連ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)の第一の柱にも明記されている。日本は、法的拘束力のある10の国際人権条約および選択議定書の締約国となっており、各条約に基づく法的な義務を負っている。したがって、国家は国際人権法上の義務を履行するために、企業活動による人権侵害から個人を保護するための措置を取るべきであり、そのことをガイドラインに記載するべきである。 指導原則1は、企業等による人権侵害を防止、捜査、処罰及び補償するための適切な措置を国家が怠った場合には、その国家は国際法上の義務に違反することになりかねないと指摘している。また、指導原則4は、企業活動が国家に近い場合等は、その企業による人権の侵害は、国家自体の国際法上の義務違反となりうるとしている。
    国家の義務を履行するにあたっては、指導原則に沿って、関係省庁が連携し一貫した対応をとるべきである。
     
  2. 国家の人権保護義務として本ガイドラインの策定、周知・啓発、情報提供・助言、企業の取り組みを後押しする方策について言及しているが、その方策を具体化する際には、本ガイドラインが企業に求める人権尊重責任が果たされるよう、どのように企業を指導・監督し、どのようにその実効性をモニタリングするのかを示し、関係省庁が連携し一貫した対応をとるべきである。

    理由:指導原則3では、国家の義務として、企業に対する実効的な指導の提供や、企業による取り組みについて情報提供の奨励または要求を求めている。情報提供や啓発にとどめることなく、企業に積極的な情報開示を求め、企業の取組状況を政府が把握し、政府が企業に対して指導を行うことにより、本ガイドライン記載事項の実効性が向上することが期待される。国家の義務を履行するにあたっては、指導原則に沿って、関係省庁が連携し一貫した対応をとるべきである。
     
  3. 本ガイドラインで企業に対して求めているサプライチェーンにおける人権課題の対応について、国家としても調達活動において関係省庁が連携し一貫して、企業と同様に対応を実践すべきである。

    理由:指導原則6では、国家による調達活動などの取引先企業による人権尊重の促進を求めている。本ガイドラインで企業に対して求めているサプライチェーンにおける人権課題への対応については、国家としても関係省庁が連携し一貫して、企業と同様に実践し、公共調達における人権侵害リスクを把握して、対応すべきである。
    また、企業の人権デュー・ディリジェンスの適切な実施とそれについての情報開示が、公共調達における取引の条件または加点対象となるような仕組みを構築することで、企業の取り組みを促進するべきである。

<1.2 人権尊重の意義>

企業の人権尊重責任は、経営リスクの軽減ではなく、人権への負の影響の防止・軽減・是正にあることを明記すべきである。

理由:本ガイドライン案別紙「Q&A」のNo.8・10では、「人権尊重の取り組みは経営リスクの低減を目的とするものではなく、あくまでも、人権への負の影響を防止・軽減することを目的とするものである」という記述がある。同様の記述を本文にも明記すべきである。

<1.3 本ガイドラインの対象企業及び人権尊重の取組の対象範囲>

国境を越えて日本企業が引き起こす、助長する、または、つながる人権侵害や、日本企業の国内外の子会社による人権侵害についても人権デュー・ディリジェンスの対象範囲であることを、ガイドラインに明記するべきである。

理由:日本の法的管轄外の場所で起きた人権侵害や、子会社による国外での人権侵害など、負の影響を受ける人びとが国境を越えて救済措置へアクセスすることが困難なケースについても、ライツホルダーの人権侵害の予防・保護・救済ができるような方策をガイドラインに規定するべきである。

<2.1.2.1「人権」の範囲>

  1. 国内法と国際人権法の要求が相反する状況に直面した場合、企業は、国際的に認められた人権に関する諸原則をその状況のもとでできるかぎりぎりぎりまで尊重し、その努力を行動によって証することが期待されていることを明記するべきである。

    理由:指導原則23には、国内法と国際人権法との「相反する要求に直面した場合、国際的に認められた人権の原則を尊重する方法を追求する」べきであり、企業は、「国際的に認められた人権に関する諸原則をその状況のもとで出来る限りぎりぎりまで尊重し、そしてこの点でその努力を行動によって証することができるよう期待されている」と記載がある。
     
  2. 国連総会で「清潔で健康的かつ持続可能な環境への権利」を人権と認める決議が採択されたことを受け、本ガイドラインでは、企業には、すべての既存の法律または国際的な環境基準のうち、より強力な方を遵守し、環境への権利を尊重する責任があることを明記するべきである。

    理由:環境への権利は、すでにさまざまな環境・人権に関する国際条約に含まれており、気候変動の緩和・適応のための施策が人権の原則と相反するものであってはならない。環境被害は、世界中のすべての人びとに関わる課題であり、すでに脆弱な立場にある人びとが特に環境被害を受けやすい。こうした人びとが正確で適切な情報を得て、国の環境に関する意思決定に参加し、環境被害を受けた場合には救済措置を受けられるように国として対応するとともに、企業への対応への期待を明示すべきである。
    アムネスティ・インターナショナルでは、2021年2月に「バッテリーのバリューチェーンにおけるビジネスと政府が遵守すべき原則」を発表し、リチウムイオンバッテリーのバリューチェーン上の企業は、環境保護、健康と安全、天然資源の採取と管理、野生生物の保護、廃棄物管理、有害物質の取り扱い、そして、大気・水・土地・地下水の汚染に関する法規制を遵守する必要があることを指摘した。
    また、同年6月には、レポート「Stop Burning Our Rights!」(2022年9月に概要の日本語訳を発表予定)を発表し、気候変動の危機的状態が多くの人びとの人権を脅かす人権問題であることを指摘するとともに、気候変動への緩和・適応策と人権の原則の一貫性を求めている。

<2.1.2.3「ステークホルダー」>および
<2.2.3 人権尊重の取組にはステークホルダーとの対話が重要である>

ステークホルダーを特定する際には、特に、企業の事業活動を通じて人権に影響を受けるライツホルダーの特定と対話・協議が求められることを明示すべきである。

理由:企業の人権尊重責任は、経営リスクの軽減ではなく、人権への負の影響の防止・軽減・是正にあることから、ステークホルダーについても、企業の経営における利害関係ではなく、人権への影響の観点から特定したうえで、ステークホルダー、特にライツホルダーとの対話・協議を行うべきである。

<4 人権 DDの実施>

  1. 人権デュー・ディリジェンスの適切な実施とそれについての情報開示が、公共調達における取引の条件または加点対象となる仕組みを構築することを前提に、ガイドラインでも企業に対応を求めるべきである。

    理由:指導原則6にあるとおり、政府には、公共調達等の商取引を通じて企業による人権尊重を推進することが求められている。公共調達における取引では、取引先の企業で働く労働者の人権状況や、取引対象の製品・サービスのサプライチェーンの人権デュー・ディリジェンスを実施する企業を優遇する仕組みを政府が率先して構築すべきである。
     
  2. 是正措置に関する項目を追加すべきである。

    理由:指導原則22にあるとおり、企業は、負の影響を引き起こした、または負の影響を助長した場合、正当なプロセスを通じてその是正の途を備えるか、それに協力しなければならないことを追記するべきである。人権の負の影響を自社ですべて把握し、防止・軽減のための完全なる対応をすることは難しいため、企業が実際に人権への負の影響を与えることがあることを想定し、必要な是正措置を取るよう企業に求めることが重要である。
    また、指導原則19には、企業が負の影響を防止または軽減する影響力をもつ場合には、それを行使すべきであると記載がある。さらに、原則22には、企業が負の影響を生じさせておらず、また助長してもいないが、取引関係によってその事業、製品、またはサービスと負の影響が直接関連している場合、人権を尊重する責任は、企業がそのような負の影響を是正するという役割を担うことがあると記載されている。

<4.1.2 負の影響の特定・評価プロセスの留意点>

人権デュー・ディリジェンスの対象として、公的および民間の警備会社による潜在的な暴力の可能性が含まれることを明記するべきである。

理由:企業は、事業上の安全対策に関わる人権リスクを特定、防止、軽減するための人権デュー・ディリジェンスを実施し、公的・私的治安部隊の人権に関わる記録や対立の根本原因を調査し評価する必要がある。
アムネスティ・インターナショナルでは、2021年2月に「バッテリーのバリューチェーンにおけるビジネスと政府が遵守すべき原則」を発表し、採掘産業において、企業が、安全対策について、政府やコミュニティと協議し、治安当局や関連するステークホルダーと定期的な会合を開き、安全対策と関連する人権侵害に関する申し立てがあれば、すべて報告すること、さらに、民間警備会社との契約に、「安全と人権に関する自主的原則」を含めたり、警備会社スタッフが人権に関する研修を受けているか確認したりすることを求めている。
企業の安全対策における行き過ぎた暴力については、採掘産業だけでなく、他の業界でも指摘されているところであり、国・企業による対応が期待される。

<4.3.1 評価の方法>

人権デュー・ディリジェンスの実効性を確認するために、第三者によるモニタリングの実施を推奨する旨をガイドラインに明記すべきである 。また、実効性の確認プロセスには、ライツホルダーと関わる市民社会組織等のステークホルダーの参画が重要である点もガイドラインに含めるべきである。

理由:指導原則の原則20にあるとおり、企業は人権デュー・ディリジェンスの効果測定において、内外のステークホルダーからのフィードバックを参照することが求められている。

<4.4.1.1 基本的な情報>

ガイドラインでは、企業に求める開示情報の内容には原材料のトレーサビリティの確保が含まれなければならないことを明記するべきである。

理由:企業は、サプライチェーンでつながる企業が人権を尊重していることを示すためには、原材料がどこでどのように生産・加工されて製品が製造されているか、「把握し、公開する(know and show)」必要がある。 企業がどのように潜在的および実際の人権・環境への影響を特定し対応しているかということに加え、この情報は、企業の対応や説明責任を強化するために、継続的に遅滞なく公開されるべきである。また、その公開情報は定期的に更新されることが求められる。

<5 救済>

企業に対して救済の仕組みの設置・整備を求めるだけでなく、関係省庁が連携し一貫して国家による救済の仕組みを十分に機能させていくことを示すべきである。

理由:救済の仕組みとしては、国家による救済措置と企業による救済措置の両方が存在するのみならず、2つの救済措置がお互いに補完し合い、強化されることによって、ライツホルダーが、物理的・金銭的な負担を気にせずに、迅速に救済措置にアクセスできるようにすることが求められる。そのために、国家による救済の仕組み、特に非司法的救済措置が十分に機能することが必要である。指導原則に沿って、関係省庁の連携により政府が一貫した対応をしていくべきである。

<5.1 苦情処理メカニズム>

ガイドラインに記載される苦情処理メカニズムの要件は、指導原則の原則31に沿った内容とすべきである。

理由:原則31に記載されている要件のうち、ガイドラインから漏れている以下の内容について追記すべきである。

  • 利用可能性:メカニズム利用の障壁となりうる費用、所在地の問題に対する適切な支援の提供についても追記すること
  • 公平性:必要な情報県、助言や専門知識へのアクセスのための費用の財源を欠く場合の適切な支援の提供が必要となることも追記すること
  • 透明性:プロセスの信頼性を確保するために、メカニズムのパフォーマンスの情報の提供について、追記すること。また、必要な場合には、当事者との対話や個人情報に関する秘密性は保持されるべきことも追記すること
  • 対話に基づく:申し立てに関する裁定が必要とされる場合は、正当で、独立した第三者メカニズムにより行われるべきであることを追記すること

<5.2 国家による救済の仕組み>

国家による非司法的救済措置として、「OECD多国籍企業行動指針」に基づく日本 のNational Contact Point(NCP)の機能の強化、国内人権機関の設置に向けた政府の行動を明記すべきである。

理由:救済の仕組みとして、国家によるものと企業によるものが補完し合い、強化され、ライツホルダーが、物理的・金銭的な負担を気にせず、迅速に救済措置にアクセスできようにすることが求められる。そのために、国家による救済の仕組み、特に非司法的救済措置が十分に機能することが必要である。また、指導原則に沿って、関係省庁が連携し政府として一貫した対応をすべきである。

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