ロシア連邦:反テロ法による政権批判への弾圧激化

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2024年2月29日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:ロシア連邦
トピック:表現の自由

2022年2月のウクライナへの全面侵攻以降、ロシア当局は治安維持を名目に反テロリスト法と反過激主義法を乱用し、政権批判者やデモ参加者への弾圧を強めていることがアムネスティの調査で明らかになった。

この2つの法律は表現があいまいなため恣意的な適用が可能で、世論の統制や政権批判の封じ込めに利用されやすい。声を上げようとする人たちは、恐怖心を植え付けられることになる。

ネット上の投稿や反政権団体への寄付で、しばしば長期の懲役刑を宣告される。また当局は、政府を批判する市民を「テロリスト」あるいは「過激主義者」というレッテルを貼ることで、裁判所の命令なしに個人の銀行口座を凍結し、生活支援を打ち切ることができる。

レッテルを貼られた本人とその家族にとって心理的打撃は計り知れず、社会全体に与える萎縮効果も極めて大きい。

2013年以降、3,738人がテロ関連容疑で有罪判決を受けた。注目すべきは、有罪判決を受けた行為の90%以上が、テロの計画や実行に関わったのではなく、「テロの正当化」と呼ばれる他のさまざまな行為だった。

テロ関連容疑で有罪になった件数は、この10年間で50倍に激増した。統計値が公表された2015年以降、テロ関連の容疑で起訴された被疑者が無罪になった事例は1件もない。

2023年12月時点で、連邦金融監視局の「テロリストおよび過激主義者のリスト」には13,647人の名が載り、そのうち11,286人が「テロリスト」とみなされている。11,286人中13パーセントが女性で、106人が18歳未満だ。

当局が個人をリストに登録する際の司法審査はなく、一旦このリストに登録されると、銀行口座を凍結され、月々の出費が1万ルーブル(およそ16,300円)に制限され、最低限の生活さえも脅かされるという厳しい状況に陥る。

テロ関連事案が急増

2023年上半期だけで、39人がテロ攻撃の計画または実行で有罪判決を言い渡された。この人数は過去10年の各通年と比較しても最も多く、テロ関連事案の急増ぶりを示している。

最近のテロ関連容疑の多くは、紛争や軍事動員に抗議して徴兵施設などの公共施設に火炎瓶を投げつける行為に対してだった。その多くは夜間に人気がないところで行われ、施設はコンクリートや金属で覆われ、火災になることはまずなかった。

こうした事案の少なくとも数件が「テロ」とみなされたのは、当局による容疑の乱用ではないかと懸念される。

数百人が「テロの正当化」の罪で有罪判決を受けた。この人たちは、当局が恣意的に「テロリスト」と指定した特定の行為や団体について、議論したり同調したりしただけだった。

ロシアによるウクライナへの全面侵攻以降、ウクライナに寄り添うような会話をしただけで、迫害を受けるようになった。例えば、ロシア人の志願兵からなるウクライナ軍の戦闘の成果を喜んだり、ウクライナ軍を支持したりするような会話だ。

反テロリスト法を乱用した特に悪質な例としては、地方議員アレクセイ・ゴリノフさんの事例だ。ウクライナへの侵攻を批判したゴリノフさんは、懲役7年の実刑を言い渡された。さらに投獄中、侵攻に対する自身の見解を同房者に話したとして、新たなテロ関連容疑で起訴されている。

同様にボリス・アクーニンのペンネームで知られる作家のグリゴリ・チハルティシヴィリさんは、公の席での発言が「テロの正当化」と見なされ、在宅起訴された。法務省は、「作家はウクライナでの特別軍事作戦を声高に非難し、ロシア連邦とロシア連邦軍に対するネガティブなイメージを植え付ける目的で虚偽情報を広めた」とコメントしただけだった。

テロ関連の容疑で起訴された場合、裁判は非公開のため、容疑の核心が明らかになることはない。

この2件を含む数多くの事例から、いかなる政権批判にも反テロリスト法が幅広く適用されていることがわかる。

反対派と発言の抑え込み

ロシアでは、2006年に「テロの正当化」が犯罪になり、2023年には「過激主義の正当化」を違法とする法案が提出されたことで、反テロ法と反過激主義法の拡大が進む。その結果、テロと過激主義の境界線が一層あいまいになり、政権批判で弾圧を受けやすくなる。「テロの正当化」も「過激主義の正当化」も国際法では明確に定義されていない。

一連の対応が示すのは、定義と処罰の適用範囲を拡大し、「国家の安全」の名目で政府批判と表現の自由を抑圧する狙いがロシア当局にあるということだ。

際立った例としては、アレクセイ・ナワリヌイさんが設立した「反汚職財団」を「過激団体」に指定し、急先鋒の市民活動を事実上犯罪化したことだ。今後、同団体や類似の団体への寄付や参加、団体資料の共有は、刑事告発と長期投獄の対象になるおそれがある。

これらの点からアムネスティは、テロと過激主義に関するロシア刑法が国際人権基準に準拠しているかを徹底検証し、平和的な抗議活動の犯罪化に歯止めをかけ、基本的権利を守るよう求める。

国際社会は、テロ対策などに関するあらゆる国際会議の場で、不当に標的にされた人たちの権利を擁護すべきだ。また、ロシア側の担当者と交渉の場に着く時も今回のロシアの問題を念頭に置いておくべきだ。

アムネスティ国際ニュース
2024年2月19日

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