ハンガリー:LGBTIへの差別と偏見を助長するプロパガンダ法

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2024年3月 6日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:ハンガリー
トピック:性的指向と性自認

ハンガリーで2021年に施行されたプロパガンダ法は、教育現場やメディアなどでのLGBTI(レスビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、インターセックス)に関わる議論や描写を厳しく制限し、LGBTIの個人や団体に深刻な影響を与えてきた。その結果、LGBTIへの否定的な固定観念や差別的態度が定着し、表現の自由の権利が制限される事態になっている。

アムネスティの調査で、施行からわずか3年でこの法律がメディア、広告、出版業界などに広範囲で萎縮効果をもたらし、その影響がLGBTIの個人や団体に広く及んでいることが明らかになった。

プロパガンダ法は人びとに、とりわけ若者に恐怖心を植えつけ、彼らが入手できる情報を制限してきた。その結果、制裁を恐れるあまり、人びとは性的指向や性自認についての情報の共有を控えるようになった。また、同法の施行でLGBTIの人びとへの否定的な固定観念や差別的態度が助長される事態になっている。

過去10年間にわたり、ハンガリー政府と国営メディアは、平等を求めて立ち上がる人びとに汚名を着せるような言説を使ってLGBTIの権利を否定してきた。

プロパガンダ法が施行されて以降、LGBTI関連の情報やコンテンツの入手が、特に子どもや若い人たちには難しくなった。教育、メディア、広告、出版業界など、コミュニケーションが関わる分野での性自認や性的指向の説明や描写・促進の禁止は、これらの業界で働く人びとに恐怖心を植え付けることになった。また、訴訟や政府系メディアによる中傷キャンペーンを恐れて、多くの個人や団体は性自認や性的指向に関わるやり取りや情報の発信を控えるようになった。

アムネスティの調査によると、メディアサービス会社や書店の中には、法的制裁を避けるために自己検閲を行い、また作家、広告・マーケティング企業、市民団体などでは、あいまいな法律文の解釈に苦慮している。プロパガンダ法の適用は当初は限定的だったが、2023年初めから、LGBTIの人物を描いた書籍を扱う書店の摘発が増えるようになった。

アムネスティの聞き取りに応じた渦中の人たちは、当局がどう法律を解釈するか、また罰金や罰則を回避するために事業をどう変えていけばいいか、不安や懸念を口にしていた。書籍販売業者リラ社のクリエイティブ・ディレクターで作家のクリスティアーン・ニャーリさんはアムネスティにこう話す。

「児童書全部に『保護者向け』と注意書きを添えればこれまで通り販売はできる。しかし、本はアルミ箔で包まないといけないし、学校周辺での販売はできない。その結果、法律を守っている書店や出版社でさえ処罰を受けかねないような不安定な状況に置かれている」

また、LGBTIの登場人物が出てくるテレビ番組や映画の放送が許されるのは遅い時間帯になるため、番組編成やストリーミング配信内容を変更せざるをえなかった。

民放番組の制作部長は、「番組によっては遅い時間帯に移動し、モノによっては放送を諦めたし、手を加えた番組もあった。この法律は、差別的で許せない。事実上のメディアの検閲だろう」と吐き捨てるように話した。

プロパガンダ法が施行され、コンテンツ提供者や書籍販売業者の中には当局の処分を受けたところもある。ある書店は、同性カップルを扱った子ども向けの本を児童書コーナーに並べて、また別の書店は、トランスジェンダーの登場人物を描いた本を「成人向け」としなかったために、それぞれ罰金を科された。

何人かの作家は、作品の対象を青少年から成人向けに替えた。その1人はアムネスティに、「LGBTIの人物について書いただけで、SNSで脅迫や嫌がらせを受けることが増えた」と話す。

作家のドーラ・パップさんは「『サイン会でつばを飛ばすぞ』などとの脅迫をSNSで受けた。これまで読者に会うのが楽しみだったけれど、今回の脅迫でサイン会が怖くなった」と言う。「新人作家の中には、執筆中の本を世に出す勇気がなくなったという人もいる」とも話す。

アムネスティの調査から、法律には明記されず、必要性や妥当性があるわけでもない方法で、プロパガンダ法が表現の自由や子どもの知る権利を不当に制限していることがわかる。同法は正当な目的を持たず、したがって国際人権法や基準とは相容れない。

このような法律は、ハンガリーのLGBTIの人びとの名誉を傷つけ、LGBTIの人びとに対する偏見を生む。政府はプロパガンダ法を直ちに廃止し、同法が引き起こしてきたこれまでの弊害を取り除く必要がある。

アムネスティ国際ニュース
2024年2月27日

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