イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ:新証言 ガザのパレスチナ人を意図的に飢餓に追い込むイスラエルの政策

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2025年8月21日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ
トピック:地域紛争

イスラエルは占領下にあるガザ地区のパレスチナ人住民を意図的に飢餓に追い込み、パレスチナ人の健康、福祉、社会基盤を体系的に破壊している。アムネスティが新たに得た住民の証言は、これまでの私たちの指摘通り、飢餓と病気はイスラエルの軍事作戦の不幸な副産物ではないことを浮き彫りにしている。イスラエルが過去22カ月間にわたって策定・実施してきた計画と政策の狙い通りの結果であり、イスラエルがガザのパレスチナ人に対して進行中のジェノサイドの一環として、肉体の破壊をもたらすための生活条件を故意に課すものだ。

イスラエル当局がガザ市への攻撃を激化させ、全面的な地上侵攻に踏み切る脅威が迫る中、アムネスティが収集した証言は単なる苦難の記録を超える。イスラエルが数十年にわたってパレスチナ人を虐げてきたことに対し、ほとんど罪に問うことなく許容してきた国際システムに対する痛烈な批判だ。

イスラエルの非人道的な政策と行動は、大規模な飢餓という悲惨な事態をガザで引き起こしている。これを覆すには、即時無条件の封鎖解除と持続的な停戦が不可欠だ。封鎖とジェノサイドが民間人、特に子ども、障がい者、慢性疾患を抱える人、高齢者、妊娠中・授乳中の女性にもたらす影響は破滅的で、支援車両の数を増やしたり、形式的で効果のない危険な支援物資の空中投下を再開したりするだけでは、元には戻せない。

医療施設が機能するために必要な物資と設備を整備する必要があり、また、市民が大規模な強制移動に常に怯えることがないようしなければならない。信頼できる人道支援団体は、市民の尊厳と人間性を尊重する形で、不当な制限なしに安全に支援物資を届けたり避難場所を提供したりすることを許可されるべきだ。最も緊急を要するのは、ガザの占領を固定化したり軍事攻撃を激化させる計画を直ちに中止することだ。

世界中で数百万人が抗議のために街頭へ繰り出す一方で、世界の指導者は言葉巧みなポーズに始終している。そのような中、イスラエルは意図的で体系的な飢餓作戦を続行し、パレスチナの人びとに耐え難い苦痛を強いている。子どもたちは衰弱し、家族は、食べ物を求める子どもの叫びを前になすすべものなく立ちすくむか、命がけで援助を求めに行くか、絶望的な選択を迫られている。

アムネスティは、この数週間で3つの仮設避難所にいる19人のパレスチナ人に話を聞いた。そのうち2人は、ガザ市内の2つの病院で栄養不良の子どもを治療する医療従事者だ。

8月17日現在、ガザの保健省は、栄養不良に関連する合併症で110人の子どもの死亡を確認している。

2025年7月29日、国連の統合食料安全保障レベル分類(IPC)は、ガザ地区の大部分で食料消費量が飢饉のしきい値(飢饉が発生したと判断する基準値)に達したと発表し、飢饉という最悪のシナリオが既に進行中で、飢餓で死亡する人の数(子どもを含む)がさらに増加すると結論付けた。この深刻な現実は、栄養に携わるさまざまな機関・団体が集まった「グローバル栄養クラスター」収集のデータにも反映されており、7月に治療のために入院した子どもの急性栄養不良の症例は約1万3千件記録されている。これは2023年10月以来の最高月間記録だ。そのうち少なくとも2,800件(22%)は重度の急性栄養不良だった。

イスラエル当局は、ガザでの主要な人道支援団体、国連機関の活動を妨害し続け、命を救う支援物資の搬入要請を繰り返し拒否するなど、自らが作り出した非人道的な状況をさらに悪化させている。こうした恣意的な制限に加え、新たに導入された国際NGOの登録規則が実施されれば、被占領パレスチナ地域での活動は完全に禁止されることになる。

ガザのほとんどの家庭は限界を超えている。持っていたわずかな物資はすべて使い果たし、人道支援に完全に頼っている。イスラエル当局が主要な人道支援団体の活動を制限し、禁止するという脅威は、彼らが唯一の命綱から切り離されることを意味する。

「母親失格だと感じる」 妊娠中・授乳中の女性への影響

イスラエルの大規模な飢餓政策、複数回にわたる強制移動、命を救う支援への制限というさまざまな影響が重なり、妊婦と授乳中の母親は特に深刻な打撃を受けている。ガザにあるセーブ・ザ・チルドレンの診療所で治療を受けている妊娠中または授乳中の女性747人のうち、7月上旬時点で323人(43%)が栄養不良状態にあった。

アムネスティが聞き取りをした妊娠中・授乳中の女性は、生き延びるのに欠かせない物資が極度に不足していること、極暑のテントで妊婦としてあるいは新米の母親として生きる苦悩、食料や粉ミルク、清潔な水を入手するために必死で日々闘っていることなどを語った。また、子どもを十分支えられないことへの罪悪感、自分たちが殺された場合に誰が子どもを世話するかという不安、栄養不良が子どもの成長と健康に与える影響への心配を口にした

ジャバリアからシェイク・ラドワンにある国内避難民キャンプに避難した看護師は、2歳の息子と7カ月の娘の世話をするための日々の苦闘を語った。4月下旬には飢餓が現実のものとなり、子どもたちにわずかな食料を分け与えるため、自分は空腹を我慢せざるを得なかった。4月末には母乳が大幅に減り、母乳ポンプもなく、母親用サプリメントも極めて限られていたため、数時間にわたって授乳を試みても「母乳が出ない」という身体的・精神的苦痛を嘆いた。家族の1日の食事は、レンズ豆あるいはナスと水の一皿を分け合うというもので、彼女は幼児を優先している。子どもたちは「空腹のあまり泣きながら」眠りにつくという。ガザ全土で不足している乳児用粉ミルクは、3日分の供給で270シェケル(約11,800円)と高価で手が出ない。7カ月になる娘は4カ月の赤ちゃんの体重しかない。

キャンプ内で唯一の食料供給源であるコミュニティキッチンが3日連続で食料の提供を停止したため、子どもたちには水しかやれなかった。夫は検問所付近で支援を求めに行って負傷した。飢えで衰弱した息子は「歩きながら倒れる」状態だという。「母親失格だと感じる。飢える子どもたちを前に、自分は悪い母親なんだと」

基本的な生活必需品の不足は食料に留まらない。おむつは手に入らず、彼女は服を破って代用しているが、清潔な水がないため洗うことができない。ガザの水道・衛生システムが破壊されているからだ。夫と2人の子どもと暮らすテントには、ネズミ、蚊、ゴキブリが入り込んでくる。乳児の娘は細菌性皮膚感染症にかかったが、抗生物質や軟膏が手に入らずに治療できない。

2つの団体の人道支援員らは、自分たちの団体が抗生物質の搬入を要請したものの、イスラエル国防省の「イスラエル占領地政府活動調整官組織」(COGAT)によって拒否されたと話す。

トラウマ、罪悪感、恥などの飢餓がもたらす精神的苦痛は、アムネスティが聞き取りをした妊娠中の女性たちにも共通している。2児の母親で妊娠4カ月の28歳の女性は、胎動や心拍をほとんど感じられずに胎児に何かあったのではと恐れ、妊娠に対する罪悪感を抱えている。自分自身すら満足に食べられないからだ。「流産を心配している。一方で赤ちゃんのことを考えると、自分の飢えが赤ちゃんの健康、体重、先天性異常のリスクをもたらすのではないかと想像するだけでパニックになる。もし健康に生まれたとしても、移動、爆弾、テント生活など、この先の人生を考えると……」

彼女はこのような状況下での出産をひどく心配している。以前妊娠した時には、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が包括的な産前ケア、ビタミン剤、医療検査を提供していたが、今はまったくない。今回の調査でも過去の調査でも、ガザでの暮らしの状況と爆撃のため、子どもを欲しがっていたにもかかわらず妊娠しないという決断をした女性たちがいた。

アムネスティが行ったガザ市内の3つの国内避難民キャンプにいるパレスチナ人への聞き取りからは、深刻な状況が住民全体に共通していることが明らかになった。彼らの中には、少なくとも1カ月間、卵、魚、肉、トマト、キュウリを一切口にしていない人がおり、大多数は数カ月間もこうした食品を食べていなかった。新鮮で栄養価の高い食品が広範に不足していることは、イスラエルの封鎖と、軍事作戦の砲撃、爆撃、手榴弾で、農業用地や畜産場など食料生産源が体系的に破壊された結果だ。

2025年5月、アムネスティは、ハン・ユニス東部の町クーザに残っていた農業用地が完全に破壊されたことを確認した。この町にはガザで最も肥沃な農業用地の一部があった。

国連衛星センター(UNOSAT)と国連食糧農業機関(FAO)が7月31日に発表した評価報告書によると、破壊、爆撃、砲撃、重機使用などの紛争関連の被害により、果樹などの永年性作物の畑の86%の健康状態と密度が、大幅に低下している。

農地に入ることができないため、あるいは農地が深刻な損傷を受けたり破壊されたため、作物の収穫量が極めて少なく、野菜は入手可能であっても天文学的な価格で取引されており、住民はイスラエルが許可する極めて限られた物資にほぼ完全に依存している。国連人道問題調整事務所(OCHA)は8月13日、多くの商品の価格が実際の供給状況ではなく投機により変動し続けていると指摘。8月14日時点で、トマト1キログラムは約80シェケル(約3,500円)で、ガザへの攻撃が始まった2023年10月7日以前の価格の20倍に跳ね上がっている。イスラエル当局が、審査済みの商人を通じてガザへの一部商品の限定的な搬入を許可した後、砂糖、ナツメヤシ、一部の缶詰食品、小麦粉などの価格が下落したものの、依然として10月7日以前の価格のほぼ10倍の高水準を維持している。

漁師たちの立ち入りも港付近の狭くて危険な区域に制限されており、漁に出れば砲撃を受けたり逮捕されたりするおそれがある。

「家族に負担をかけるのが心苦しい」 高齢者への影響

ガザ北部ジャバリアの避難民キャンプから移動させられた62歳の男性は、コミュニティキッチンからレンズ豆のスープを1日分の唯一の食事として受け取った経験を語る。パンは週に一度しか配給されずに家族で分け合うしかなく、もう数カ月もの間、果物など甘いものを一切口にしていない。「私は飢えに耐えられるが、子どもたちは耐えられない」。彼は家族の人数に基づいて公平・公正なシステムを採用しているUNRWAの支援配給の再開を望んでいる。「過去には互いに支え合っていた。特に困っている人を助けていた。この戦争の初期段階でもそうだった。でも今は、生存本能に駆り立てられているだけだ」と現在の争奪戦の危険性を指摘した。

66歳の別の男性は、支援ルート付近での食料争奪戦が「人びとの人間性を奪った」と言う。「この目で、銃弾で撃たれた人たちの血で染まった小麦粉の袋を運ぶ人たちを見た。飢餓と戦争の経験はガザを完全に変えた。私たちの価値観は変わってしまったのだ」

高齢者も強制移動の影響を重く受けている。75歳の女性は死を願う気持ちを吐露した。「家族にとって負担になっていると感じている。移動させられた際、家族は私の車椅子を押さなければなりませんでした。キャンプのトイレの列は非常に長く、成人用おむつはとても高価。糖尿病、高血圧、心臓病の薬が必要ですが、期限切れの薬を飲まざるを得ない。若い子どもたち、孫たちが生きるべきだと、いつも思っている」。

飢餓と病気 命取りの組み合わせ 

ガザ最大だったアル・シファ病院の緊急救命医は、悲惨な状況を語った。乳児や既往症のある子ども、高齢者、障がいのある人などリスクの高い層は、絶え間ない恐怖と苦痛がある上に、食料、薬、清潔な水、衛生環境の不足が複合的に作用して、特に深刻な影響を受けていると指摘。飢餓、破壊、医療システムの崩壊、不衛生な環境、非人道的な条件下での複数回の強制移動などが組み合わさったこの状況がなければ、多くの患者は「通常の生活を送れていた」と強調した。

栄養価の高い食品の不足は、予防が容易な合併症を引き起こしている。例えば、腎移植を受けた10代の患者は、汚染された水と不十分な食事のため、病状が再発した。厳格な食事療法で病状を管理できていた糖尿病患者は、野菜、魚、鶏肉、豆類などの栄養豊富な食品の不足と医療物資の不足により、深刻な状況にある。

この医師はまた、極度の飢餓が他の健康危機を見えなくしており、特に感染症や水媒介性疾患、髄膜炎、ギラン・バレー症候群の急増が懸念されると述べた。食料の量だけに関心がいき全体像を見ないため、病気のまん延や以前からかかっていた慢性疾患が見落とされがちな状況(彼が言うところの「見えない災害」)が、深刻な抗生物質不足と部分的にしか機能していない病院への過度な負担と相まって、悪化しているという。

自己の免疫が末梢神経を攻撃するギラン・バレー症候群はウイルス感染などによって発症する。すべての感覚に影響を及ぼし、筋力低下を引き起こし、呼吸や心拍数に障害を及ぼす可能性があり、麻痺に至る場合もある。ガザ保健省の報告によると、2025年8月12日時点での症例は76件で、すべて7月と8月に発生している。死亡したのは4人で、そのうち2人は子どもだった。ギラン・バレー症候群の治療に不可欠な薬は、イスラエルの封鎖によりガザでは現在入手できない。

患者と医療従事者への影響はどちらも深刻だ。傷の治癒に著しく時間がかかり、適切な栄養が不足し体が弱ったため、中等度の負傷者でも長期入院を余儀なくされている。アル・シファ病院はかつてガザ最大の病院だったが、2023年11月と2024年3月のイスラエルの2度の空爆でほとんど機能していない。同病院含め同様の状況にある病院では、飢餓、破壊されたインフラ、繰り返される爆撃、不衛生なテントに移動させられるリスクという「多層的で相互に絡み合った破壊」に常に直面しており、こうした状況が医療従事者を疲弊させている。

イスラエルがガザ市への全面的な地上侵攻計画を実施すれば、既に破滅的な状況がさらに深刻な惨事に発展するおそれがある。深刻な栄養不良の子どもたちを治療する市内2カ所の安定化センターと、すでに壊滅状態にある医療施設に、不可逆的な大打撃を与えることだろう。

イスラエル内閣が、ガザ占領強化に向けガザ市制圧を承認した後、ジャバリア難民キャンプの避難民はこう漏らした。「この戦争中、14回も移動させられました。もう逃げる力はありません。障がいのある2人の子どもを運ぶお金もありません。筋肉が痛く、歩く力もなく、ましてや子どもを抱えて歩くことはできません。もし市が攻撃されるなら、ここで死を待つだけです」。

占領国として、イスラエルは法的に占領地の民間人を保護し、生存に必要な物資の搬入を容易にし、尊厳を持って支援を安全に配分し、ガザ全域で食料と医療物資が滞りなく入手できるようにする義務がある。飢餓を戦争の武器として使うことは、決して許されない。UNRWAをはじめとする国連機関と人道支援団体は、ガザ全域で安全かつ制限のない活動を保障されなければならない。

ガザのパレスチナ人の生活を意図的に破壊する行為に対し、少しずつ援助を提供して表面的な措置を十分な対応だとするイスラエルを、世界は称賛し続けてはならない。イスラエルがガザのパレスチナ人に加えている残虐行為に対し、国際社会、特にイスラエルの同盟国である欧州連合とその加盟国は、イスラエルのジェノサイドを終わらせるための道義的・法的義務を果たすべきだ。各国は、イスラエルのパレスチナ人に対するジェノサイドに加担する一切の武器移転を直ちに停止し、対象を絞った制裁を科し、ジェノサイドを支えているイスラエル機関とのあらゆる関与を断ち切らなくてはならない。

背景情報

この文書は、イスラエルが2025年3月から5月にかけて78日間実施した完全封鎖や、長年機能してきた国連主導の人道支援システムを、米国とイスラエルが支援する「ガザ人道財団」が主導する致命的で非人道的かつ非中立的な支援メカニズムに置き換えた政策と実践の影響を分析している。この政策でガザの民間人の苦しみはさらに深刻なものとなっている。

アムネスティ国際ニュース
2025年8月18日

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