- 2025年11月20日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ
- トピック:死刑廃止

イスラエル刑法の新たな改正案が第一読会を通過した。この改正案は、イスラエル人の殺害が「人種差別または公衆への敵意」を動機とし、「イスラエル国家またはユダヤ民族の復興を害する目的で」行われた場合、イスラエル裁判所が、「故意または過失」による殺害で有罪判決を受けた個人に死刑を科すことを義務付けており、物議をかもす内容だ。
これは事実上、パレスチナ人に対してのみ死刑を科すよう裁判所に義務付ける法案だ。それに対しクネセト(国会)で39人の議員が賛成票を投じて、第一読会で承認されたのだ。法案の条文自体はパレスチナ人を特に指定してはいないが、当該犯罪に関する心的要素からみて、その主な対象者はパレスチナ人となることを示している。しかも法律成立前に処罰対象となる犯罪を行った者も、同法の対象となる。
クネセト議員は死刑の適用範囲を拡大するのではなく、廃止に向けて取り組むべきである。死刑は残酷で非人道的かつ品位を傷つける究極の刑罰であり、生存権を不可逆的に否定するものである。いかなる状況下でも科されるべきではなく、ましてや国家による殺害、支配、抑圧のための露骨な差別の手段として利用されるべきではない。その強制的適用と遡及適用は、死刑の適用に関する国際的な人権法・基準が定める、明確な禁止事項に違反する。
イスラエルでは法律上、ジェノサイドや人道に対する罪といった例外的な犯罪に対して死刑が規定されているが、これまで執行はほとんどなく、最後に裁判所命令で死刑が執行されたのは1962年のことだ。
裁判所に対しパレスチナ人への死刑判決を義務付ける方向への転換は、危険かつ劇的な後退であり、イスラエルのアパルトヘイト体制とガザにおけるジェノサイドが、罰せられてこなかった結果である。これは個別の動きではない。過去10年間、超法規的処刑を含むパレスチナ人に対する違法な殺害が急増し、2023年10月以降パレスチナ人の拘禁中の死亡が恐ろしいほど増加している状況下で起きている。こうした行為はほぼ罰せられないどころか、正当化され支持され、時には称賛さえされている。また、占領下のヨルダン川西岸地域で国家の後ろ盾を得た入植者による攻撃の急増からも明らかなように、パレスチナ人に対する暴力の扇動が広がる中で起こっている。
さらに懸念されるのは、法律では軍事法廷による民間人への死刑判決が認められており、しかも減刑ができない点だ。軍事法廷ではパレスチナ人の被告に対する有罪率が99%を超える。この不公正さを考えると、なおさらである。
本法案が可決されれば、イスラエルは死刑廃止に向けた国際的な潮流に逆行するだけでなく、同国が1991年に批准した自由権規約(市民的および政治的権利に関する国際規約)が言及している死刑廃止の目標にも背くことになる。
「イスラエル国家またはユダヤ民族の復興を害する意図」をもつ、民族主義的動機による殺人罪で有罪判決を受けた個人に対し、裁判所が死刑を科すべきとする本法案の規定は、これもまたパレスチナ人に対するあからさまな差別の現れだ。法と実践の両面でのこうした制度的な差別が、イスラエルのアパルトヘイト体制を支えている。
国際社会はイスラエル政府に対し、同法案を直ちに破棄し、パレスチナ人に対するアパルトヘイト体制を助長するあらゆる法律と慣行を取り除くよう、最大限の圧力をかけるべきである。イスラエル当局は、パレスチナ人の囚人と被拘禁者が、拷問その他の虐待の禁止を定めた国際法に沿って扱われ、公正な裁判が保障されるよう、取り組まなければならない。また、あらゆる犯罪とあらゆる人びとに対する死刑の廃止に向けて、具体的な措置を講じる必要がある。
同法案は賛成39票、反対16票で第一読会を通過した。アムネスティは、犯罪の種類、有罪・無罪であるか、個人の特質、あるいは執行方法にかかわらず、例外なくあらゆる死刑に反対する。現在、113カ国がすべての犯罪に対して死刑を廃止しており、うち7カ国は2020年以降に廃止した。
アムネスティ国際ニュース
2025年11月11日
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