中国:オリンピック前の人権改善は時間切れ寸前

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2008年4月 1日
国・地域:中国
トピック:先住民族/少数民族
アムネスティ・インターナショナルは、「中国:オリンピック・カウントダウン―活動家への弾圧がオリンピックの遺産を危機にさらす」と題する報告書を発表した。この中でアムネスティは、中国政府に対し、チベット及びその周辺地域の抗議行動参加者に対してと同様に、北京その他における人権活動家たちに対する抑圧的な政策をただちにやめるよう呼びかけた。

「活動家に対する弾圧は、オリンピックで弱まるどころか強化されている」とアムネスティ・インターナショナルの事務総長アイリーン・カーンは述べた。

北京周辺では、当局はオリンピック前の「クリーンアップ」作戦で非暴力の人権活動家たちを沈黙させ、投獄している。チベットとその周辺部では、最近、デモ参加者に対する警察と軍隊の弾圧の結果、重大な人権侵害が発生している。

「こうした弾圧は、中国当局がオリンピックまでに人権状況の改善を実行する気があるのかどうか、疑問視させるものである」。

「これまでのところ、オリンピックは改革の契機にはなっていない。状況を改善するために緊急の措置がとられないかぎり、北京オリンピックに人権に関する良い意味での遺産を残すことは次第に実現不可能になりつつある」と、アイリーン・カーンは述べた。

「オリンピックがわずか4カ月後に迫っており、IOCと世界各国の指導者はしっかりと声をあげなければならない。懸念を表明し公的に改革を要求することができなければ、彼らは北京オリンピックの準備過程で中国政府によって引き起こされた人権侵害に対して暗黙の承認を与えたと受け取られてもしかたがない」。

アムネスティは、中国政府に対して、チベットとその周辺地域に国連の調査団と独立の監視団が入ることを直ちに許可すること、活動家に対する恣意的な拘禁、脅迫、嫌がらせを中止すること、懲罰的な行政拘禁をやめること、中国の全土であらゆるジャーナリストに自由な報道を認めること、すべての良心の囚人を釈放すること、死刑廃止に向けた第一段階として死刑適用犯罪の数を減らすこと、を中国政府に求めている。

報告書の要旨;

中国当局はチベット及びその周辺での抗議行動を解散させるため、過剰でときに死に至らせるほどの武力を行使している。アムネスティは、明らかに民族的動機で漢民族を狙ったものを含む暴力行為から個人やその財産を守る義務が中国当局にあることを理解している。しかし、そのための措置は国際人権基準に従い必要性と均衡性の原則を守ったものでなければならない。

長期にわたって報告されているチベットでの拷問その他の虐待のあり方から判断して、アムネスティは、チベットで拘禁されている人びとが、殴打その他の虐待を受けているであろうことを懸念している。不公正な裁判で死刑判決を受けるおそれもある。アムネスティは中国政府に対して、拘禁中のすべての人の氏名と所在、そして法的地位を明らかにすること、平和的な抗議行動のみで拘禁された人びとをただちに釈放するよう求めている。

チベットとその周辺地域でほとんどの報道機関が取材を認められない事態は、単に事実の確認ができないということだけでなく、オリンピックを前に中国政府が「完全な報道の自由」を約束したことが守られていないということを意味している。

アムネスティの報告書は、人権活動家たちが人権侵害の事実を報告したり、人権上の問題意識を北京がオリンピック開催地となったことと関連づけたことで訴追されたケースについて詳しく記述している。アムネスティは、意見を表明しただけの理由で拘禁されている以下の2人を含む非暴力活動家の即時かつ無条件の釈放を求めている。

楊春林(Yang Chunlin)は土地の権利に関する活動家であり、「私たちはオリンピックよりも人権を求める」というスローガンでキャンペーンを呼びかけたため、3月25日に「国家転覆扇動罪」で5年の刑を宣告された。彼は拘禁中に警察官によって拷問を受けたと伝えられているが、このことについての裁判所への申し立ては拒否された。

北京の活動家、胡佳(Hu Jia)は、すでに数カ月間の自宅軟禁処分を受けたのち、3月18日に自身の人権擁護活動を理由に「国家転覆扇動罪」で裁判にかけられた。彼の妻の曾金燕(Zeng Jinyan)も、生まれたばかりの子どもとともに警察の厳しい監視下におかれている。

オリンピック前の「クリーンアップ」作戦でも、陳情に訪れた何千もの人びとが北京で拘束され、その多くが故郷に送還された。こうした行為は、 2003年に廃止が大々的に発表され、人権に向かっての重要な一歩とされたかつての「収容遺送」という国内移民に対する送還保留中の拘禁制度を思い起こさせる。陳情者たちの一部は、「労働による再教育(労働教養)」に入れられた。これも裁判なしでの長期拘禁を可能にする不正な拘禁制度のひとつであり、何年も前から中国の改革の課題とされているものである。

外国人ジャーナリストの報道の自由を拡大する新しい法令が昨年導入されたが、チベットには適用されず、北京や他の地域で数人の記者が「デリケートな問題」に関する取材を拒まれている。国内メディアに対する厳しい制限は今も続いており、インターネットの検閲も、最近北京でもっともターゲットにされているHIV/エイズに関するいくつかのニュースサイトに関してさらに厳しくなっている。報告書は、情報統制は北京でSMS(携帯メールサービス)にまで及んでいることを示唆している。

報告書は、最高人民法院による再審査の再開によって昨年の死刑判決と執行の数が大きく減少したとの発表を歓迎しつつも、中国政府に対し、これを裏付けるために中国における死刑に関する完全な統計を発表するよう、再度要請している。

2008年4月1日

*報告書の原文(英語)は以下からご覧になれます。
・2008年4月「中国:オリンピック・カウントダウン―活動家への取り締まりがオリンピックの遺産を危機にさらす」(英語)
・2008年4月 「中国:オリンピック・カウントダウン―チベットの抗議行動への弾圧」(英語)
 

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