セルビア(コソボを含む):強制立ち退きにより、数百に上る家族が不安を抱く

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2012年5月 7日
国・地域:セルビア(コソボを含む)
トピック:強制立ち退き
ベオグラード市当局は4月26日、市内のベルビル居住区において、大規模な強制立ち退きを執行した。これは、立ち退きを受けるロマの人びとと話し合うことも、彼らに対して適切な情報や通達、また法的な救済を提供することもなく、行なわれたものである。

話し合いを持たずに執行されたため、該当する250家族の中には、一家離散に追い込まれる家族や、住む所がない家族が出る可能性もある。

「セルビア政府は、ベオグラード市当局にこの立ち退きの執行を許可しました。このことによって、セルビア政府は、悪質な国際法違反をしたことになるのです」とアムネスティの欧州・中央アジア部長ジョン・ダルフセインは述べた。

「アムネスティは、強制立ち退きを禁止し、あらゆる立ち退きに対する保障を規定する法律の制定を繰り返し要求します。これは、本日再びベルビルで起こったような、あからさまな国際法の違反を防止するためなのです」

■家を追われ、行き場を失った住民たち

26日の立ち退きが執行された際に、ベオグラード市警および市当局による武力の行使はなかった。この立ち退きは、報道陣だけでなくアムネスティや現地のNGO、国連、駐セルビア欧州連合代表部および欧州安全保障協力機構からの各代表の監視の下、行なわれたものだった。

しかしながら、あらかじめ話し合いを持たなかったことが、ベルビルの住民たちに苦痛を与えたことは明らかであった。立ち退きが執行されている間、住民たちは怯え、混乱していた。

「住民たちは涙を浮かべて、『どうすればいいのでしょうか、どこへ行けばいいのでしょうか』、と私たちに聞きにきたのです」とその場にいたアムネスティの監視員は述べた。

妊娠中の17歳の女性は、家も住む場所もないセルビア南部の町のニシュに移住することになる、と告げられている。

また、家族でありながらベオグラード市周辺の複数の異なる場所に送られ、一家離散に追い込まれているケースもあった。

■コンテナに住むことを強いられる

当局がベオグラード市民として登録している家族は、ベオグラード市周辺にある4ヵ所の隔離されたコンテナ居住区にすでに移住させられている。これは、2009年以降、他の非認可居住区から立ち退きをさせられているロマの人びとと同じである。

アムネスティは、ラコヴィツァの居住区に移住するよう指示されている複数の家族のことを憂慮している。それは、彼らが、別のレズニックという場所に送られる可能性があるためである。そのレズニックのコミュニティは、新たなコンテナ居住区に移ることに対して数週間に渡って反対しているのである。

立ち退きにあったロマの人びとは、適切な住宅として国際基準を満たしていない金属製のコンテナに数年間に渡って住むことになると思われる。所持品を持っていくことはできたものの、彼らが生計を立てるために使っているスクラップを持っていくことは認められず、またこれらのコンテナの居住地域ではスクラップの収集や保管は許可できないと告げられている。

話し合いを持たなかったことが招いた影響は、疑う余地がない。

障害があるため車椅子を使用し、自分の娘に介護してもらっている女性は、娘が住む居住区から離れた場所に移住させられた。その女性がNGO団体に訴えた後、4月26日の朝になってやっと当局は女性を一週間程で現在の居住区から移住させると約束したが、すでに被害は出てしまっている。

また、ある男性は職場から遠すぎるという理由で割り当てられたコンテナに住むことを拒否したが、今後のことは全くわからない状況に置かれている。

100以上の家族が一つのグループとしてバスに乗せられ、セルビアの異なる地域に送還されることになっているが、その中には送還されても住む所がない、とアムネスティに訴える家族もいる。

ある家族は「私たちはどうなるのか、南部から来た人びとはどうなるのか、子供たちは? 病人は? 障害がある人はどうなるのか?と市の代表者に具体的なことを尋ねようとしましたが、ごく一般的な回答しかなく、それは回答と言えるものではありませんでした」とアムネスティに述べた。

多くのロマが仕事を探し、家族を支えるためセルビア各地からベオグラードに移り住んだ。

ベルビルの環境の方がよかった、とアムネスティに話す人びともいる。「ここでは学校に通う子供たちもおり、彼らは学校で頑張っていました。しかし南部でどうすればいいのでしょうか? 全くお金がないのに、どうやって子供たちを学校に通わせることができるのでしょうか?」

■適正な手続きも、情報の提供も、話し合いもない

セルビアのNGOがここ数日間で行なった調査によると、ロマの人びとが送られる先の自治体では、適切な受け入れ準備がほとんどされていない。そのため、今回バスで移住させられる人びとの中には大きな不安を感じ、先行きを危惧している人びともいる。

9月に建設予定の連絡道路用地に住む家族だけは現在も残っているが、道路の建設が始まり次第、彼らもまた移住させられることになっている。26日に立ち退きを受けた家族は、この建設計画がある道路沿いには住んでおらず、移住させられる理由も知らされていない。

「立ち退きを受けた人びとやその他の多くの人びとが不安に感じている原因が、ロマの人びととの間に、誠意のある適切な話し合いが持たれなかったことにあることは明らかです。そして、それは、いかにそのような話し合いが必要であったかを示唆しているのです」とダルフセインは述べた。

「アムネスティは、現地のNGOとともに、ベルビルからの立ち退きが執行されるまでの過程を監視してきました。そして情報の提供も、適正な手続きも、また話し合いもなかったことを自身の目で見てきました。残念なことに、それは、私たちのまさに目の前で、大規模な強制立ち退きによって、ロマの人びとの生活や権利が奪われるという結末を迎えることになったのです」

アムネスティ国際配信ニュース
2012年4月26日