- 2018年5月 9日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:スペイン
- トピック:
スペイン政府が実施する金融引き締め政策により、低所得者層の人びとは、極めて深刻な状況に追い込まれている。病院にかかりたくても予約者であふれかえり、受診をあきらめたり、経費節減で薬剤の処方を制限されたりしている。
2009年、政府は、世界的な財政危機のあおりを受けて医療費削減に着手した。その緊縮財政策には、コスト負担の患者への転嫁、非正規移民に対する医療制限、医療関連の人件費、設備費、インフラ費用などの予算削減などが盛り込まれた。
アムネスティは、アンダルシアとガリシアで国民保健制度の利用者、医療従事者、公衆衛生の専門家など、243人に話を聞いた。
経済的負担の増加
聞き取り調査により、国が緊縮政策を導入して以来、慢性疾患の患者の多くが、以前は無料だった薬剤が有料になり、その支払いに困っていることが分かった。高額ではないにしても、低所得者にはその費用負担が大きくのしかかる。
保健制度利用者や家族など世話をする人たちの話では、医療費の工面で親族を頼ったり、最低限必要な薬しか買えなかったりするという。
窮地に立つ医療従事者
財政危機が始まって以来、医療従事者に関する予算が見直され、給料の削減や労働環境の悪化、雇用契約の不安定化などの問題が発生してきた。その結果、医療機関の雇用人員数が減り、保健制度下の従業員数は、2012年から3年間で28,500人も減少した。
看護師の1人は、アムネスティに、「大勢の看護師がストレスで辞めていった。看護師1人が担当する患者は1日33人。しかも扱いが難しい患者ばかりだ」と話していた。
また複数の医療従事者が、「治療コストの削減を命じられているため、ストレスは日々大きくなる」と話す。彼らは、コスト削減や増える仕事で極度に疲弊し、治療が満足にできない状況にある。「自分が無力だと感じる。現行の制度には幻滅している」と嘆いた。
予約待ち115日
治療を受けたくとも、予約待ちが途方もなく長い。この点も、聞き取りをした関係者が異口同音に指摘していた。通常の手術でも、2010年で65日待ちだったのが、2016年には、ほぼ倍の115日になった。
精神衛生分野でもまた、緊縮政策による打撃は大きかった。急増する失業や住居立ち退きなどの影響で精神疾患の患者が増えているだけに、こちらも深刻な問題だ。
医療の質の低下
医療の従事者も利用者も、医療設備の質の劣化を嘆いた。例えば、複数の看護師が「糖尿病検査の注射針の質が低下したため、患者に苦痛を強いている」という。車いす利用患者らは「車椅子の質が低下した」と指摘した。
また、聞き取りをしたほぼ全員が口にしたのは、患者1人当たりの診療時間が短くなったということだった。
このように緊縮財政が人権に悪影響を及ぼしかねないとあって、複数の国際人権団体は、金融引き締め策が各国が負う国際的な人権義務を遵守したものとなるよう指針を作成した。
この指針に照らし合わせると、スペイン政府の対応は、いくつもの点で問題があることがわかる。具体的には次の点だ。
- 政策を実施する前に、実施による人権への影響評価を行わず、また、政策を立案・実施する上での事前協議の場や内容が不十分であった。
- 今回の政策は、低所得者層に過度の負担を強いている。
- 他の選択肢がないわけではなかった。
- 指針は金融引き締め政策は暫定的であるべきだとするが、改訂された保健制度は、数年間効力を持つことになっている。
アムネスティはスペイン政府に対して、直ちに緊縮政策を見直し、誰もが質の高い医療が受けられる体制づくりを求めている。具体的には、社会的弱者が不利を被らない、医療従事者の労働環境を改善するなどだ。
政府はまた、緊縮策が健康に対する権利に及ぼした影響を幅広く評価する調査を速やかに実行すべきだ。景気後退は、人々の権利の侵害を正当化するものではない。
アムネスティ国際ニュース
2018年4月24日
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