中国:体に自らメスを入れるトランスジェンダーの人びと

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2019年5月11日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:中国
トピック:性的指向と性自認

中国のトランスジェンダーの人びとは、根強い差別や偏見、制度利用上の資格制限、入手できる情報の制約などさまざまな問題に直面している。性別適合治療・処置を受けたくても受けられないため、自分で「手術」を施す危険を冒したり、闇のマーケットで怪しげなホルモン治療薬を購入したりしている。

トランスジェンダーの人びとのほとんどが、自分の性自認を隠す。知られれば、家庭、学校、職場、病院などいたるところで差別を受ける。

そんな中、中国各地の15人のトランスジェンダーの人びとが、アムネスティの聞き取りに応じてくれた。

聞き取り調査からは、同国のトランスジェンダーの人びとをめぐる逼迫した状況が浮かび上がってきた。

多くが、自認する性と持って生まれた身体的性の不一致に悩み、社会のさまざまな差別や障壁にぶつかり、苦悶してきた様子を語ってくれた。

21才のZさん(トランスジェンダーの女性)は、男性の身体に耐えがたい嫌悪感があり、ホルモン療法を始めた。「体をどうしても変えたかった。その体が薬で少しずつ変わってきた。今はずっと気分が楽。やっと自分らしくなれた気がする」

聞き取りをした多くの人が、公的医療制度の中でどうやったら性別適合治療・処置を受けられるか知らなかった。差別的で厳格な資格要件に加え、必要な情報を容易に入手できないのだ。

関係当局や医療従事者はトランスジェンダーを精神病患と分類しており、性別適合手術を受けるためには家族の同意が義務付けられる。これが、安全な手術を受けるにあたって、大きな壁となる。家族に受け入れられないと思い悩み、多くは家族に話さないという。他にも、未婚であることや犯罪歴がないことなどの要件があり、さらなる障壁となる。

トランスジェンダーの人びとは、国に見捨てられ、法的、政策的にさまざまな差別や制限を受けている。

危険な自己手術

国の医療制度に見捨てられ、自らの手での手術という危険を冒す人もいる。

聞き取りした15人中2人がそうだった。恵民さん(30才)は、思春期を過ぎて以降、男性の体と女性としての性自認の不一致をいかに解消するか、悩みに悩んだ。自分ことを異常者だと思ったこともあったという。

大学生のときに自分で治療を始めた。インターネットの闇市場でホルモン治療薬を買ったが、1カ月後にやめた。感情の揺れが大きく、情緒不安定になったからだ。

病院での性別適合治療は、選択肢にはならなかった。家族に同意を求めたら自分を拒絶されてしまうと思ったのだ。2016年、捨て身の決心で自ら体にメスを入れた。やっと女性になれるという思いと、止まらない出血への恐怖があったという。手術は中途半端で「男の体のままで死ぬのかな」と切羽詰まり、病院に駆け込んでことなきを得た。2017年、母親に思いを告白し、あるがままを受け入れてくれたため、タイで手術を受けた。

危険な治療

社会制度が機能せず、関係機関や医者に頼ることもできないため、残された手立ては闇市場となる。ソーシャルメディア、オンラインショップ、国外の販売者などの闇のマーケットだ。

闇の薬剤は、料金が法外なだけではない。法的規制を受けない闇市場で流通するホルモン治療薬など薬剤は、偽物だったり健康被害を引き起こしたりするおそれがつきまとう。聞き取りをした全員が専門家に相談せず、投与量や副作用、品質などについて何の知識もないまま、闇の薬を服用した。多くの人びとが、気分が揺れ動く経験し、中にはうつ状態に陥ったという人もいた。いずれの場合でも、だれも医者には行かなかったという。

届かない情報

聞き取りした人びとは、友人やインターネットで得た情報で治療法を知った。

昨年9月、国内初となる性別適合治療・処置専門の学際的医療チームが、北京大学第三病院内に立ち上げられた。もっとも、医療専門家向けガイドラインそのものが、本来目指すべき目的から逸脱している。的外れなガイドラインの存在は、情報不足と相まって、トランスジェンダーの人びとには、厄介な問題となる。

今年3月、中国は、LGBTI(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・インターセックス)の人びとに対する差別禁止の法制化を求める国連人権理事会の勧告を受け入れた。

中国は、トランスジェンダーを精神疾患と見なす分類を廃止し、性別適合治療・処置の要件を緩和し、利用者に資する医療・健康情報の提供に努めるべきである。これらのさまざまな壁を取り除くことで、LGBTIの人びとが直面する差別の問題に真剣に取り組む国の姿勢を示すことになる。

アムネスティ国際ニュース
2019年5月9日

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