中国:SNSの検閲に挑むネット市民

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2020年3月19日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:中国
トピック:

(C) Amnesty International
(C) Amnesty International

今、中国では、ソーシャルメディアで交わされる会話を十分理解するには、中国語ができるだけでは不十分な事態が起きている。

世界で最も厳しいとされるネット検閲をすり抜けるために、ネットユーザーが、インターネットで使用する言葉や表記にさまざまな工夫を凝らしているためである。一方、当局側は、ネットから排除する話題や言葉を常に増やしているため、ネットで使用される言葉は、日々変化している。

ネット上の言葉をめぐる中国市民と当局の攻防は、現在の新型コロナウイルス禍をめぐっても、同様に繰り広げられている。

感染拡大でネット検閲強化

市民が必要とする情報の隠ぺいや制限など、感染初期の国の対応は、行政府への批判に拍車をかけた。オンライン上の批判が急増するにつれ、ネット使用される批判的表現が、次々に検閲され、削除されるようになった。

1月、ミニブログサービス微博(ウェイボー)のユーザーは、最初に感染が始まった地域である「武漢」と「湖北」という文字の使用が規制されていることを批判した。しかし、この書き込みを読めたのは、一部のネットユーザーだけで、この批判は封じ込められた。

メッセージアプリの微信(ウィーチャット)では、「習近平が武漢に行く」や「武漢、中国共産党、危機、北京」といった言葉の組み合わせは、徹底的に排除された。

ネット市民は、例えば、「武漢」と「湖北省」の頭文字の「武」や「湖」を使ってメッセージを送り始めたが、簡略化でかえってメッセージが伝わりにくくなった。

中国紅十字会(中国の赤十字組織)とその物資配給の配給能力が疑問視されるようになったときは、ネット市民は、「紅十字会」という表記が検閲されることを見越し、代わりに「赤十」を使った。紅十字会が、物資を適切に取り扱っていなかったことに批判的な声が上がると、「物資が赤色に」というハッシュタグが拡散した。

もう一つの例をあげると、「F4」だ。F4は、2000年代初めに中国でも人気を博した台湾男性4人のバンドのことだが、今は、「F4」と書けば、4人の地方政治家を意味するようになっている。湖北省知事、中国共産党河北省委員会書記、武漢市長、武漢党書記の4人である。中国市民の多くは、感染拡大の責任は、この4人にあるとみている。

また、一見何気ないが、意味深長なやりとりがSNSで飛び交っている。

例えば、12月末にウイルス感染の拡大に警鐘を鳴らし、後に亡くなった李文亮医師が、警察に問い詰められているとき、次のようなやりとりが交わされたという。

警官は、「ウイルス感染に関わる違法行為をやめろ!」と言い「できるか?」と迫り、李医師は「できる」と返し、「わかっているのか?」に「わかっている」と答えた。

この部分を含むやりとりの一部が外部に漏れ、すぐさまSNSでは「できるか?できる。わかったか?わかった」といったフレーズが、ウイルスのように拡散した。拡散した投稿は直ちに削除されたが、これに対抗してネットユーザーは、反抗心をむき出しするかのように、「わからないし、わかりたくもない」などと書き込んだ。

その日の夜、微博では、ハッシュタグ「表現の自由がほしい」が広がり始めたが、まもなく削除され、その後は使えなくなった。

中国語 新表現集

新型コロナウイルスの感染が拡大し、SNSの監視が強まる中、削除される言葉は日に日に増えてきた。しかし、ネット市民は、あの手この手で表現を工夫し、検閲をかいくぐろうとしている。

最もよくある例では、「政府」は、「政」「府」それぞれの第一音を並べた「zf」で表し、同様に「警察」なら「jc」、公安機関には、「国宝」あるいはパンダの画像、共産党中央宣伝部は、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に登場する「真理省」が、当てられる。

中国では、「グレート・ファイアウォール(インターネットの大規模検閲システムのこと)」があるため、国外のウェブサイトを見ることができないが、VPNという通信網を使えば、この巨大な壁を乗り越え、FacebookやTwitterなどにアクセスできるようになる。

そして、このVPNという文字の使用を避けるために、「はしご」あるいは「ベトナムの麺料理フォー」を意味する中国語が使われる。というのも、「はしご」は、「登る」ものであり、「ベトナムの麺料理フォー」の中国語発音は、「壁を登って超える」という中国語と似た発音だからである。

また、天安門事件が起こった日である「6月4日」という表記は、検閲削除の頻度が過去最多の部類に入るが、この表記に代わって登場したのが、「5月35日」「4月65日」(どちらも6月4日になる)、「8の2乗」(=64)などだった。

言葉の才能か創造力の浪費か

中国のネットユーザーには、しばしば、ばかばかしいほどのクリエイティブ力が求められる。

Q&Aコミュニティサイト知乎に投稿された「狭い首の瓶を十分に洗う方法」という質問は、一見、珍妙でたわいなさそうだが、「狭い首の瓶」の中国語発音が国家主席の「習近平」の発音と似ているため、検閲・削除を逃れない。

同様に、親が子どもの学力を愚痴るかのような「学びが悪い」という投稿も、たちどころに削除される。同じく国家主席の名前に「習」があるからである。

中国の検閲は、ネット市民にとって大変厄介な問題である。検閲・削除対象となる言葉は、常に変化し、どの言葉が対象になっているかが、公にされることはないからである。

あるユーザーが使えても、他のユーザーが使えない言葉もある。そのため、ネットの人たちは、検閲に対抗するため、使用する言葉に細心の注意を払う。

ネット市民には、記者、学生、学者、活動家らの中の、ある種の天賦の才がある者がいて、代用表現集づくりに余念がない。

とはいえ、この終わりなきいたちごっこで、彼らのエネルギーの消耗は避けられない。とりわけ、自分のアカウントが取り消され、新たなアカウントの取得やフォロワーとの再接続などの作業を余儀なくさせられるとなれば、なおさらである。

こうした知恵と創造力は、検閲を逃れる闘いより、もっと実りあることに発揮できるのではないか。そう感じさせられる事態でもある。

アムネスティ国際ニュース
2020年3月6日

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