米国:#FreeMauraの成功 〜移民の正当な人権保護を求めて〜

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2021年8月 6日
[ブログ]
国・地域:米国
トピック:難民と移民

2年越しの釈放!

米国の移民収容施設にて2年以上にわたって拘束されていた、ニカラグア出身でトランスジェンダー女性のマウラさん。世界中から届いた連帯の声と活動家たちの尽力が実を結び、ついに2021年7月に施設から釈放されました。彼女はこれまでジェンダー差別や不当収容など数々の試練を乗り越えてきました。これまでの彼女の境遇を通して、南米で根強く残るトンラスジェンダー差別、そして米国の移民収容問題について考えてみましょう。

トランスジェンダー女性のマウラさん(写真)は約20年前、母国ニカラグア、そしてメキシコでの堪え難い差別や暴力から逃れるために米国へ移住しました。移住後はサンディエゴの高校に通い、接客業に従事し、人生の半分あまりを米国で過ごしてきました。

ところが、その米国でも再び試練に直面します。トラブルに巻き込まれ逮捕されてしまい、カリフォルニアの収容施設に送られたのです。そして送還を前提に、2019年4月から2021年7月に至るまでの2年間以上にわたって不当に収容され続けました。収容施設でマウラさんは虐待を受けたり、適切な治療を受けられなかったりと、苦しい生活を強いられてきたと言います。

マウラさんがニカラグアに送還されれば、大きな危険にさらされる

マウラさんの母国ニカラグアでは2018年以降全国的な反政府デモが行われており、デモの参加者と政府側との対立によって治安状況が悪化しています。警察や政府派の武装組織が大きな力を持ち、デモに賛同する人権活動家、法律家、ジャーナリスト、そして医療従事者までもが強引に逮捕されたり攻撃されたりしています。特に、国外逃亡者は当局のターゲットとなりやすいことが報告されています。

また、ニカラグアではLGBTIコミュニティに対する差別意識が根強く、法的にもLGBTIの権利は十分に保護されていません。つまり数十年前に母国から逃亡し、かつトランスジェンダー女性であるマウラさんは、ニカラグアに送還されれば大きな危険に晒される可能性があるのです。

ニカラグアの刑務所でトランスジェンダー女性が直面する危険

トランスジェンダー女性が逮捕されて刑務所に入れられると、数々のハラスメントにさらされます。ジェンダーを尊重されず、男性と同じ部屋に入れられたり、「デッドネーミング」といって性自認とは反する出生名を使われます。ホルモン治療も適切に受けられません。トラスジェンダー女性にとって、ヒゲが生えてきてしまったりして自分のなりたい姿で生活することができないこと、狭い部屋で複数の男性と寝泊まりしなければならないこと、自身のジェンダーを尊重してもらえないことには、大きな精神的苦痛が伴うものです。こうした状況が続くと、不安障害、うつ、薬物乱用などの深刻な問題につながる可能性があります。

また、刑務所では感染症の危険とも常に隣り合わせです。刑務所内で受けた性暴力などを媒介として新たにHIVに感染してしまう危険があり、感染しても適切な治療を受けられません。ましてや新型コロナウイルス対策は万全からは程遠く、入所者たちは日々感染リスクに晒されます。

中南米諸国では二の次にされるLGBTIの人権

アルゼンチン、エクアドル、ブラジル、コロンビア、ウルグアイ、メキシコなどで同性婚の法制化が実現し、今後の動きが注目される中南米ですが、いまだ根強く残る差別によって、LGBTIの人たちはさまざまな困難を強いられ、暴力を受けることがあります。

ニカラグアの北に位置するエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの3カ国では、性的指向に基づく差別や暴力が絶えません。アムネスティの聞き取り調査では、LGBTIの人びとが、日常的に虐待や暴力を受けたり、ギャングから金品を強奪されたり、警察官からも狙われることがあるという証言が多く寄せられました。この3カ国は、殺人件数で世界最悪レベルでもあります。政府関係者の腐敗がまん延し、加害者が罰せられることはまずないといいます。

こうした危険から逃れるために、たくさんの人が国を出て、LGBTI難民となります。安息を求めてその多くが米国を目指しますが、縦断するメキシコでは厳しい状況が待っています。2016年と2017年の国連高等難民弁務官の調査によると、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス出身のLGBTI難民の3分の2が、メキシコで性的な、あるいはジェンダーに基づく嫌がらせや暴力を受けました。特に、メキシコ南部の国境付近を縄張りとするギャングがLGBTI難民の人たちを脅迫する事件が深刻です。

なんとか国境を超えて米国にたどり着いたとしても、LGBTI難民の人たちは収容所でひどい対応を受けてきたといいます。

米国の移民収容の現状

米国では、2021年1月に新たに発足したバイデン政権のもと寛大な移民政策を推進していく姿勢が打ち出されました。一方で、移民収容システムを是正するための具体的な取り組みはまだ行われていません。何千人もの人が収容されており、さらに何千人もが真っ当な庇護申請の機会も与えられずに元の国へ送還され続けています。

収容施設の劣悪な生活環境も報告されています。これら施設の多くは民営の刑務所組織によって運営されており、不衛生、虐待、医療提供体制の不備など、身の安全が保証されない過酷な環境だそうです。

さらに、この移民収容は人種差別の温床にもなっています。有色人種が収容移民の大半を占めており、特に黒人移民はすぐに送還される傾向にあるなど、入所者は人種差別や人権侵害にさらされてきました。

いつ送還されるかもわからない状況で、マウラさんは2年以上にわたりさまざまな困難を強いられていました。

世界中からの声が釈放を実現!

毎年6月は「プライド月間」と呼ばれ、世界各地でLGBTIの権利に関連するさまざまな取り組みが盛り上がりをみせます。「プライド」とは、LGBTIであることに誇りを持ち胸を張って生きていくという意思を示す言葉であり、プライドを祝う、あるいはLGBTIの権利を主張する、さまざまな催しを指す言葉でもあります。

そんなプライド月間に際し、アムネスティを含む市民団体によって、マウラさんの釈放を求めるキャンペーン「#FreeMaura」が立ち上がりました。キャンペーンに賛同した全世界14,000人以上の人びとが、米国の収容施設を管理する行政機関に対し、一斉にEメールを送信しました。また、ソーシャルメディアでは「#FreeMaura」のハッシュタグとともに、連帯を示すメッセージがたくさん投稿されました。マウラさんのもとへはたくさんの励ましの手紙が届けられました。

活動家たちの尽力や、世界中からの釈放を求める声を受け、7月のはじめにマウラさんはついに釈放されました。釈放されたマウラさんからは、感謝と喜びのメッセージが届いています。

「私はとても幸せです。まだ信じられません。あの地獄から出られることはないと思っていました。あそこはとても苦しく、恐ろしくて、トラウマになる場所でした。私はこの世界で一人だと思っていましたし、闘い続ける意味はないと思っていました。その後、まったく面識のない世界中の人びとが、とても協力的でとても善良な人びとであることに気づきました。私に届いた世界中からの手紙は、私にとって心の支えになりました。とても嬉しく思います。とても感謝しています」

アムネスティ・インターナショナル日本
2021年8月6日

 

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