- 2024年6月27日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:米国
- トピック:性と生殖の権利
連邦最高裁判所が2022年に人工妊娠中絶は憲法で保障された女性の権利だとする1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆して以来、フェイスブックやインスタグラム、ティックトックといった主要ソーシャルメディアは中絶の医療情報を含む中絶関係のコンテンツを削除している。
ソーシャルメディアが、中絶関連のコンテンツを十分に検証することなく削除することで中絶医療を受けることが困難になる可能性があり、健康の権利や身体の自己決定権が脅かされることにつながりかねない。
こういったIT企業が中絶関連の情報を削除することで、情報の入手は一層困難になるばかりか、妊娠可能な人びとに対する差別や人権侵害につながる可能性がある。正確で偏りのない情報の提供は、生殖医療の重要な役割であり、企業は利用者がこれらの情報を容易に入手できるように改善すべきだ。
中絶関連のコンテンツの削除により、情報をソーシャルメディアに依存する若者が受ける影響は特に大きい。さらに2022年に「ロー対ウェイド」判決が覆されて以来、20を超える州が中絶情報のオンラインでの入手や利用を制限し、一部の州では中絶情報へのオンラインアクセス自体を制限する法律が導入された。
アムネスティの調査によると、22年以降、全米の中絶件数の半数以上を占める安全な中絶薬に関する情報が、削除、一時的非表示、「グラフィックまたは暴力的な内容を含む」可能性のある「センシティブ・コンテンツ」として警告され見えなくされたりした。コミュニティ規程違反、あるいは中絶薬の売買する気がないのに売買を告知していたという理由で削除されたものもあった。
例えば昨年4月27日、安全な中絶と避妊の利用増加を目指す団体Ipasが、世界保険機構(WHO)が推奨する中絶薬の使用方法をインスタグラムに投稿したところ、投稿が削除された。インスタグラムは削除理由を「違法もしくは規制薬物の販売目的だったため」としているが、投稿には薬剤の販売に関する記述はなかった。
2022年、多くの州が中絶禁止の動きを加速させる中、米国などで活動する性教育や性的健康サービスを提供する非営利団体「プランド・ペアレントフッド」は中絶が合法あるいは規制されている地域の情報を投稿したが、情報にぼかしがかけられ、「センシティブ・コンテンツ」とあった。
薬による中絶の情報とアクセスを提供する非営利団体Plan Cや薬による中絶サービスを遠隔で提供するHey Janeのような情報の提供団体も、同様に情報を削除されたり、説明がないままSNSのアカウントを停止されたこともあった。直近では、今年、テキサス州の団体で州外での中絶を支援するLilith Fundが、中絶情報へのリンクを張った投稿がフェイスブックによってブロックされた。また中絶薬について正しい知識と関連情報の入手方法を提供する非営利団体Mayday Healthは、インスタグラムのアカウントを一時的に停止された。
一般に公開されているティックトックやメタ(フェイスブックとインスタグラム)のコミュニティ規定とコンテンツ・モデレーション(不適切なコンテンツを監視し必要に応じて削除等を行うこと)では、中絶関連のコンテンツに対してどのように抑制しているのか、十分な説明がなされていない。ティックトックは、「手術、または手順や外科技術、検査に関する科学的記事における中絶の議論」は許可しているというが、中絶薬について触れていない。一方、メタのコミュニティ規定には、中絶に関する明確な言及はない。
アムネスティがメタとティックトックに説明を求めると、「メタは健康に関する権利は認識しており、教育目的での中絶薬のコンテンツは認めている」との回答だった。また、「医薬関係の合法的な情報を提供するサイトも許可しているが、医薬品の購入・販売・取引・寄付もしくは贈与を求める行為は禁止している」ということだった。さらにティックトックは、「生殖に関する健康や中絶に関するコンテンツと情報に対して、禁止や規制は行っていないが、誤った医療情報を含むコンテンツは禁止している」とも回答した。
メタとティックトックでは、それぞれのコミュニティ規定が中絶関連のコンテンツにどのように適用されているのか、透明性を一層高めるべきだ。またレコメンデーション(おすすめ)やアルゴリズムを使用した基準の適用についても、透明性を保つ必要がある。さらにコンテンツを判断するシステムや、中絶関係のコンテンツを規制する可能性のあるシステムによって利用者が受ける被害も積極的に特定し、予防し、対応すべきだ。
アムネスティ国際ニュース
2024年6月11日
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