ネパール:賞賛される自然保護 排除される先住民族

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2021年8月19日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:ネパール
トピック:先住民族/少数民族

ネパールの先住民族はこの50年間、国の自然保護政策により、居住地から排除されるなどの人権侵害を繰り返し受けてきたことが、アムネスティ・インターナショナルと地域自立センター(生活資源を奪われるなどして困窮する弱者や地域を支援するネパールの団体)の共同調査で明らかになった。

重点的に調査したチトワン国立公園とバルディア国立公園では、先住民族の人びとに対する逮捕、拷問、殺人、強制退去が、頻繁に発生してきた。

ネパールでは、その国土のおよそ4分の1が、国立公園などの自然保護地域に指定されている。指定された地域には、かつては先住民族の人びとが住んでいた。1970年代から始まった自然保護政策の強引な執行で、先住民族の人びとは、先祖伝来の土地を奪われ、伝統的な食事や薬草などの採取が厳しく制限され、つつましい生活の場を失った。

ネパールはしばしば、自然保護に成功した国と言われるが、残念なことに、同国の自然保護は、先住民族の犠牲の上に成り立っているとも言える。

強制立ち退き

ネパールの国土のおよそ4分の1は、国立公園など自然保護地域からなるが、保護地域の大半が、先住民族の人びとのかつての居住地だった。

先祖代々受け継いできた土地を追われた先住民族の多くは、代替の生計手段や立ち退きによる損失の補償を受けていなかった。長年、非公認の土地に住んでおり、いつ立ち退きを迫られるかわからない。

アムネスティと地域自立センターは国立公園当局による強制立ち退きや未遂の事例を記録している。

チトワン国立公園の周辺部の「緩衝地帯」(地元住民が森林資源を利用できるように指定された地域)に、洪水や土砂崩れで家を失った先住民族チェパンの10家族が住んでいた。彼らが昨年7月、強制退去を受けた。代替の生活手段を提供されることもなく、退去で失った損失の補償もなかった。口頭で立退命令が出されたのは、立ち退き日のわずか1週間前だった。これは、国際基準にも国内法にも違反する。

その後、森林環境省は、立ち退きに至った背景を調査していると言ってきたが、再三の求めにもかかわらず、調査結果に関わる情報を得ることはできていない。

バルディア国立公園では、数十年前にあった洪水で川の流れが変わり、複数の先住民族の土地が、国立公園の一部とみなされるようになった。先住民族の人びとは、土地を奪われたにもかかわらず、土地利用税の支払いを続けてきた。彼らは、その理由をこう説明する。「いつか再び自分たちの土地に出入りすることができると思っているからだ。作物被害の補償請求には、納税領収書が必要になる」。

食料と物資の入手

ネパールの国立公園・野生動物保護法は、保護地域を管理する上で最も重要とされる法律だ。狩猟、伐採、耕作や森林利用を制限し、建造物は一切、認めない。だが、これらの規制は、先住民族の生活様式を根底から変えてしまった。

「緩衝地帯」に住む人びとは緩衝地帯の森に立ち入ることができるが、緩衝地帯の外に再定住している先住民族は、国立公園の森に入ることは禁じられている。そのため、すでに家や土地、生活の糧としてきた森林資源を奪われた人びとは困窮に追いやられ、食料や健康、住居への不安を抱えることになりかねない。

生活手段を失い、家計を支えることができないため、土地を追われた先住民族の多くは、他人の土地を耕作して小作人となることを余儀なくされている。手にするのは収穫の50%だ。この状況も深刻な人権問題をはらむ。聞き取りに応じた人たちによれば、小作人は、家事、飼料集め、燃料の薪集めなどの作業を無報酬で強いられるなど、しばしば地主の搾取を受けているという。

不当逮捕、虐待や拷問などの暴力

先住民族の人びとは国立公園や保護地域に立ち入ったために、しばしば、軍に逮捕・拘束される。中には、拘束中に虐待や拷問を受けて命を落とす人もいる。

法律では、国立公園などでの軍の役割やその活動は、明確に定められていない。最近の調査では、チトワン国立公園の緩衝地帯での軍の役割が拡大し、駐留する兵士の数が増えていることが確認されている。

ほぼ半世紀にわたり、先住民族は、憲法でその権利を保証されているにもかかわらず国から見捨てられてきた。先住民族が、先祖から受け継いできた土地の権利を認められ、その土地に戻ることができるよう、政府は政策を変えるべきだ。

同時に国は、その失政で先住民族の人びとが被った損失に対し十分補償すべきであり、補償に向けた協議に参加する権利を先住民族の人びとに保障する法改正も不可欠だ。

アムネスティ国際ニュース
2021年8月9日

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