スリランカ:イスラム教徒への憎悪と暴力 国が後押し

  1. ホーム
  2. ニュースリリース
  3. 国際事務局発表ニュース
  4. スリランカ:イスラム教徒への憎悪と暴力 国が後押し
2021年10月23日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:スリランカ
トピック:

スリランカでは2013年以来、イスラム教徒らへの差別、嫌がらせ、暴力が続き、政府が、少数派のイスラム教徒や民族を露骨に差別する政策を取るまでになっている。アムネスティは、多数派のシンハラ人仏教徒の主張が急速に強まる中、反イスラム感情が拡大する過程を追い、報告書にまとめた。

イスラム教徒らを標的にした政府の対応には、新型コロナウイルスの感染で亡くなったイスラム教徒にイスラム教が禁止する火葬の強制、ニカブ(顔を覆うベール)の着用禁止や宗教学校の閉鎖などを定めた法案の提出などがある。

スリランカでの反イスラム感情は、今に始まったことではないが、最近では、当局の暗黙の了解のもとイスラム教徒への襲撃事件が急増している。背景には、政府のイスラム教徒をあからさまに敵視する発言や対応がある。

スリランカ政府は、この憂慮すべき風潮を断ち切り、イスラム教徒を暴力から保護し、加害者を取り締まり、イスラム教徒を標的にする政策をやめなければならない。

強まる敵意

イスラム教徒への憎悪に拍車をかけたのが、2013年にハラル(イスラム教の経典などで食べてもよいとされる食品)に反対する運動だった。シンハラ人仏教徒によるロビー活動が奏功し、ハラルの認証制度が廃止された。この動きがきっかけとなり、モスクやイスラム教徒の商店への襲撃が増え、襲撃犯は野放しにされた。

2015年に発足した政権は、宗教的少数者の保護や暴力行為の取り締まりを約束したが、事態は改善しなかった。2017年と翌年にも、イスラム教徒を襲撃する事件が複数件あったが、いずれの襲撃の際も治安当局は、襲撃を未然に阻止する措置やイスラム教徒の保護策を取らず、襲撃犯を拘束することもなかった。

復活祭事件で憎悪の激化

2019年4月21日のイースター(キリストの復活を祝う日)に、コロンボ市内などの複数の教会でイスラム教組織による自爆攻撃があり、250人以上が殺害された。後に「イスラム国」を自称する武装組織が犯行声明を出したこの事件で、イスラム教徒への憎悪は、一層高まった。翌月の5月、イスラム歴で特に神聖な月であるラマダンの最中に、複数の都市でイスラム教徒が襲撃された。各地のモスクが襲撃を受け、ソーシャルメディアには、イスラム教徒への罵詈雑言や辛辣なコメントが飛び交った。急きょ、施行された緊急規制も、イスラム教徒の恣意的な逮捕に利用されただけだった。

イスラム教徒を標的にする政策

政府は、政治や経済の問題から市民の関心をそらすために、イスラム教徒を悪者に仕立て上げた差別政策を取り続けた。その一つが、イスラム教徒に対する火葬の強制だった。

国連人権理事会でのスリランカに対する投票を控える中、火葬の強制に国際社会からの批判を受け、政府は火葬強制策を撤回した。しかし、今もなお、ニカブの着用禁止などの差別的法案の準備を進め、差別姿勢を取り続けている。これらの法案が可決・施行されると、スリランカ憲法やスリランカが遵守すべき国際人権法が保障する、宗教に基づく差別からの自由を侵害することになる。

当局は、イスラム教徒の差別に既存の法律も適用している。その一つテロ防止法では、容疑者を起訴なしに最高90日間拘束でき、裁判所に出頭させる必要もない。これは、人種的・宗教的憎悪の宣伝を禁止する国際人権規約の悪用でもある。他にも政府批判者や少数民族の活動家が、法律の強引な適用で逮捕されたり、投獄されたりした事例がある。

アムネスティは、スリランカ政府に対し現在審議中の法案の再考を、国際社会にはスリランカの少数派の人びとの自由と保護に向けた監視と対策を、強く求める。

アムネスティ国際ニュース
2021年10月17日

英語のニュースを読む

関連ニュースリリース