南スーダン:西エクアトリア州紛争 避難民が語る襲撃と殺りくの恐怖

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2021年12月21日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:南スーダン
トピック:地域紛争

今年6月から10月にかけて南スーダンの西エクアトリア州タンブラ郡で武装勢力同士の衝突があり、数十人の市民が死亡し、8万人以上が土地を追われた。アムネスティが避難した市民らに聞き取りをして、明らかになった。

武力衝突は、政府の南スーダン人民防衛軍(SSPDF)に同調する武装グループと、SSPDFと対立するスーダン人民解放軍反政府派(SPLA-IO)に同調する武装グループの間で起きた。

今回の武力衝突による人権侵害の詳細な調査としては初めてとなるアムネスティの現地調査で、かつては民族間で結婚するほど仲がよかったアザンデとバランダの人びとに対する戦争犯罪など国際法に違反する行為が、すべての武装グループにより行われている可能性があることがわかった。

政治家らが民族間の対立を煽り、若者を戦闘に動員した結果、殺戮、破壊、分断が起きた。聞き取りをした避難民の多くが、逃げる人たちが殺害され、死体に火を放たれてばらばらにされるなど、目を覆う襲撃の様子を語った。

襲撃には地元の武装グループだけでなく、政府派と反政府派それぞれの武力勢力に属するグループも加わっており、武力衝突が部族間の暴力をはるかに超えるものであることを示している。

アムネスティは、国内避難民、人道支援者、政府関係者、活動家ら76人に聞き取りをした。76人のうち50人は、アザンデ、バランダ、両方の血を継ぐ人びとのいずれかで、紛争から逃れ、かつては激しい武力衝突があった地域で避難生活を送っている。

市民の拉致、殺人、暴力

証言者のうち13人が、凄まじい襲撃を受けた様子を口々に話した。何時間にもわたる乱射、村全体を焼き尽くす放火、銃を使った、あるいは刃物で喉を掻き切る処刑行為などがあったという。戦闘員ではない市民や捕虜を故意に殺すのは、戦争犯罪にあたる。

自宅や避難先のシェルターは、安全ではなかった。飛んできた流れ弾で負傷する人たちもいた。安全な場所や食糧を求めて外に出て、殺される例も多かった。証言した避難民の大多数は、家族を亡くしていた。

多くの人が、避難している道中で遺体が埋葬される様子や路肩に横たわる死体を見た。また、家族が何カ月も行方不明で、すでに死んでいるかもしれないと話す人もいた。地元自治体の集計によると、市民の死者数はおよそ300人に上った。

タンブラ郡に住んでいたバランダの女性(20歳)は、目の前で夫を殺された。家族3人が寝入っているときに、アザンデ語を話す男たちに押し入られ、床に座らされた夫は銃で撃たれ、崩れ落ちたという。

アザンデの女性(41歳)は、弟を撃ち殺され、その後姉と逃げる途中、藪の中で武装した男たちに拘束された。他にも多数が拘束され、何人かは殺されたという。姉妹は、他の拘束されている人たちとともに後ろ手に縛ら、座らされた。1歳半の女性の息子はその横に置かれた。そして、兵士が姉の頭を片足で踏み、姉の首をナイフで切りつけた。その時、アザンデ寄りの武装グループが乗り込できたため、姉妹は難を逃れた。

別の女性は、兄が首をはねられて焼かれたのを見たという。夫と3人の子どもは、その数週間前に拉致され殺された。さらに別の女性の兄弟も、命乞いをしているのに耳を切り取られ、斬殺された。

7人の証言者は、お腹をえぐられた妊婦と胎児の遺体を何度か目にしたという。また、犠牲になった家族を埋葬するため自宅に戻ろうとしたが、男たちが待ち構えていたため、埋葬を諦め、遺体を放置するしかなかったと嘆く証言が8件あった。

体が不自由な高齢者たちが取り残され、殺されたという証言も複数あった。精神障がいのある女性が殴り殺され、遺体に火をつけられるのを見た、という証言もあった。

略奪と破壊

聞き取りをしたほぼ全員が、略奪や自宅の放火を経験し、その多くは、いつ襲われるかわからないため作物の収穫ができず、収入源を断れた。アムネスティは衛星画像を分析し、6月から10月にかけてタンブラ郡の至る所で破壊された家屋や倉庫があることを確認した。

医療施設が略奪を受け、住民が治療を受けられなくなるという国際法違反の行為もあった。人道支援者によると、タンブラ郡にある20の医療機関のうち13機関が破壊され、残りもほぼ機能していないという。

タンブラ郡の学校で開校しているのは、53校中わずか8校だけだ。話を聞いた避難民全員が、子どもたちはもう何カ月も通学していないということだった。

7人の証言によると、アザンデ寄りのSSPDFに同調する民兵が、小学校を占拠し兵舎にしていたが、当局の説得で11月に撤収した。この占拠は、国際人権法や人道法を蔑ろにするものであり、武装紛争下で学校や大学を軍事目的使用から守る国際的な指針「学校保護宣言」に反する。同宣言には南スーダンも調印している。

土地を追われ人道危機に

南スーダンの統計によると、紛争で8万人を超える市民が住み慣れた土地を追われた。国連平和維持軍が警護する仮設避難所に入る市民もいる。他の人たちは、3日から10日かけて歩くなどして州都ヤンビオや他の都市に逃れた。

逃げる途中で散り散りになったままの家族もいた。持ち物は衣服が入ったリュックのみで何も口にせずに何日も歩いたという人たちもいた。道中で15歳の娘が出産したり、3歳の娘が病気の悪化で亡くなったりしたという親もいた。

野営テントや地域の避難所に駆け込んだ人たちは、避難施設には食糧や薬もなく悲惨な状態で、耐えられなかったという。アムネスティの調査員も施設を訪れ、状況を確認した。ほとんどの避難民は、支援の食糧をまったく受け取っていないか、半月に一回、最低限の食糧を提供されるだけだった。

「子どもの病気が悪化するが、治療費などない。食糧もないし、餓死するしかない」と嘆く女性(42歳)もいた。女性は7月に、7人の子どもを連れてタンブラの町からヤンビオまで歩いたという。

紛争の収束が発表されたとはいえ、避難民の多くが、部族間の敵意を煽っていた戦闘員や政治家がいるので怖いという。また、戻っても家も農地もないと嘆く。多くの人が、心のケアを含む早急な人道的支援を求めた。

今後、国には各地の復興を促進する取り組みが必要だ。具体的には、生活上最低限必要な物資や食糧支援や支援の促進、避難民が安全で自主的に帰宅できる環境の確保、戦争犯罪などの違法行為の責任を問うことなどだ。

西エクアトリア州内の紛争で、総合的な視点からの責任を追求する手続きが必要なことがあらためて確認された。真実の解明、改革、補償、アフリカ連合委員会と連携して、南スーダンにハイブリッド法廷を設置するなどだ。

一方、国連安全保障理事会は、武装勢力への武器の流れを断ち切るために、武器禁輸措置を継続しなければならない。

背景情報

西エクアトリア州の最近の武力衝突は、2018年の和平協定で敵対する紛争当事者間の権限分割協定の一環として、2020年5月に同州がスーダン人民解放軍反政府派(SPLM-IO)に配分されたことに端を発すると言える。その後、SPLM-IO幹部であるリエック・マチャル第一副大統領が同州の知事を任命したことが、アザンデの政治エリートの怒りを買った。

2020年初め、暫定統一政権ができたが、全土で衝突が続き、対立する武装グループに加え、それぞれの武装グループを支持する地元の武装集団の間で衝突が起きた。説明責任と治安回復に関わる事項など和平協定の主要条件は、いまだまとまっていない。

アムネスティ国際ニュース
2021年12月9日

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