- 2025年10月30日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:米国
- トピック:

9月初旬以降少なくとも57人の死者を出したラテンアメリカ・カリブ海地域における米軍の空爆は違法であり、議会は直ちに米政府によるさらなる爆撃を阻止する行動を取るべきだ。
過去2カ月間、米南方軍はトランプ政権の違法な命令に従い、殺戮を続けている。政権は犠牲者の名前すら公表せず、彼らが犯したとされる犯罪の証拠も提示していない。仮に提示したとしても、生命に対する差し迫った脅威をまったく及ぼさない犯罪容疑者を意図的に殺害することは、紛れもない殺人だ。遅きに失したものの、議会は政権の違法行為に対する監視機能を行使し、これらの違法な空爆を止め、殺人の責任者を追及しなければならない。
証拠も法的根拠もない
米当局はこれまでにラテンアメリカ周辺で13回(カリブ海で8回、太平洋で5回)の空爆を行ったと発表している。トランプ政権は、標的が麻薬密輸を行う「麻薬テロリスト」であったと主張することで自らの行動を正当化しようとしているが、その根拠となる証拠は一切提示されていない。
麻薬密輸船の疑いがある船舶の阻止は法執行活動であり、すべての人には生命の権利、公正な裁判を受ける権利があると定めた国際人権法が適用される。国家が致死的な武力を行使できるのは、生命に対する差し迫った脅威が存在し、拘束などのより穏健な手段が不十分な場合に限られる。そのような状況以外で国家が意図的に人を殺害することは、被害者が行ったとされる犯罪の内容にかかわらず、超法規的処刑(政府当局が正式な法手続きを経ずに行う殺人)である。
一連の空爆について、トランプ政権は、犠牲者が人命に差し迫った脅威を与えていたという証拠をまったく提示していない。たとえその船や個人が麻薬を密輸していたとしても、麻薬を所持しているだけでは、致死的な武力行使を正当化できる差し迫った脅威とはならない。
また、米国沿岸警備隊が日常的に行っているように、船舶を停船させて乗船することが不可能だったという証拠も、政府当局者は示していない。実際、マルコ・ルビオ国務長官は、米国は最初に攻撃した船を拿捕することも可能だったものの、爆撃を選択したと認めている。
米南方軍による空爆は、違法な行動を取り続けている政権による不正行為だ。トランプ政権が薬物依存問題に取り組みたいのであれば、ラテンアメリカやカリブ海で違法に船を爆破する代わりに、米国内の治療と予防のための公衆衛生プログラムに十分な資金を投入すべきだ。麻薬カルテルによる犯罪であろうと、麻薬を輸送している麻薬カルテルの一員であると米国当局が主張する者を自分たちの手で処刑することは、国際法および国内法の両方において犯罪だ。米国内の路上でも、公海でも、そのような行為は許されない。
カリブ海・東太平洋は戦場ではない
政府当局者は米国が麻薬カルテルと「戦争状態にある」と主張し、戦場で敵戦闘員の殺害を認める戦争法がカリブ海や太平洋にも適用されるとの見解を示している。この主張は誤りである。米国はカリブ海やラテンアメリカにおけるいかなる武力紛争にも関与していない。麻薬密売者を含むいかなる者も、軍事的対応を正当化するような形で米国を攻撃したことはない。
さらに、議会はカルテルに対する軍事力行使を承認していない。仮に議会が承認したとしても、これらの空爆は国際人権法の下で違法であることに変わりはない。
この件で戦争法は断じて適用されない。カリブ海と東太平洋は、敵を運んでいると米国政府が主張する船を米軍が爆撃できる戦場ではない。法執行を名目とした軍隊の展開は、これまでも使われてきた(そして失敗してきた)権威主義的な手法であり、ラテンアメリカで繰り返し深刻な人権侵害を引き起こしてきた。一連の空爆はまた、司法手続きを経ずに人びとを処刑しようとする他の指導者たちに対し、暗黙の承認という恐ろしいメッセージを送っていることになる。
議会は、政権が海外や米国内でこれ以上の殺人を行わないよう、空爆を阻止するためにその権限の及ぶ限りのことを行わなければならない。また、直接の加害者と命令を下した者を含む、殺人の責任者を裁判にかけるよう要求すべきだ。議員たちは責任の所在を明らかにするため、米国政府の最高レベルにまで及ぶ徹底的かつ独立した調査を行わなければならない。
ドナルド・トランプ大統領は、すでにこの殺人を命じた責任を公に認めている。大統領自身と政府高官は、議会の監視や国際法に関する懸念をはねつけ、この殺人を公然と自慢している。
米国議会、米国市民、そして国際社会は、こうした非人道的で冷酷な空爆を終わらせ、責任を追及するために、あらゆる警鐘を鳴らすべきだ。人命は、支配者の気まぐれに委ねられるべきではない。どんな大統領であろうと、自分の行動に対する責任をとることなく恣意的に人を殺す権利などない。
アムネスティ国際ニュース
2025年10月29日
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