1月17日(日)アムネスティ日本東京事務所で、セミナー「子どもの貧困~日本とアメリカの現状~」を開催しました。講師はNPO法人さいたまユースサポートネット代表・青砥恭さんと京都外国語大学講師・岡村千恵子さんです。

主催したアムネスティ・インターナショナル日本 子どもネットワークが報告します。

日本における子どもの貧困(講師:青砥恭さん)

NPO法人さいたまユースサポートネット代表・青砥恭さんNPO法人さいたまユースサポートネット代表・青砥恭さん

青砥さんはまず、「戦後日本の教育はGHQの主導で『すべての子どもに中等教育を』の観点で平等・ゆとり教育を行ってきましたが、高度成長期になると生産現場で役に立つ人材を育てる目的で競争・詰め込み教育にシフトしていきました。

しかし、これが行き詰まっていくと格差が徐々に広がっていき、1990年代のバブル崩壊、2008年のリーマンショックを経て貧困層が拡大していきました。そしてそれを止めるシステムが日本にはなかったのです。」と述べました。

そして、EUの移民問題を例に上げて「国家の保護を受けないことがどれだけ厳しいか。本来の国家のシステムとは特定の人だけではなく、すべての人々に奉仕する、すべての利益に奉仕するものであって、今こそ国家の役割が問われているのではないでしょうか。」と続けました。

■なぜ若者支援が必要か?

スウェーデンでは20代の若者の7~8割が選挙に行きますが、日本では2割です。若者の中で、選挙に行っても何も変わらない、自分たちのための政治だと信じていない考えが広がってきています。それに対して私達大人は、若者達に政治参加させるような具体策を持っていないのが現状です。

そして政府は、本来ならば国の予算で行うべき子どもの貧困対策に対し、2015年の4月から企業に基金を募っています。しかし、今現在ほとんど財源が集まっていません。なぜ政治家達は本気で貧困対策を行わないかと言うと、それをやっても票にならないからです。50~60代から上の世代の人達の選挙率が高いため、その世代をターゲットにした政策を掲げないと票が取れないのです。 

「このような目先の利益だけを考えた政策だけではなく、これから先50~60年と日本を支えていく若者達のことを考えていくことが、大人達の使命ではないでしょうか」と、青砥さんは語り掛けました。

■若者達が不安定化する要因

青砥さんいわく、若者達の不安定化には大きく二つの要因、「雇用の流動化と学費の問題」があるそうです。

日本は学費が世界一高額で、親の仕事(賃金)が安定していないと子どもの学校生活・進学に大きな影響を与えます。授業料の未払いなどで高校・大学の中退・進路未決定・就職(正規・非正規)・早期離職などの問題が出てきます。そして奨学金を受給して大学に進学しても返済が高すぎて、在学中・卒業後と長く背負っていかなければならない、返済できるかわからない、といった悩みを抱えています。

2013年の自己破産7万件中、奨学金関連が1万件もあるそうです。

就職に関しては、卒業しても労働市場への参入が困難な若者が増えているのに、中退した者は労働市場からの脱落・排除という問題が出てきます。

■制度のはざまの子ども・若者達の支援

不登校・高校中退・ひきこもり・貧困などで学校社会からはじき出された子ども・若者への支援は、フリースクールでの勉強など親に経済的余裕があれば援助できますが、余裕のない家庭の子ども達に対するセーフティネットは今の制度では、ほとんどない状態です。

「社会とのつながり・親のサポートの弱い子どもや若者達に、今の大人達はどう支援し関わっていけるのか考えていかなければならない。」と青砥さんは話していました。

アメリカにおける子どもの貧困(講師:岡村千恵子さん)

京都外国語大学講師・岡村千恵子さん京都外国語大学講師・岡村千恵子さん

岡村さんは最初に、アメリカの基本情報として、日本の教育制度は文部科学省の管轄ですが、アメリカでは教育が合衆国憲法のなかで規定されていないことから、州は州憲法と州法にもとづいて独自に州内の教育全般を統括しており、教育制度は50州ごとに異なっていることを話していました。就学義務に関する規定も州により異なっていて、義務教育年限は9~12年とばらばらで、9年又は10年とする州が最も多くあるそうです。

他にも、日本では今日 6ー3ー3制が採用されている初等・中等教育(小・中・高の学校教育)はアメリカでも同様に12年間ですが、その間の学校段階の区切り方は5ー3ー4、6ー2ー4、4ー4ー4制など実に多様です。 また、現地での写真を用いてアメリカの学校の授業・校内の風景を紹介してくださいました。日本との一番の違いは、生徒たちの多様な人種です。

そして校内では教室や廊下に人種差別・いじめゼロを目指すいろいろなポスターが張ってあります。なかでも小学校で政治に関心を持たせることを意図した掲示物や、大学進学への準備を児童に具体的に考えさせるポスターコンテストの作品掲示物が張ってあり、かなり低年齢のうちに自分の将来と社会のことを考えさせている点は印象的でした。

■深刻化する子どもの貧困

アメリカの子どもの貧困率は23.1%。先進国35ヵ国中2番目(日本は14.9%で先進国35ヵ国中9番目)というなかで、近年私立初等・中等学校の入学数が減少傾向にあり、公立学校の入学者数が増えているそうです。これは景気の変動により、保護者が負担する学費が捻出できない家庭が増加し、貧困が社会にさらに広がってきている証拠になっています。

地域別(北東部・南部・中西部・西部)でみると南部が特に厳しい状況にあり、最も貧困状態が厳しい地域はミシシッピ州だそうです。郊外や農村よりも都市の方が深刻化してきています。人種・民族間で比較してみると、どの民族においても貧困家庭で暮らす子どもの割合は増加していますが、特に黒人、ヒスパニックなどの貧困が深刻化しています。このような現実の中で、社会の中での犯罪の増加、無秩序、モラルの欠如を引き起こすといった問題が起きることが考えられます。

最後に子どもの貧困の改善に向けて、「何か一つを改善すれば解決するという訳ではなく、いろいろな社会問題(経済・雇用問題・人種・移民問題など)にアプローチする、将来に希望が持てる社会づくりが必要だ。」と、岡村さんはまとめました。

「安心して学べる、居場所にもなることが必要。」

お二人の講演後、質疑応答の時間になり、その中でも子ども・若者の居場所作り(子ども食堂・学習支援の場)に関する質問に対して、「単に食事を出す・勉強を教えるだけではなく、安心して学べる、居場所にもなることが必要。」と、青砥さんが説明したことが印象的でした。

貧困層の子ども・若者達は社会的に孤立している場合が多いので、言葉・感情・しゃべる・聞いてもらうことなどの社会的な適応能力・コミュニティ形成力が低いのです。地域の大人達と交流することによって、そのスキルを高めていく、そして安心して話ができる・相談に乗ってもらえる居場所を作っていくことが必要です。

そのために、政府は社会的基盤、地域の人達はその地域的基盤を率先して作っていく必要があるのではないでしょうか。このようなことを考えながら、自分達に出来ることを模索していきたいと思います。

青砥さん、岡村さん、講演会参加者のみなさん、ありがとうございました。

開催日 2016年1月17日(日)
場所 アムネスティ・インターナショナル日本 東京事務所
主催 アムネスティ・インターナショナル日本 子どもネットワーク

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