2022年11月25日(金) 、アムネスティ日本 死刑廃止ネットワークチーム(大阪) の主催で、「死刑廃止を考える」オンライントークイベントを開催しました。

まず最初にアムネスティ・インターナショナル日本より日本の死刑状況についての簡単な説明がありました。その後、約1時間にわたって作家の石井光太さんより、近親殺人についてのお話がありました。親族間で起こる近親殺人というのは、被害者家族が同時に加害者家族でもあるという極めて特異な状況です。日本の殺人事件は昭和30年代をピークに年々減少傾向にあります。ここ数年の殺人認知件数は1000件を下回っています。そして驚くことに、そのおよそ半数が親族間による殺人事件です。

石井さんはまず近親殺人を大きく5つに分類しました。「わが子を殺める児童虐待」「自分の親、祖父母を殺める高齢者虐待」「心中」「老々介護、精神疾患を患った家族の介護に疲弊して殺人に至る」「親の年金、財産を狙う金銭問題」です。各分類に関して具体的事例を挙げて詳細な説明がありましたが、ここでは割愛します。

なぜこのような近親殺人が日本の殺人事件に特徴的であるのか?石井さんは次にそれを引き起こしている社会的背景について3つお話をされました。まず、「家族の在り方の変化」です。かつての日本は大家族で生活をしていたので、当然色々な人が1つの家の中に居ました。従って、家庭の中に一対一の濃密な共依存関係は存在しませんでした。ところが、現代はどうでしょうか?地域とのつながりが薄れ、核家族・少子化が進んできました。そしてかつては「子は勝手に育つ」ものであったのに、現代では「子は親が育てる」ものに変化し、その結果、家庭の中がますます濃密になりやすくなってきました。大らかであった家庭内の空気がギスギスしたものへと変化を遂げました。次に「貧困の問題」です。親を介護する子が実は経済的に親に依存している。極端な言い方をすれば、貧困の中での共依存関係。貧困者(子)がもう一人の貧困者(親)に自分の人生を託せざるを得ない状況が生まれているということです。最後は「家族の中に精神障碍者が増えてきている」ということです。そしてそういった人たちの社会での受け皿がなくなってしまったということが大きな問題となっています。

以上のように近親殺人の分類とそれが起こる背景をお話されましたが、実はこのような親族間の殺人事件の実態を知っている人が余りにも少ないという問題提起がなされました。日本のメディアは他人による殺人事件を報道する傾向にあります。なぜなら、親族間の殺人事件よりも重い刑罰が加害者に科されるからです。もう一つ、近親殺人が表にでにくい要因として、近親殺人は「加害者家族が被害者家族でもあるので、家族の実態を暴くことが難しい」ということです。このような事情によって、人々は近親殺人について考えるきっかけを奪われ、実はかなりの数の近親殺人が行われているにも関わらず、根本的な問題点について議論されることはあまりありません。近親殺人が語られないということは、実は(近親殺人を引き起こす背景を担っている)社会が変化しないという我々にとっては極めて遺憾な状態が改善されず残されてしまうということを意味しています。

ご講演の後、約30分ほど質疑応答の時間がありました。事前に主催者側に送られてきた質問や講演を通じてチャットで送られてきた視聴者さんの質問に対して、石井さんのご意見、ご感想を頂きました。1つだけ挙げておきます。近親殺人ということに特化すると、欧米社会は日本社会よりもその数が圧倒的に少ないのはなぜか?簡単に言うと、それは「個人主義」の発達の度合いの違いに依拠しています。ある家族の構成員が抱えている問題を社会で支える欧米社会に比べて、日本社会は当該家族で支え合います。そうすると当然、家族間が濃密になり家族の中で殺人が起こってしまう可能性が大きくなります。欧米では他者へ向かう暴力が、日本社会では家族の中に収斂されていきます。その他にも興味深い質問がいくつもあり、各質問に対して、石井さんからは丁寧かつ明瞭な答えが返ってきました。

紙面では講演会の様子の一部しかお伝えできないのが残念ですが、ぜひ、本イベントを収録したYouTube動画(冒頭)をご覧ください。

 

開催日 2022年11月25日(金) 18:00-19:30
開催方法 オンライン (Youtube配信)
主催 アムネスティ日本 死刑廃止ネットワークチーム大阪