先住民族/少数民族 - マレーシアの先住民族

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マレーシアの先住民族

急激な近代化を進めるマレーシアで、先住民族に対する人権侵害は多発しており、その多くは土地をめぐる問題です。80年代以降、政府や企業は先住民族の暮らしていた森林を伐採し、ダムやニュータウン、プランテーションなどを次々と開発し続けています。先住民族には慣習的土地利用権が州法によって認められていても、それは軽視され、政府や企業による開発が優先されています。先祖から受け継いだ生活基盤である森林が失われることは、土地が痩せ、食料源の減少、川の汚染や枯渇、病気の蔓延に繋がり、先住民族への影響は計り知れないものです。

1997年、スランゴール州で暮らしていたセノイ系マフリム族の住民約100世帯に対し、先住民族の集落としての土地登記が未了であるとし、政府系パーム油企業であるゴールデン・ホープ社が立ち退きを要求しました。同年、サラワク州バコン地区でプランテーション企業セガラカム社、プラナ社が進める慣習地での開発に反対してバリケード設置や抗議集会をしていたイバン族を、警察が令状なく大量に逮捕し、暴力をふるったり、銃撃したりしました。また、こうした開発反対運動のリーダーや参加者が誘拐されることもあります。

2007年、サラワク州のプナン族ケレサウ・ナーン氏が行方不明となり、2カ月後に彼の遺骨が発見されました。ナーン氏は、州政府と伐採 業者サムリン社によるサラワク州バラム北部の先住民族慣習地で森林伐採に反対して道路封鎖を主導した一人でした。彼の遺体には暴行を受けたと思われる傷痕がありました。サムリン社の関係者がナーン氏の息子の元を訪れ、彼の死は暴行によるものではないという書類にサインさせようとしましたが、息子がこれを拒んだため、サインを偽造したといわれています。

先住民族の土地をめぐる事例は多数あります。マレーシア国家人権委員会への申し立ての8割は土地問題ですが、先住民族からの土地所有権に関する申し立て1万件以上が未調査です。土地所有権の所在が明確になっていないこと、政府の一方的な告知(先住民族があまり購読しない新聞等)だけで所有権の変更がなされていることなどが対立の原因となっています。

国立公園の開発

サラワク州北部に位置するグヌン・ムル国立公園は2000年にユネスコ世界自然遺産に登録され、広大な熱帯雨林や巨大な洞窟群、多様な動物たちを見に、年間1万6000人以上の観光客が押し寄せています。しかし、国立公園化の過程でも先住民族への人権侵害が見られます。

この地域には、ブラワン族とプナン族が暮らしていました。しかし、国立公園としてこの地域を保護していくために、移動型の耕作生活や狩猟 生活を送っていた彼らは立ち退きを要求され、近隣の村に再定住させられました。1974年に保護地域に指定され、国立公園化が発表されて以来、彼らは自分たちの神聖な土地が破壊されることや、食糧確保が困難となることを危惧し、反対を続けてきました。それでも開発は進み、1993年には観光客誘致のための巨大リゾート(ロイヤル・ムル・リゾート)まで造成されました。1999年には、グヌン・ムル国立公園を世界自然遺産に登録する話が具体化した際には、先住民族であるブラワン族、プナン族は協議されるどころか、候補地となっていることすら知らされませんでした。その翌年、ロイヤル・ムル・リゾートでムル世界遺産会議が開催された際には、議事は全て英語で進められました。ブラワン族、プナン族も約30名が招待されていましたが、通訳がなかったため内容を理解できないまま会議は終了し、2000年11月、ムル国立公園は世界自然遺産に登録されました。

ダム建設

ダム建設も、先住民族を脅かす原因の一つです。1999年、スランゴール州北部に暮らす約1万人のトゥムアン族は、スンガイ・スランゴールダム建設に伴い、600ヘクタールの自然が破壊され、自分たちの村がダムの底に沈む不安から計画に反対していました。しかし、計画が実行される前に説明 を受けることはありませんでした。その後、州政府や企業と協議した結果、他村へ再定住させられることとなりました。

数あるダム建設の中でも、サラワク州の世界最大級の水力発電ダム建設画(バクン・ダム計画)は、提案された1980年代初期からずっと論争が続いています。この計画はマレーシア電力公社テナガ・ナショナル社が進めており、シンガポールの面積ほどの規模で、15の先住民族の村(1640世帯、約1万人)が立ち退き、他村へ再定住しなければなりませんでした。不況のため、1986年と1997年に工事が中断されましたが、現在、2009年末 の一部完成、2011年の本格運用を目標に建設が進んでいます。

しかし、サラワク州で暮らしていたプナン族、カヤン族、カジャン族、ウキット族、クニャー族は、事前にダム建設について何ら説明を受けな いまま、立ち退きを要求され、伝統的な生活を奪われました。彼らは再定住先について十分知らされないまま新住居の購入を契約させられ、再定住後の経済支援も十分なものではなく、食料や仕事も減少しました。この再定住は、工事が不況の影響で中断されていた1999年に行われたため、開発に対する不信感をあおりました。さらに2008年、2020年までに12基の水力発電ダムを建設することが明らかになりました。これで総電力量は7000メガワットとなり、これは2008年にサラワク州で生産された電力の6倍に相当します。

女性への暴力

マレーシアでは年間3000件以上の強かん事件が報告されています。しかし、全ての事件が報告されているわけではなく、この数字は実際の 10%程度と見られています。先住民族の女性や少女が被害者となったケースも数多くあります。2008年9月、サラワク州でプナン人の女性2人がマレー系 森林伐採労働者に強かんされました。労働者はその伐採地域でキャンプ生活をしており、酩酊状態でプナン人の村に現れ、住民たちを脅かしていたことがよくありました。「プナン人の女性は、日常的に森林伐採業者に性的虐待されている。学校が長期休暇に入ると、彼らは村にいる子どもを狙ってひんぱんに現れ、最悪の状況だ」と話す住民もいます。その翌月、マレーシア政府はこの事件の捜査を開始するとしましたが、警察の発表は起訴すべき事件はないというものでした。

先住民族の女性が強かんされた事件は、これまでも多々無視されてきました。1994年、プナン人の12歳の少女が強かんされた事件では、 スイスのNGOであるブルーノ・マンサー基金(BMF)が犯人逮捕に十分な情報を警察に提供しましたが、情報不十分として取り上げられませんでした。

先住民族の強かん事件では、メディアの扱いも問題となります。メディアはこうした事件を積極的に報道しません。さらに同年11月、サラワ ク州の地元紙ボルネオ・ポスト紙が「レイプ事件はBMFのでっちあげ」という記事を掲載しました。同紙は森林伐採業者KTS社が保有する新聞社であるた め、このような記事が載ったと考えられます。

強かん事件のほかにも、2007年にはバノン州で暮らしていた先住民族の若い女性12人が次々と行方不明になる事件が発生しました。外部の人間が若い女性に家政婦などの仕事を与えるといって連れ出し、その後、彼女たちと連絡が取れなくなったのです。先住民族の半数以上が貧困層といわれる現 状につけこんだ事件と考えられます。

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