日本:名張毒ぶどう酒事件―再審請求を棄却、えん罪を作り出す刑事司法は許されない

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2014年5月28日
[日本支部声明]
国・地域:日本
トピック:死刑廃止

奥西勝さん(C)Private
奥西勝さん(C)Private

名張毒ぶどう酒事件の第8次再審請求の差戻し審理において、名古屋高等裁判所刑事第一部は、奥西勝さんの再審請求を棄却した。アムネスティ・インターナショナル日本は、この決定に対して強い懸念を表明するとともに、あらためて、再審理の機会を保障するよう強く求める。

昨年11月に弁護団は、新たな証拠として奥西さんが持っていた農薬ではないという意見書などを提出したが、名古屋高等裁判所の石山容示裁判長は、「弁護団が提出した証拠は前回の再審請求と同じであり、新たな証拠とは認められない」と判断し、再審を認めない決定をした。

実際にぶどう酒に入れられた毒物が、奥西さんの自白した農薬「ニッカリンT」であったのかが最大の争点であり、これまで司法の判断は揺れ動いてきた。1964年の第1審では自白の信用性が否定され、無罪の判決が下された。過去には再審決定が出されたこともあるが、覆されている。このような裁判所の判断からすると、確定判決の事実認定には合理的な疑いが生じていることを示している。

今年5月に拷問禁止委員会は日本政府に対し、定期報告に関する最終見解を採択した(CAT/C/JPN/CO/2)。拷問及び不当な取り扱いによって得られた自白が、実務上、法廷において証拠能力が否定されることを確保するため、すべての必要な手段を講じるべきと見解は述べている。この「必要な手段」には、自白中心である捜査手法の改善、取調べの全過程の記録が含まれている。

袴田事件の「再審決定」では、過酷な密室での取調べや、無罪を裏付ける新たな証拠が開示されるなど、刑事司法に問題があり、その延長線上に「死刑判決」が下された。名張毒ブドウ酒事件でも、同様の問題が指摘されており、これらの問題を抱えた上での死刑判決であった可能性が高く、慎重な審理を行わなければならない。死刑は、生きる権利を奪う取り返しのつかない刑罰である。再審理を受ける機会を保障する必要がある。

また、アムネスティは、国際人権基準にもとづき、死刑囚に対する独房での拘禁という処遇の改善を求めてきた。先に述べた拷問禁止委員会は、死刑確定者に対する昼夜間単独室収容が長期に及ぶことが頻繁にあり、30年を超えた長期であることに懸念を示し、その規則の改定だけでなく、死刑廃止の可能性を検討することを要求している。日本政府は、この勧告を真摯に受け止め、早急に対応しなければならない。

奥西さんは、現在88歳という高齢であり、40年以上にわたり死刑確定者として投獄されている。2012年5月に体調を崩し、八王子医療刑務所に収監されており、意識はあるものの、人工呼吸器を使用しているため話をすることができない状態にある。奥西さんの年齢と人道的見地に鑑み、恩赦の手続きの可能性を検討し、速やかな釈放をすべきである。

アムネスティは、あらゆる死刑に例外なく反対する。死刑は生きる権利の侵害であり、究極的に残虐で非人道的かつ品位を傷つける刑罰である。アムネスティは日本政府に対し、死刑廃止への第一歩として、奥西さんを含めたすべての死刑確定者について、公式に死刑の執行停止措置を取るよう要請する。アムネスティは、奥西さんの事件について、世界的な規模で支援の取り組みを続けていく。

2014年5月28日
公益社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本

 

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映画『約束~名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯~』上映と森達也さんらのトーク会