- 2019年4月25日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:レバノン
- トピック:
レバノンの新政権は、移住家事労働者の虐待、搾取、強制労働、人身売買の温床となっているカファラ制度(雇用主による保証人制度)廃止を実現するべきである。
アムネスティは、家事労働者32人、雇用主、斡旋業者、領事館関係者などを対象に聞き取りをし、カファラ制度の下、25万人とも言われる移住家事労働者の多くが、刑務所の囚人同然に、冷酷で屈辱的な扱いを受けている実態を報告書にまとめた。
アムネスティなど人権擁護団体などが長年、カファラ制度の廃止を求めてきたが、レバノンの歴代政権は、この人権侵害に有効な手を打たず、被害者の救済措置も取ってこなかった。
レバノンには、アフリカとアジアの国々から25万人の家事労働者が出稼ぎに来る。この家事労働者は、同国の労働法ではなく、カファラ制度の適用を受ける。
カファラ制度は、雇用主に絶対的権限を与え、労働者の在留資格も雇用主の判断に委ねる。移住家事労働者は、雇用主の許可なしに転職できないため、悪徳雇用主から過酷な労働を強制され、搾取されてしまう。命令を拒否したり、雇用主宅を逃げ出せば、在留資格を失い、強制送還を受けるおそれがある。
数々の証言から、同制度下で、労働者は、雇用者の支配下に置かれ、国や他の労働者から孤立し、雇用主に頼らざるを得ない状況に置かれる。その結果、労働者は、搾取や虐待にさらされ、関係機関に救済を求めることもできない。
搾取の温床
聞き取りをした女性たちの労働環境は過酷で、長時間労働、無休、給料減額、給料不払い、外出や電話・通信の制限、劣悪な居住スペース、不十分な食事などがあった。
インドネシア出身の家事労働者の1人は、3年間、雇用主宅に閉じ込められ、一歩も外に出られなかった。窓から見えた同じフィリピン人仲間に手を振ると、殴られたという。エチオピア出身の家事労働者は、朝5時から真夜中まで1日18時間以上を週7日、休日もなく酷使された。
こうした扱いを受けても、仕事をやめた後の不安から仕事をやめられなかったという。やめたいと申し出ると、「斡旋業者に払ったカネを返せ」と詰め寄られたという女性たちもいた。
彼らが受けた搾取で最悪なのが人身売買で、その犠牲者は4人もいた。数カ月間、斡旋業者にパスポートを取り上げられ、給料も支払われずに、職場家庭を転々とさせられたり、業者本人の息子の婚約者宅への贈り物にされたりしたという。
早急な法改正を
聞き取りをした女性の誰もが、当局へ通報したり裁判沙汰にすることは、なかった。訴えても、法的立場が弱いため、泣き寝入りするからだという。警察に拘束されるおそれもあるし、転職先が見つからないという不安、また、雇用主から物を盗んだと言いがかりをつけられるおそれもあった。
レバノンの労働法は、強制労働や人身売買を違法とし、自由と尊厳、労働者の権利などを保護する。その対極にあるのが、カファラ制度であり、同国の国際的義務にも違反する。
政府は、カファラ制度を廃止し、労働法の対象を拡大して移住家事労働者にも適用し、移住家事労働者と雇用主の平等関係を定める法改正に着手すべきである。また、労働省は、同省設置の虐待受付ホットラインが充分活用されるように移住労働者に周知すること、また、斡旋業者に対する監督と指導を徹底すべきである。
アムネスティは、新任のカミール・アブ・スレイマン労働相に面会し、今回の調査で明らかになった課題やその課題に対する提言を伝えた。労働相は、すでに公約しているようにアムネスティにもあらためて、移住家事労働者の権利の保護に向けた具体的措置を取ることを約束した。今こそ、新政権は、人権侵害の温床であるカファラ制度の廃止に取り組むべきである。
アムネスティ国際ニュース
2019年4月24日
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