レバノン:燃料不足で患者の死に直面する病院

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2021年9月14日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:レバノン
トピック:

レバノンでは、ガソリンやディーゼルなどの燃料不足により、市民生活はまひし、医療機関は、人工呼吸器などの機器が使えずに患者が命を落とすなど、深刻な事態に陥っている。

燃料不足の背景には、燃料輸入への補助金削減と闇市場で横行する密輸業者の存在がある。

8月11日、レバノン中央銀行が輸入燃料への補助金が継続できなくなったと発表したことで、ガソリンとディーゼルの価格が急騰し、危機的な供給不足を引き起こした。政府はその後、国を行き詰まらせるほどの深刻な燃料不足を緩和するために、補助金の一部削減策としてガソリン価格の66パーセント引き上げを発表した。

そして、燃料不足に拍車をかけたのが、シリア国境で横行する密売業者による燃料の密輸と買い占めだ。燃料の買い占めと闇市場での取引で、市場への燃料の供給が激減し、燃料価格が高騰した。

この事態に対し、関係当局は手をこまねくだけで、医療機関や個人の対応やNGOの支援にまかせてきた。その結果、病院は、運営の大幅な縮小を余儀なくされ、市民の健康と命は、危険にさらされることになっている。

アムネスティは当局に対し、市民の経済的・社会的権利を保護し、密売業者が不当に貯蔵する燃料を差し押さえ、燃料を医療施設など人の命を預かる施設に優先的に配分しなければならない。裁判所命令があれば、配分の執行が可能になる。また、密輸ルートの摘発、違法な貯蔵燃料の押収、関係者の処罰など、闇市場をめぐる取り締まりも怠ってはならない。

レバノン中央銀行の発表によると、7月の燃料輸入総額は、8兆2,800万ドルを超えた。この額は、レバノンの3カ月分の燃料消費量に相当する。このうち7兆800万ドルがガソリンとディーゼルの輸入にあてられ、1兆2000万ドルが国有電力会社にあてられた。また、中央銀行は、密輸と買い占めで家庭や病院、食業界に燃料が届いていないことを認めた。

燃料不足の対応に追われる病院

アムネスティは、レバノンで代表的な3病院(ベイルート・アメリカン大学医療センター、ラフィック・ハリリ大学病院、アル・マカセド病院)の院長ら幹部に話を聞いた。

8月を通して軍と治安部隊は、密輸業者が溜め込んでいた数百万リットルのガソリンやディーゼルを没収した。一方、幹部らはいずれも「必要な燃料が1か月分もなく、病院の維持に日々窮している」とアムネスティに話した。

3病院は8月、政府と国際機関に対し声明を出し「燃料危機で病院運営に著しい支障が生じ、患者の命が危険な状況にさらされている。にもかかわらず、政府は、十分な燃料が供給されるよう手を打ってこなかった」と、政府を批判した。

ラフィック・ハリリ大学病院によると、以前は、国から1日20時間の電力供給を受けていたが、7月から1日4時間に大きく短縮され、自家発電に頼らざるを得なくなった。状況は他の2病院も同じだ。軍から届く燃料だけでは足らず、国連機関の支援にも頼っている。

また、ベイルート・アメリカン大学医療センターの話では、裁判所が軍に対し、没収した燃料から5千リットルを同病院に配給するよう命じたが、軍からは届いていないという。病院運営には、1日5万リットルが必要だそうだ。ラフィック・ハリリ大学病院も、裁判所命令で配給されるはずの燃料が届いていないと話している。

ラフィック・ハリリ大学病院幹部は、「燃料不足で院内の機能がまひすると、集中治療室の患者10人と人工呼吸器や保育器が必要な新生児少なくとも21人が、命を落とすおそれがある」と話す。ベイルート・アメリカン大学医療センターでも、「燃料が切れると人工呼吸器をつけている大人40人と子ども15人がすぐに命を落とし、透析が必要な180人が数日から数週間で亡くなる」という。「病院内はまるで戦場で、緊急治療室の閉鎖も時間の問題だ」と話す幹部もいた。

燃料の密輸業者との闘い

医療機関が燃料不足による過酷な状況に直面しているのは、当局が、燃料の買い占めや闇取引を放置してきたからだ。そんな中、密売業者が危険であるにもかかわらず住宅街に保管していた大量の燃料が爆発し、多数の死傷者を出すという事故も起こっている。

8月15日の北部都市アッカールであった爆発では、少なくとも市民31人が亡くなり、多数の怪我人を出した。密輸業者が隠していた燃料を軍が押収して住民に配給し始めた時、爆発が起きた。軍は、貯蔵タンクや土地の所有者らを逮捕し、捜査に乗り出すと発表した。8月26日には、軍検察が、3人を危険物を不正貯蔵し、人命を危険にさらした容疑で起訴した。

アムネスティは、レバノン当局に対し、独立性と公正を期すために、捜査と裁判を軍ではなく警察と司法機関に一任するよう求めている。

また、レバノン当局は、爆発事故を機に容疑者の摘発にとどめず、燃料の闇取引に関わる業界全体にメスを入れ、関係者を摘発・処罰し、燃料の買い占めに対する断固とした姿勢を示すべきだ。

アムネスティ国際ニュース
2021年9月6日

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