レバノン:テロ容疑で捕らえられ拷問を受けるシリア難民

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2021年4月 8日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:レバノン
トピック:変革を求める中東・北アフリカ

(C) Jawad Morad © Amnesty International
(C) Jawad Morad © Amnesty International

レバノンの軍諜報機関や警察が、テロ関連容疑で拘束したシリア難民にさまざまな違法行為をしていることが、アムネスティの調査で明らかになった。違法行為には、拘束中に金属棒、電気コード、プラスチックパイプで殴るなどの暴行から、公正な裁判の侵害まで多岐にわたる。逆さ吊りにされたり、無理な姿勢を長時間強いられた難民もいる。

調査結果は、レバノン当局が拘束したシリア難民に卑劣で暴力的で差別的な扱いをしている実態を浮き彫りにしている。多くの場合、彼らは恣意的に拘束され、外部から隔離された施設内に拘禁され、シリアの刑務所で行われているような拷問にさらされる。

人権侵害に加担した武装グループのメンバーが、処罰の対象となるのは当然だ。しかしレバノン当局は、シリア難民が法の適正手続きを受ける権利をあからさまに侵害し、司法を愚弄している。拘束から尋問、勾留、起訴、裁判まであらゆる段階で当局は、国際人権法を蔑ろにしている。

アムネスティは、2014年以降にテロ関連容疑で拘束されたシリア難民26人が、レバノン当局にどう扱われてきたかを調べた。本人や弁護人に話を聞き、調書や裁判書類を参照した。26人には、すでに拘束を解かれた人も、今も拘束されている人もいる。

2011年以降、レバノンでは、紛争、抑圧、暴力などが続くシリアから逃れてきた難民が何百人も、しばしば事実無根のテロ容疑で、時には武装グループの一員だったことで、拘束されてきた。

虐待や拷問のまん延

26人中25人が、取り調べや拘束中に暴行を受けたという。拘束と取り調べを主導するのは、ベイルートの公安局の軍情報部あるいは国防省だ。

暴行を受けた被害者には、15歳と16歳の子どももいる。少なくとも4人は、激しい暴行で気絶し、2人は歯を折られた。取り調べでは常に激しい暴力がつきまとった。折り畳みの板に縛り付けられて体を二つ折りの状態にさせられる、手首を縛られて吊るされて殴られる、背後で両手を縛られて何時間も宙吊りにされるなどの拷問だった。

3週間、毎日殴られ、受けた傷が化膿して虫が湧いたという人もいた。ある男性は、 「お前の子どもがこれ以上できないようにする。この国を汚さないためだ」と罵られ、性器を殴られた。

何人かは、治安部隊員から、「アサド大統領に抵抗していただろ!」と叫ばれながら暴行を受けた。拘束に当局の政治的意思があることを示すような発言だった。「シリアの大統領を支持するか」と問われ、「しない」と答えると暴行が激しくなったという被害者もいた。

過酷な扱いはそのほかにもあった。「手錠と目隠しをされて3日3晩、廊下に立たされた。ベッドでの睡眠や水を懇願した。食事は1日1食。監視されているため、座ったり寝ることはできなかった」という証言もあった。

裁判で、拷問を受けたと申し立てても、捜査が始まることはなかった。暴行による傷がなくなるまで審理を先送りにされることもあった。ある女性は、目の前で息子が警備員に暴行され、別の女性は夫が殴打されているところを見ていなければならなかった。

レバノンは2017年に拷問禁止法を制定したものの、暴行の被害者が訴えても同法が適用されることは稀だった。当局はこの法律を即時適用し、国際人権法の下での義務を果たさなければならない。暴行の訴えを公正に捜査し、違反者の責任を問われなければならない。

公正な裁判を受ける権利の侵害

26人全員が、取り調べの段階から弁護人の同席を許されなかった。これはレバノンの法律にも、国際基準にも違反する。結果、弁護人不在で抗弁ができず、当局の意のままに勾留されるしかなかった。また、逮捕後、出廷するまでに数週間待たされた人が多かった。9人が、2年も待たされたがこれも国際法違反だ。

多くの場合、裁判官は拷問で引き出された自白や当てにならない情報提供者からの情報に頼るばかりだ。その上で、適用が過度に広範であいまいな規定のテロ関連法の罪で有罪を宣告する。少なくとも14人が、脅しや拷問を受けたために、やってもいない罪を自白させられたという。

また、26人中23人が軍事法廷で裁かれており、民間人を軍事法廷で裁くことを禁じる国際基準に違反する。

少なくとも3人がシリアへの強制送還命令を受け、うち1人はすでに送還された。この送還は、重大な人権侵害を受けるおそれがある国・地域に送還してはならないとする国際法に違反する。

アムネスティはレバノン当局に対し、すべてのシリア難民に国際基準に沿った公正な裁判を保障するよう要求している。同時に、民間人を軍事法廷で裁くのも即刻やめるべきだ。

政治的な理由などで不当にもテロ容疑を受けた人が14人もいる。そのうちの9人は、シリア政府に批判的な立場を取っているというだけの理由だった。

レバノン北部に住む多数のシリア人が、2014年のアーサルの戦闘に関わったとみなされて拘束された。この戦闘では、ヌスラ戦線と武装グループの自称「イスラム国」がレバノン軍を攻撃し、治安軍の兵士16人を拉致していた。停戦合意で戦闘は終わったが、その結果、ヌスラ兵とその家族数千人が、シリアのイドリブに帰った。

今回の調査で接触した人の中には、親族の男性が関わったとされるこうした行為のために、あるいは自白や降伏させるために親族に圧力をかける目的で拘束されたシリア人女性もいた。

アムネスティ国際ニュース
2021年3月23日

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