- 2019年7月24日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:大韓民国
- トピック:性的指向と性自認
韓国の軍隊では、男性間の性行為は犯罪であるため、ゲイやトランスジェンダーの男性は、暴行や嫌がらせ、差別的扱いを受けやすい。
軍法92条6項「わいせつな行為」は、男性同士の性行為は最高2年の刑に処すると定めている。この処罰規定の存在が、ゲイやトランスジェンダーの兵士を想像を絶する状況に追い込み、その後の人生を狂わしさえしている。
韓国の男性は、20才になる直前から21カ月間の兵役義務を課される。全人口のおよそ半数が若年期に兵役に就くため、男性同士の性行為を犯罪とすることは、社会にも大きな影響を与える。こうした状況を問題視する兵士や兵役経験者は、少なくない。
アムネスティの調査で、ゲイやトランスジェンダーの兵士や元兵士がさらされている悲惨な状況が明らかになった。
暴行と強かん
ある男性は、他の男性との性行為が発覚し、上官の卑猥な罵声を浴びながら、目の前で相手男性との性行為を強要された。その後、自殺しようとしたが死にきれなかったという。
別の男性は、別の兵士が性的嫌がらせを受けているのを目撃したので注意すると、加害者の上官から激しい暴行を受けた。別の上司に報告したことを知ったその上官から、「容赦しないぞ」と脅された。
多数の兵士が、同性愛者への嫌がらせや性的暴力は後をたたないと証言する。嫌がらせは大抵、歩き方、肌の色、声の高さなどから「男らしく」なければ、罰則対象になる。
2017年の調査
同性間の性行為の処罰が軍法に盛り込まれたのは1960年代だが、問題が表面化したのは、軍当局が2017年に、同性間の性的関係が疑われる兵士の洗い出しに乗り出したときだった。この調査の結果、20人以上の男性が起訴された。
その時に尋問された一人は、同性との性行為を認めるよう激しく追及されたという。当初は、白を切ったが、すでに自白していた相手を連れてきたため、認めざるを得なかった。その後、「どんな体位だったのか」などという卑猥な質問を事細かく聞かれた。昨年、除隊した後も、当局関係者の訪問を受け、私生活を覗き見るような質問を受けた。その後、ゲイであることが周囲に知れ渡り、社会的信頼を失ったという。
起訴は言語道断ではあるが、犯罪化でゲイの兵士が被る損失のほんの一部に過ぎない。法律は、特定の行為を禁じる以上に、軍の内部や世間一般でのLGBTIの人びとに対する差別や暴力を煽り、差別されて当然という風潮を作り出している。
暴露
多くのゲイ兵士らは、暴露や嫌がらせを恐れて、性的指向や性自認を隠している。それらの個人情報の漏洩は禁止されているが、実際には守られていない事例が複数あった。
兵士たちは、尋問などで暴力を受けても、報復を恐れて暴行のことを口外しない。その結果、ゲイの兵士らは処罰される一方で、暴力的上官がますますのさばることになる。
次のように語った元兵士もいる。「権力と階級がすべてだ。下級兵士に嫌がらせをするのは、権力を誇示したいからだ」
精神衛生
複数のゲイの兵士は、「ヒーリング・キャンプ」と呼ばれる精神衛生施設に送られたという。
ある男性は、繰り返し性的暴行を受けたのち、肉体的にも精神的にも失調した。与えられた選択肢は、軍の精神病院か、独房に入ったままか、だった。病院側は、診断書に「任務に不適格」と書くことを提案したが、男性は、病人の烙印を押されることを拒んだ。「入隊するまで健康だったので、体調不良は、自分が引き起こした問題ではない。身に降りかかった一連の出来事で、生きる意欲を失い、自殺を図った」
彼は、除隊審査の際に「お前をここで射殺しても誰にもわからない。お前の家族が受け取るのは、わずか2百万ウォン(約20万円)だ」と告げられたという。母親は、除隊の条件として、虐待で軍を訴えないことを約束させられた。
構造的な問題
軍隊内の男性同士の性行為を犯罪化することにより、韓国は、多くの人びとのプライバシー、表現の自由、平等の権利などを侵害する。
韓国の憲法裁判所は現在、軍人による同性同士の性行為の禁止と処罰が合憲かどうかを審理している。過去20年弱で3回、合憲と裁定していた。
軍でのゲイの人びとの性行為を犯罪とすることは、重大な人権侵害である。
何人も、その性向指向などの人となりにもとづく理由で差別や嫌がらせを受けてはならない。韓国は、軍法92条6項を早急に撤廃し、ゲイやトランスジェンダーを含むLGBTIの人びとが受けている根強い差別の払拭に向けた一歩を踏み出さなければならない。
アムネスティ国際ニュース
2019年7月11日
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