大韓民国:尹大統領は同国での女性の扱い方に変革を

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2022年5月27日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:大韓民国
トピック:女性の権利

正義の改革運動家を自称する尹錫悦(ユンソンニョル)氏の大統領就任にあたり、多くの韓国女性は不安を抱くだろう。

選挙期間中、尹氏は反フェミニスト的な発言を繰り返し、行政機関の女性家族部は男性を潜在的性犯罪者のように扱い、フェミニズムは出生率低下の原因だと批判した上で、女性家族部の廃止を約束した。

尹氏はまた、韓国には制度的性差別は存在しないと主張したが、統計上ではそうではなく、韓国の男女平等指数は先進国の中で最低に近い。

経済協力開発機構(OECD)によると、韓国の女性は男性に比べ所得が平均で31.5%低く、この差はOECD加盟国38カ国中最も大きい。国会議員に占める女性の割合は、OECD加盟国の平均が32%なのに対し19%、また経済活動での女性の参加と機会では世界156カ国中、韓国は123位だ。

尹氏の女性差別的な考え方は、韓国社会にまん延するジェンダーを巡る固定観念と思い込みを反映している。その根底には、女性は尊厳と権利を持った完全な人間ではなく、むしろ性の対象であり、その役割は「性的サービス」を提供して男性のニーズを満たすことにあるという考えがある。

2020年3月、韓国の人びとはこの問題が抱える根の深さを思い知ることとなる。ジャーナリストグループが、メッセージアプリTelegramの秘密のチャットルームの存在を明らかにした。チャットルームでは、未成年者を含む女性の性的搾取動画数千本が本人の承諾なく販売され、その後の警察の調べで、6万人以上が、「n番部屋」として知られる同様のサイトを利用していることが判明した。

韓国で性暴力を引き起こす差別や家父長制が、デジタルの世界でいかに再生産され増幅されているかを示す、おぞましい出来事だった。

デジタル性犯罪は、性暴力の一種で、一般的には親密な関係を示す内容を相手の同意なしに撮影・配信する行為で、しばしば被害者への脅迫やセクハラを伴う。韓国のデジタル性犯罪の2020年の発生率は、2003年の7.5倍と大幅に増えている。被害者の大半は女性だ。また、強かんや性的暴行の発生率は、同期間で1.6倍増だ。

被害者に対する差別のせいで、女性は警察への通報を躊躇してきたが、デジタル性犯罪の被害者は特に、世間から冷やかな目でみられる。被害者が加害者との関係を断ったり被害を通報したりしないよう、加害者は、被害者の個人情報をネット上にさらすという脅しで被害者に対する支配的な力関係を維持しようとする。

「n番部屋」事件をきっかけに、インターネット上の性暴力の取り締まりを求める声が全国で高まった。女性の権利を求める団体や個人が、この問題に対する政府やオンラインプラットフォームの対応が生ぬるいと批判し、責任を追及し始めた。韓国の女性にとって、「n番部屋」事件は、時代とともに形を変えながら深く根付いてきた女性嫌悪を浮き彫りする事件となった。

2021年10月、「n番部屋」運営者の1人が42年の実刑判決を受け、共犯者も長期の実刑判決を受けた。この事件を受けて、国会は、n番部屋防止法を可決した。

同法では、運営者がプラットフォーム上の性犯罪に関わるコンテンツの拡散に歯止めをかけない場合、刑事罰の対象となる。また、運営側にコンテンツの拡散防止担当者を置くことも義務付けられた。

一方、法務省が設置したデジタル性犯罪対策本部は最近、犯罪発生時に関係者が取るべき対応を公表した。対応には、総合的な被害者支援体制の構築、オンライン上の違法コンテンツの即時削除、裁判中の性犯罪被害者の保護、デジタル性犯罪を報道する上での指針などが入っている。

しかし、韓国社会に依然としてはびこる男女をめぐる固定観念に対処していないという意味で、これらの対策は十分ではない。固定観念をなくすには、法律の制定やタスクフォースの設置だけでは不十分で、女性に対する考え方を国全体が変える取り組みが欠かせない。

固定観念を排除し、ジェンダーの平等を実現する上で、性別やジェンダーに基づく差別や固定観念が大きな障害になっていることを、尹大統領がまず公に認めることから始める必要がある。その上で、デジタル性犯罪対策本部の提言を実行することで、この問題に取り組む政治的意志を示すべきだ。

国の指導者として尹大統領は、女性が社会的に力をつけることが自由で公正な社会の成長と発展に寄与することへの強い信念を示さなければならないが、今までのところそのような発言はみられない。

韓国の女性は、新大統領が従来の路線を大胆に転換することを期待するだろう。まずは、大統領は男女差別があることを認めなければならない。差別の存在を認めてこそ、差別がもたらす問題に対処し、真の前進が可能になる。

アムネスティ国際ニュース
2022年5月11日

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