カタール:FIFAワールドカップスタジアム建設 移住労働者への給与未払い

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2020年6月25日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:カタール
トピック:企業の社会的責任

(C) LOC FIFA
(C) LOC FIFA

2022年のFIFAワールドカップを控え、カタールでは会場となるスタジアム建設が追い込みに入る中、現場で働く移住労働者への搾取が、またひとつ、明らかになった。アムネスティの調べで、スタジアムの一つアルべイトスタジアムの外装を下請けするデザイン・建築会社カタールメタコート(QMC社)が、雇用する移住労働者約100人に最長7カ月間、賃金を支払っていないことがわかった。

6月第2週、アムネスティが未払い問題をカタールの関係当局、FIFA、ワールドカップ組織委員会に指摘したことを受けて、一部の労働者に部分的な支払いがなされたが、まだ大部分は支払われていない。

アムネスティは長年、カタール当局に移住労働者をめぐる制度の抜本的改革を求めてきた。しかし、事態はほとんど変わっていない。

ワールドカップという世界的イベントの会場建設が進む中で起こったこの不祥事は、移住労働者の搾取がいかに容易であるかということを浮き彫りにしている。大会運営関係者は、QMC社の未払い問題は昨年7月から知っていたというが、そうだとしたら、なぜカタール当局は労働者に何カ月も無給で仕事をさせることを許したのかという疑問が残る。

さらにアムネスティの調査で、QMC社が労働者の在留許可の更新手続きをしなかったため、労働者を拘束や強制送還の危険にさらしたことが判明した。ほどんとの労働者は現在、新型コロナ対策のロックダウンでドーハの宿泊施設にすし詰めにされて待機している。

アムネスティはQMC社の移住労働者と連帯し、カタール政府とワールドカップ関係者に対し、未払い分の賃金全額を支払うよう要求する。また、同社は、移住労働者の正規の滞在を保障する手続きを取るとともに、在留資格を失ったことで発生した諸費用を支払うべきだ。

繰り返された空約束

アムネスティはQMC社で働く、あるいは働いたことがある移住労働者に聞き取りをし、裁判記録と雇用契約書にも目を通した。賃金の未払いは、スタジアムで働くすべての移住労働者約100人に及んでおり、出身国は、ガーナ、ケニヤ、ネパール、フィリピンなどだった。

給料の遅延は昨年1月から始まり、今年に入ると状況はさらに悪化した。昨年9月から今年3月までの半年間、多くの労働者は、まったく賃金を受け取っていなかった。Q社は彼らに「近いうちに払う」との説明を繰り返したが、約束どおり払われることはなかった。

正義を求める闘い

今年1月、会社の空約束に業を煮やした人たちが、カタールの労働裁判所に訴訟を起こした。裁判所の調停により、QMC社は申し立ての一部を受け入れたものの、ここでも約束を果たすことはなかった。

さらに、訴訟に参加しなかった労働者に対して「契約を取り消して帰国するなら、賃金を払う」と告げたということだった。

裁判沙汰にしたことや契約取り消しを拒否したことへの報復として、仕事場への出入りを禁止された人もいた。被害に遭った人は「会社の力は絶対的で、訴えると後悔する。会社が決めたことは何であれ、国が肩を持つ。会社が支配者だから労働者は耐えるしかない」と話す。

3月に入ると全員がスタジアムから同社の工場に移り、3月22日にパンデミックで工場が閉鎖されるまで仕事を続けたが、無給のままだった。

アムネスティは1年近く、組織委員会や関係機関と何度もやりとりをしてきた。最近、組織委員会から賃金の支給が始まるとアムネスティに通知があり、6月7日に数人の労働者が未払い賃金の一部を受け取ったことがアムネスティによって確認された。しかし、あくまでも一部であり、しかも全員が受け取ったわけではなかった。

放置された在留手続き

QMC社が在留許可証の更新を怠ったために、ほとんどの労働者は在留資格を失い、さらなる苦境に立たされている。

カファラ制度下(雇用主が移住労働者の保証人となる制度)で、移住労働者はほとんどの面で雇用主に頼らざるをえない。合法的に働くための在留許可を得る手続きもそのひとつだが、その許可証の期限が切れると、就労できなくなり、罰金を科され、拘束や強制送還のおそれも出てくる。

重くのしかかる斡旋料の返済

各国の移住労働者の多くがそうであるように、QMC社の移住労働者も多額の斡旋料を払ってカタールに来ている。

アムネスティの聞き取りでは、斡旋料は900米ドルから2,000米ドルで、多くの労働者が、家族への生活費や教育費などの仕送りに加え、借金の返済が重くのしかかっている。

申し立てに対する反応

QMC社は、アムネスティへの書面での返事で、経営難による賃金支払いの遅延を認め、解決に向けて努力していると説明した。

組織委員会は、QMC社の未払い問題を昨年7月に行った労働者への聞き取り調査で知り、以来、会社の経営陣との面談、ブラックリストへの掲載、労働省への報告などの手立てを講じてきた、と説明した。

FIFAは、今年5月のアムネスティの調査で初めてこの問題を知り、組織委員会と連絡を取ってパートナー企業と協力して未払い賃金が支払われるよう努力していると話した。しかし、FIFAがなぜ5月まで未払い問題を知らなかったのかは不明のままだ。

アムネスティは、カタールの労働省にも質問を文書で送ったが、返事は受け取っていない。

FIFAは行動を起こせ

組織委員会の基準では、ワールドカップに関わる事業者に対し、労働者の権利の尊重と侵害行為への対応を求めている。組織委員会は、今回の未払い問題をもっと早く把握できたはずだが、事態が続いたということは、この基準が企業の人権侵害を阻止し、賃金の未払いがあれば即時に対応する上で不十分なものだといえる。

一方、FIFAが長らく移住労働者の置かれている窮状を知らなかった事実は、人権侵害を重くみていないということだ。カタールが開催国に決まった2010年の時点からFIFAは、ワールドカップの協賛企業・団体に説明責任を求め、カタール政府に対し人権侵害を引き起こす制度の抜本的改革を働きかけておくべきだった。そうしていれば、開催までわずか2年半という時期に、移住労働者たちが悲痛な訴えをしなくてもすんだはずだ。

アムネスティ国際ニュース
2020年6月11日

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