カタール:虐待と搾取で疲弊する移住家事労働者

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2020年11月 4日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:カタール
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(C) Veejay Villafranca/Getty Images
(C) Veejay Villafranca/Getty Images

カタールの移住家事労働者は、極度の長時間労働を強いられ、休日も取れず、虐待や品位を傷つける扱いにさらされ、極限まで追い詰められている。

アムネスティは、住み込みの家事労働に就く、あるいは就いていた女性105人に聞き取り調査をした。カタールには、さまざまな国から来たおよそ17万3,000人の移住家事労働者がいる。聞き取りをした150人には、今も家事労働を続けている人、退職して母国に戻った人、退職したがカタールに留まっている人がいる。

105人のうち、90人が1日14時間以上、53人が18時間以上、働かされていた。89人が週7日働き、105人のほぼ全員が休日を1日も取っていなかった。40人が屈辱的な言動や平手打ちなどの暴力を受けた。「犬のような扱いだった」という女性もいた。87人が、雇用主にパスポートを没収され、給料を満額支払われていない人が、複数人いた。

2017年、政府は、移住家事労働者の労働環境の改善に向け、家事労働者法を導入した。同法には、労働時間の制限、休憩時間、週1の休日、有給休暇の付与義務などが盛り込まれている。しかし、女性たちの証言は、同法が機能せず、施行から3年経った今も、移住家事労働者の権利が守られない事態が続いていることを示している。

雇用主による虐待が横行する背景には、違法行為を監視する機関の不在や、雇用主を支配的立場にする保証人制度など複数の要因がある。その結果、長時間労働で体が悲鳴を上げても、暴力や虐待、性的暴行にさらされても、労働者は泣き寝入りするしかなく、人権侵害が一層助長されている。

労働環境改善への取り組み

近年、カタール政府は、家事労働者の環境改善に向け、複数の取り組みに着手してきた。その一つが、家事労働者と雇用主への啓蒙活動の一環として、一部の労働者を通いで家事に従事させる試みだ。直近では、最低賃金の導入、転職や帰国時に必要だった雇用主の許可書の廃止がある。

これらの取り組みにより、労働者は、雇用者の虐待や搾取から逃れやすくなりそうだが、虐待の劇的減少や労働環境の大幅改善の実現には、労働者を保護する体制の強化や雇用主に法令順守を徹底させる措置が不可欠だ。

異常な長時間労働

家事労働者が直面する典型的な人権侵害が、常軌を逸した長時間労働だ。契約上は1日10時間まで、週6日までと定められている。しかし、この数字ですら、国際労働機関が定める上限を上回るうえ、ほとんどの女性の実労時間は、契約時間数や日数を遥かに越える。1日の平均労働時間は16時間、休日がないと週112時間に上ることになり、契約時間上限のほぼ2倍近くも働かされる。超過勤務手当てすら出ないという。

睡眠時間が1日2時間の日々が続いていたために、車で子どもを学校に送った帰りに事故を起こした女性もいた。

体がぼろぼろになるほどの長時間労働が横行する背景には、家事労働者法の抜け穴がある。同法は、1日の労働時間を最長10時間とするが、労働者の同意があれば延長できることになっている。雇用主に対し従属的関係の中で、聞き取りした女性の多くが、怖くて雇用主の要求を拒めなかったと話す。

虐待的扱いは、食事や寝起き場所にも及ぶ。23人が、与えられる食事が少なくて空腹に耐え、数人は、身動きができないほどの小部屋や板の間、猛暑でも空調機がない部屋で寝起きした。これらの証言は、家事労働者の職場や寝場所を立ち入り検査する必要があることをあらためて訴えている。

暴言、暴力、性的虐待

証言によると、40人の女性が、雇用主やその家族から暴言、侮辱、暴力的な嫌がらせを受けた。15人は、唾をかけられ、殴打され、髪の毛を引っ張られるなどの暴行にさらされた。5人が、嫌がらせや愛撫を含む体への接触、強かんなどの性的暴力を受けた。ほとんどの女性は、報復を恐れるあまり警察には届け出なかった。

警察に被害を訴えた女性たちは、「話をでっち上げただろう」などと叱責され、被害届を出せなかった。この女性たちの場合は、その後、雇用主から読めないアラビア語の文書に署名させられた上で、帰国便のチケットを受け取った。

処罰されない違法雇用主

カタール政府がこれまで、虐待的雇用主を処罰したことは一度もない。労働者のパスポートを取り上げたり、給料を支払わないなど強制労働に等しい行為をしても、雇用主は罪に問われなかった。カタール政府が、家事労働者の保護に本腰を入れるならば、「労働者の虐待は決して許さない」という強いメッセージを雇用主に送るべきだ。

2018年に労働争議調停委員会を設置されるまで、カタールには、家事労働者の苦情を受けつける機関がなかった。調停委員会ができたことで、ようやく雇用主の不当行為を訴える道が開けた。ただ、聞き取りした人の半数以上は、給料の遅延や未払いを経験しているが、委員会に申し立てたのは数人だけだ。さらにその数人も、委員会の対応は遅すぎるとして苛立ちを隠さなかった。

調停委員会の最大の問題は、申し立てが処理されている間、届け出た労働者が、在留資格や収入、住む場所を失うおそれがあることだ。現状は、労働者自身が、仮の居場所や生活費を確保する必要がある。国の避難施設はあるが、十分機能していない。その結果、ほとんどの女性にとって、委員会への訴えは、現実的な選択肢ではない。

さらに、退職を申し出て雇用主宅を出た場合、雇用主に警察に訴えられ裁判沙汰になるおそれがある。少なくとも10人は窃盗で、13人は失踪で訴えられた。全員がアムネスティに容疑を否定し、雇用主から逃げた報復だとみていた。

暴力や性的虐待は、訴えれば裁判に持ち込むことができるが、家事労働者は、住まいと在留資格で雇用主に依存しているため、政府の保護姿勢への不信と相まって、訴えには二の足を踏む。

多くの家事労働者は、他の家事労働者や社会から孤立し、移動の自由が制限されているため、支援を求め、虐待から逃れることが、極めて難しい。移住労働者を雇用する企業の中には、社内に委員会を設ける動きもあるが、家事労働者に対して同様の動きはない。家事労働者を含め移住労働者は、労働組合の結成や組合への加入を認められていないという問題もある。

家事労働者は、その生活に影響を及ぼす法律や政策への発言権があって然るべきだ。アムネスティが話を聞いた女性たちは、母国からはるばるカタールにやってきた忍耐強く独立心がある人たちだ。カタール政府は、家事労働の女性たちの要求を封じるのではなく、その権利を主張し発言する場を与えるべきだ。

移住家事労働者という最も弱い立場の女性たちのほとんどは、法改正にもかかわらず、カタール政府の庇護を受けることができず、違法な労働環境に放置され、虐待や搾取にさらされ続けている。

アムネスティは、カタール政府に対し法律を厳格に執行すること、立入検査の体制を整えること、法律に違反した雇用主に対し厳しく対応することなどを求めている。

背景情報

市民的および政治的権利に関する国際規約(ICCPR)や経済的、社会的および文化的権利(ICESCR)など、人権侵害を禁止する国際条約の締約国として、カタールは、移住家事労働者を含むすべての労働者を保護し、その権利が侵害された場合、救済策を講じる義務がある。

アムネスティ国際ニュース
2020年10月20日

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