南アフリカ:「虹の国」南アフリカ 故マンデラ大統領が目指した多様性は今

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2020年7月10日
[ブログ]
国・地域:南アフリカ
トピック:性的指向と性自認

© EPOC
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アフリカには、法律によってLGBTの人たちが差別的な扱いを受けている国がたくさんあります。国際レズビアン・ゲイ協会の調べによると、アフリカ大陸の国54カ国中、30以上の国で同性愛が違法とされています。例えば、同性間で関係を持っただけで、ウガンダでは4年、ナイジェリアでは最長14年の禁固刑に処せられてしまいます。

そんなアフリカで、いち早くLGBTの権利の平等を推し進めたのは、人種・文化・言語の多様性から「虹の国」と呼ばれている、南アフリカ共和国です。世界で最も早く性的指向による差別を憲法によって禁止した国であり、2006年には、オランダ、ベルギー、スペイン、カナダに続き、世界で5番目に同性婚を実現した国でもあります。法律でLGBTの平等を実現している南アフリカのLGBTを取り巻く状況について、紹介します。

アパルトヘイト下のLGBTの権利

ご存じの方も多いと思いますが、南アフリカでは1948年から1990年代初頭まで白人と非白人を徹底的に隔離・差別する政策=アパルトヘイトがとられていました。

南アフリカにはもともと、多様な言語や文化が存在し、さまざまな人種の人たちが共存していました。しかし英国の植民地統治下で、非白人を白人社会から排除する法律が導入されていき、1948年からは差別的な法が相次いで誕生、アパルトヘイトが強力に推進されていきます。非白人は選挙権を奪われ、学校も、レストランやトイレや公園なども、白人と非白人で分けられました。人種ごとに住む場所も決められ、人種が異なるカップルの結婚はもとより恋愛すら禁止されました。多くの人の自由が奪われていったのです。

アパルトヘイト政策のもとでは同性間の恋愛関係も違法とされ、最高で9年の懲役刑を科されたり、警察から暴力を受けるなど、LGBTの人たちの権利が否定されていました。同性愛を精神疾患とみなしていた当時の政府は、LGBTの人たちに対して頻繁に「コンバージョンセラピー」と呼ばれる、性的指向を強制的に変えることを目的とした非科学的な治療を実施し、LGBTの人たちの心に大きな傷を残す政策を行っていました。

ヨハネスブルグで賞を受けるネルソン・マンデラ氏

© South Africa The Good News

1980年代、アパルトヘイトによる人種差別が国際的に非難を浴びはじめたころ、ゲイやレズビアンの人たちによる平等を求める運動も、南アフリカの国内外で活発化しはじめました。南アフリカのLGBTの人たちは、人種差別だけでなく、性的指向による差別の禁止についても法整備するよう、反アパルトヘイト政策を進める政治家に対して強力にロビイング活動を行いました。

その結果、1997年に施行された新憲法には、「性的指向による差別の禁止」が明記され、LGBTの権利が保障されたのです。その後、2006年には同性婚の合法化も実現し、南アフリカにおけるLGBTの権利は大きく前進しました。

南アフリカのLGBT活動家の声

法制度上では平等が実現されてきたとはいえ、LGBTの人たちに対する暴力的な事件が発生したり、一部でコンバージョンセラピーがいまだに行われていたりなど、今でも偏見との戦いは続いています。

ファドツァイ・ミュパルツァさんという活動家が、残された課題を解決するため、南アフリカでレズビアンやバイセクシュアル、トランスジェンダー女性の保護とサポートに取り組んでいます。ご本人のスピーチの一部を紹介します。

ファドツァイ・ミュパルツァさん

ファドツァイ・ミュパルツァさん

"私は2013年から南アフリカでアフリカ・レズビアン連合のアドボカシー担当として、アフリカ連合や国際団体、各国政府への政策提言を行っています。

私が活動の拠点にしている南アフリカの街中では、人と見た目や歩き方、服装が違うからという理由で、ヘイトスピーチを浴びせられることは日常茶飯事です。性的指向を理由に、女性が強かんされる事件は、南アフリカだけでなくサブサハラアフリカ地域全体で起きています。性的指向や性自認によって、多くの人が住んでいる家を追われ、職を追われ、命を奪われています。

LGBTの権利を前進させるためには、LGBTの権利に限定することなく、女性や子ども、性産業に従事する人びとの権利、医療や教育を受けられる権利、きれいな水を飲める権利など、「人の権利」ついて議論することを徹底しなければなりません。求められているのは、LGBTの人たちを特別扱いすることではなく、LGBTの権利とは個人が差別や暴力から守られるための権利だという理解が広がることです。

LGBTの権利のために活動していると、秘密警察に尾行され、監視されることもありました。危険に直面しながらも活動を続けてきたのは、「人と人とが思いやりで繋がった世界をつくりたい」という強い願いがあるからです。そんな世界を実現するためには、一人ひとりが問題意識をもち、学び合い、支え合うことが欠かせません。"

(アムネスティ日本主催の講演会「自分らしい性を生きる」(2015年)より)

南アフリカのプライドパレード

ファドツァイさんが語るように課題は残されていますが、それでも、状況は少しずつ変わりつつあります。2012年と2015年に行われた、南アフリカの人たちのLGBTに対する意識調査によると、2015年に同性婚に強く賛成する人の数は2012年の10倍に増えており、反対に、同性婚に強く反対する人の数は半分以下に減っていました。法制度によって政府が明確な姿勢を示すことで、人びとの意識も少しずつ変わっていくのです。

 

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