エジプト:性暴力被害を訴えて投獄されるSNSインフルエンサー

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2020年8月26日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:エジプト
トピック:女性の権利

(C) GettyImages
(C) GettyImages

エジプトでは、短い動画作成・投稿に特化したSNSアプリTikTokの女性インフルエンサー(世間に与える影響力が大きい人物)たちが、性的暴行、プライバシー侵害、オンライン上の嫌がらせなどの被害を伝えたことで、わいせつ罪や「伝統的家族観への背信」罪に問われ、投獄されるという異常事態が起こっている。

検察当局は、オンライン空間の統制の一環として、女性の言動を取り締まり、女性の経済的な自立を奪おうとしている。その矛先が女性インフルエンサーたちに向かっているのだ。

4月以降で、10人のTikTokインフルエンサーが逮捕され、「わいせつ」や「不道徳」だとして、悪名高いサイバー犯罪法などの過度にあいまいな法規定に違反した容疑で裁判にかけられている。すでに有罪判決を受けた女性もいる。彼女たちは、SNSのインフルエンサーとして、少なくとも数十万人、多い人で数百万人のフォロワーを持っている。

アムネスティは、弁護人や家族らへの聞き取り、捜査資料、裁判の記録などから、女性インフルエンサーたちの人権を踏みにじる事実の詳細を明らかにした。

当局は、インターネットで活動する女性を取り締まるのではなく、エジプトで頻発している女性や少女に対する性暴力やジェンダーに基づく暴力を取り締まり、法と社会的慣習におけるジェンダー差別の撲滅に向けて、本腰を入れて取り組むべきだ。

4月末、TikTokの女性インフルエンサーが初めて逮捕されたとき、検察は、「社会の原則と価値を損なう恥ずべき違法行為に対しては、徹底的に取り締まる」との声明を出した。検察当局は4月末から5月初旬にかけて、「社会規範に背く破廉恥な犯罪の取り締まりを断固続ける」「邪悪な勢力により侵害されつつある新たなサイバー空間の境界を死守する」などとの声明を出した。

女性としての魅力を表現して裁判に

6月に入ると、ファッションや言動、社会への影響力、投稿での収入などを問題視された女性インフルエンサーたちが訴追されている。4人が「伝統的家族観への背信」「わいせつや放蕩の挑発」などのあいまいな罪で2年あるいは3年の実刑判決を受けた。いずれの被告も控訴している。別の6人は、同様の容疑で裁判待ちだ。

女性たちは、その言動に怒り狂ったとみられる男たちに訴えられ、内務省道徳局の捜査を受けて、裁判にかけられている。

ベリーダンサーの女性は裁判で、「女としての魅力を示す」ビデオと写真集を出し、「性的に挑発する表現と動き」などの罪に問われて有罪判決を下された。法廷では、女性の水着姿の写真が、証拠品として示された。

エジプト当局は、TikTokのインフルエンサーの女性たち全員を即時無条件に釈放し、彼女たちに対する起訴を取り下げなければならない。

また、「道徳」あるいは「良識」という名目で身体の自己決定権、プライバシーの権利、表現の自由の権利を制限するすべての法律を撤廃または改正すべきだ。

これらの権利の行使に対して罪を問うのは、国際法に違反するだけでなく、社会における女性への差別と暴力に拍車をかけるものだ。

犯罪者扱いされる強かん被害者

5月22日、18歳のインフルエンサーは、インスタグラムで助けを求めた。あざだらけの顔で、「殴られ、強かんされ、勝手にビデオを撮られた」と訴えた。4日後、暴行犯6人とともに彼女も逮捕された。「伝統的家族観への背信」と「放蕩の挑発」に違反したと主張する暴行犯の言い分を鵜呑みにした検察官の取り調べは、8時間にも及んだ。

検察は、性暴力の被害者たちが警察に通報せずにSNSに投稿したことを非難している。だがこの18歳のインフルエンサーが警察に被害届を出そうとしたところ管轄違いだと取り合ってもらえなかった。

性暴力の被害を訴えた女性の罪を問うのは、明らかに正義に反している上に、性暴力に声をあげ、警察に届け出る意欲を削ぐだけだ。

被害女性に適切な保護や心の治療の機会を迅速に与えると同時に、早急な捜査と一刻も早い犯罪者の拘束を心掛けるべきだ。

流出写真を「証拠」に被害者を訴追

インフルエンサーの一人が「伝統的家族観への背信」の容疑で逮捕・勾留されたが、証拠品として検察が提出したのは、盗まれた携帯電話から流出した写真だった。女性は、携帯が盗まれ写真データが流出した時に警察に被害届けを出したが、取り合ってもらえなかったという。

同様のケースは他にもある。女優・モデルの女性が、元夫が結婚中に撮ったプライベート写真を、離婚後、脅迫目的でSNSに投稿したとして、元夫を告訴したが、逆に、流出した写真を証拠として「伝統的家族観への背信」の罪に問われ、今年7月、実刑3年と罰金30万EGP(約190万円)を言い渡された。

問題視されるSNSによる自活

アムネスティの調査は、検察が女性インフルエンサーを訴追する背景には、ソーシャルメディアでの女性の知名度と、TikTokなどのSNSで女性が自活できるほど収入を得ている状況があることを示唆している。

訴訟の中には、SNSでの人気を利用して少女に影響を与えたとして罪に問われている例もある。この被告人女性は、人身売買の容疑にも問われている。インスタグラムに投稿した動画の中で、視聴者数に応じて報酬が得られる動画アプリLikeeへの動画投稿を他の女性に勧めたためだ。アムネスティはこの動画を検証したが、国際法上の犯罪に結びつけるだけの証拠ではなかった。

担当した検察官は、「厳しい社会環境の中、経験も能力も精神力も不足しているために、手段を選ばずに名声を得ようとした」と述べていた。

背景情報

エジプトの女性人権活動家は、性暴力やジェンダーに基づく暴力の撲滅に向け、法律や社会的慣習の抜本的改革の必要性を何年も訴えてきた。性暴力の被害者に関わる個人情報の保護や被害者の安全確保などを保障することで、被害者の申し立てをしやすくすることもその一つだ。

エジプトの内閣は7月8日、性暴力事件において検察側が被害者の身元や個人情報を伏せたまま訴追手続きができるようにする法改正を承認した。

アムネスティ国際ニュース
2020年8月13日

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