エジプト:デモ参加者虐殺から10年 人権は悪化の一途

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2023年8月24日
[日本支部声明]
国・地域:エジプト
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デモ参加者と治安部隊の衝突で900人以上の死者が出た惨劇から10年が経つ。この10年、治安部隊の責任が問われることはない一方で、デモ参加者への弾圧、刑事裁判での不当な判決、獄中での残虐行為が許される事態が続いてきた。

2013年8月14日、軍と治安部隊は、カイロのラバ広場とナハダ広場でモルシ大統領(当時)の解任に抗議して座り込みを行っていたムスリム同胞団や大統領支持者らを暴力的に排除し、多数の死者を出した。その後10年、軍や治安部隊は誰ひとりとして責任を問われず、犠牲者遺族や拷問、強制失踪、超法規的処刑などの被害者に対する正義が果たされず、救済措置もない事態が続いてきた。

この10年を形容するとすれば「恥の10年」と言うしかない。

カイロ近郊のラバア広場での虐殺を機に、当局は抗議活動に容赦ない取り締まりを始めた。以来、政権批判や抗議行動で多数の市民が殺害や投獄の対象になり、あるいは国外脱出を余儀なくされた。

2013年の虐殺に対して国際社会が協調的対応を取らない中、多数の市民を殺害した軍と治安部隊はなんの責任も問われることもなかった。しかし、エジプトはこの残虐行為に責任を果たすことなく現行の人道危機から抜け出すことはできない。

エジプトに影響力を持つ国は、真実、正義、賠償を求める生存者、被害者家族、人権擁護者の要求に呼応する対応を取らなければならない。

2013年の虐殺以降、同国の人権状況は劇的に悪化している。以下の10点は、それを端的に示す。

  1. 街頭デモの弾圧

    政府は2013年以降、集会の自由の権利の行使に対し厳格で過酷な法律を適用したり、不当な武力行使や一斉検挙に訴えたりして、抗議デモを徹底的に排除してきた。
     
  2. 恣意的拘禁

    当局は当時の虐殺中、あるいは事件後に、数万人を逮捕した。当初、ムスリム同胞団の支持者らを弾圧していたが、やがて抗議する人すべてを抑圧や検挙の対象とするようになった。

    2021年9月に国家人権戦略が導入され、今年5月には長年の懸案だった「国民対話」政策が始まったにもかかわらず、弾圧は収まる兆しがなく、国を批判すると拘束される事態が続いている。2022年に大統領恩赦委員会が復活し、反政権派の数百人が釈放されたが、ムスリム同胞団のメンバーや支持者は恩赦から除外され、数千人が不当に投獄されている。
     
  3. 不公正な裁判

    当局は、厳格な反テロ法の施行や抑圧的な手法で、数千人の反政府派を起訴も裁判もなく長期間拘束している。拘束期間は、法律が定める最高2年を超えることもある。

    緊急事態裁判所や軍事法廷、あるいは刑事裁判所の特別テロ巡回裁判所で、拷問で得た自白などに基づく不当な集団裁判が行なわれ、数百人が死刑または長期の実刑判決を言い渡された。
     
  4. 死刑の増加

    この10年、当局は反体制派の抑圧にますます死刑を適用するようになり、裁判所は数千人に死刑を宣告し、400人以上が処刑された。

    2018年9月、カイロ刑事裁判所は著しく不公正な裁判で、ラバ広場の座り込みに参加したとして、75人に死刑、47人に終身刑、612人に5年から15年の実刑を言い渡した。2021年7月14日、最高裁判所に相当する破毀院はムスリム同胞団の幹部ら12人の死刑判決を支持した。
     
  5. 表現の自由の弾圧

    エジプト当局は、報道機関の検閲を強化し、独立系の報道機関や政府の説明から逸脱した記事を書くジャーナリストへの弾圧を徹底してきた。弾圧には、逮捕、起訴、オンライン検閲、強制捜査などがある。
     
  6. 市民社会の締め付け

    市民社会は、NGOの登録、活動、資金集め、解散などで強い権限を持つ当局に抑圧されてきた。人権活動家も不当な起訴、恣意的拘束、渡航禁止、資産凍結など、手厳しい法的措置を受けてきた。
     
  7. 拷問・虐待

    2013年の弾圧やその後の摘発で逮捕された人たちが、劣悪で非人道的な収監環境の中で辛酸を舐める日々を送ってきた。2013年以降、獄中で必要な治療が受けられず、あるいは拷問などを受ける中、多数が獄中で亡くなった。

    その中には、権力の座を追われたモハマド・ムルシ元大統領やムスリム同胞団の幹部エッサム・エラリアンさんがいる。2人は何年もの間、劣悪な収容環境や治療放棄を批判したが相手にされず、それぞれ2019年と2020年に獄死した。

    被収容者や目撃者によると、獄中では、電気ショック、手足の宙吊り、無期限の独房収容、殴打、医療の否定など拷問や虐待が横行したという。
     
  8. 強制失踪

    治安当局は、テロや抗議デモに関与したとみなした人物を外部から隔離した状態で拘禁し、家族らには消息などを一切知らせない。そんな隔離拘禁が長ければ23カ月間も続く。その間、被拘禁者は拷問などの虐待を受け、「自白」や他人に罪を着せることを強要される。
     
  9. 差別

    当局は、人権を尊重し保護すると主張するが、性、性自認、性的指向、信仰などで差別してきた。
     
  10. 不処罰

    着々と進められてきたムスリム同胞団メンバーらの大規模起訴とは対照的に、2013年の虐殺事件に対する捜査では、虐殺の指示・計画・実行などに関与した人物の特定や法的責任の追求が一向に進んでいない。

    当時の大統領が2013年12月に設置した事実調査委員会は、虐殺の責任は抗議デモの指導者にあり、治安部隊にはほとんど責任がないとの判断を示した。エルシーシ大統領が2018年、軍幹部らの訴追免責を認める法案に署名したことで、不処罰は決定的となった。
     

惨劇から10年、国際社会は、エジプトの人権状況の監視と報告などの役割を担う機構を国連人権委員会に設置するなどして、責任を問う仕組みを構築する必要がある。

エジプトでは現在もムスリム同胞団関連の人物を含め反政府派など数千人が不当に拘禁されている。これらの人びとの釈放に向けて、各国はあらゆる機会を利用してエジプト当局に圧力をかけなければならない。

アムネスティ国際ニュース
2023年8月14日

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