エジプト:人権戦略導入から1年 深まる人権危機

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2022年10月 5日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:エジプト
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エジプト当局は、1年前に「国家人権戦略」を立ち上げたにもかかわらず、同国の深刻な人権危機を認めることも、人権問題への対処の意志も示していない。それどころか、今年11月に国連気候変動会議(COP27)の自国開催を控える中、市民の自由を抑圧し、国際法上の犯罪を犯し続けている。

国際会議を控えいかなる抗議も封じ込める姿勢が強まる中、当局が国家人権戦略を巧みに宣伝して市民の弾圧を隠蔽しようとしていることが、アムネスティの調査で明らかになっている。

アムネスティは、アッ=シーシー大統領が誕生してからの人権侵害を調べ、国家人権戦略導入後の被害者や被害を知る証人、人権擁護者、弁護士などから聞き取りを実施し、公文書、画像、国連機関などの報告書も確認。その上で9月7日、当局への提言を盛り込んだ報告書を作成し、関係当局にも提供した。

国際社会は、人権侵害の隠れ蓑として国家人権戦略を喧伝するエジプト当局の手口に騙されることなく、虐待と不処罰の連鎖を断つために同国に圧力をかける必要がある。エジプト当局に対し、恣意的に拘束されている数千人の釈放、市民社会への支配の抑制、抗議デモの許可などを働きかけるべきだ。

歪められた人権状況

国家人権戦略の導入以来、エジプト政府は、他国との会合で繰り返しこの戦略に言及し、人権を保障する姿勢を打ち出してきた。だが、同戦略の5カ年戦略の立案にあたっては、市民に参加する機会も与えず、人権団体と協議することもなかった。その結果、5カ年戦略が示す同国の人権状況が、大きく歪められた。その上、同戦略は、治安上の脅威や経済問題のせいにして、当局の責務を免除している。非難の対象は、権利を理解せず行使もしていないと、エジプト市民にも向かっている。

国家人権戦略は、憲法と法的枠組みを称賛する一方で、一連の法律が表現、結社、集会の権利の行使を事実上処罰し、あるいは制限している事態を無視している。その結果、抑圧的法律のもとで裁判の公正さが損なわれ、治安部隊と軍の犯罪的行為が不問にされるなど、事態が深刻化している。

また国家人権戦略は、2013年7月に抗議デモが発生し、市民が弾圧を受けて以来、数千人が不当に拘束・起訴されてきた事実には触れていない。過去2年だけをみても、拘禁中に医療措置が受けられない、あるいは劣悪な環境で数十人が亡くなる事態に陥っているにもかかわらず、同戦略ではこれらの人権侵害が言及されていない。

ここ数カ月、政治犯ら数十人が釈放されるという朗報が届いている。とはいえ、その多くは国外への渡航が禁止されたままであり、多く人たちはいまだ不当に拘禁されたままだ。

2013年以来、当局は数百件のウェブサイトを検閲し、独立系メディアを閉鎖に追い込み、当局に批判的なジャーナリスト多数を拘束してきた。

国家人権戦略は、「平等と非差別の原則」への国の貢献を賞賛し、公的機関の取り組みもいくつか紹介している。一方で現実には当局が、男女や子どもを性別、性自認、性的指向、宗教的信条に基づく人権侵害にさらしてきたことがアムネスティの調査でわかっている。

アッ=シーシー政権下で長期にわたり兄が不当に投獄されている著名な女性人権活動家モナ・セイフさんは、アムネスティにこう話す。

「個人の意見や国と異なる考え方を持っているだけで投獄されている人たちを全員釈放しない限り、どんな戦略も、表現の自由の権利を保護し市民との平和的共存を実現させることはできない」

国家人権戦略は、社会経済的権利に関する国の「成果」を誇張する。しかし、当局は市民の権利を徐々にでも実現する施策を打ち出してこなかった上、労働者、医療従事者、無許可で建てた家屋に住む人たちなど、社会経済的な不満を口にする人たちを容赦なく弾圧してきた。実態は「成果」の誇示とは対照的だ。

また同戦略は、憲法や法律面での保障を誇張する一方で、これらの保障が同国の国際的義務に沿わない点がどこにあるのか、なぜこれらの保障が実際にはあまねく反故にされているのか、について説明していない。また、これまでの人権侵害に目をつむり、人権侵害とその助長において治安部隊や検察官、裁判官がどう関わってきたか、まったく言及していない。

アムネスティは、国家人権戦略が「目指す成果」として示した控えめな提案の中で、死刑になる犯罪や公判前勾留の代替案の見直し、女性への暴力と闘う包括的な法律の導入などを歓迎する。しかし、「目指す成果」は総じてこの国の深刻な人権侵害と不処罰の問題に対処するものではない。

人権の促進は、人権を行使して恣意的に拘束されている人たち数千人を釈放することから始めるべきだ。また、政治的動機に基づく人権活動家の捜査をすべて打ち切り、渡航禁止や資産凍結などの制限も解除する必要がある。

治安部隊が行った国際法上の犯罪や他の重大な人権侵害には、責任者の訴追を視野に入れた捜査を始めなければならない。ここでの人権侵害には、抗議する数百人の殺害や超法規的処刑、拷問、強制失踪などが含まれる。

アッ=シーシー大統領は、自身の政権が関わる人権問題の重大さを認識し、その解決に向けた具体的対応を取るべきだ。

人権と不処罰の問題の根は深く、また事態の改善に向けた政治的意志が欠けることから、国連人権理事会でエジプトの人権状況に関する監視・報告メカニズムを確立する上で、国際社会の支援が欠かせない。

背景情報

エジプトは、11月にシャルムエルシェイクで開催予定の国連気候変動会議(COP27)の主催国を務める。抗議活動の場所が限定されていること、会議に参加するエジプトの市民団体が報復を受けるおそれがあることなどについて、環境保護団体や人権団体から懸念の声が上がっている。

アムネスティ国際ニュース
2022年9月21日

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