ベトナム:フェイスブックとユーチューブ 検閲に加担

  1. ホーム
  2. ニュースリリース
  3. 国際事務局発表ニュース
  4. ベトナム:フェイスブックとユーチューブ 検閲に加担
2020年12月 9日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:ベトナム
トピック:

ベトナム政府は、当局に批判的とみなしたソーシャルメディアの投稿者に対して、位置情報に基づくアクセス拒否などオンライン上の規制を強化している。また政府系団体が、ソーシャルメディアを多用する利用者に巧妙な手口で嫌がらせや脅迫を与えている。

アムネスティは、弁護士、ジャーナリスト、人権擁護活動家などに聞き取りを実施し、フェイスブックとグーグル(ユーチューブの運営会社)から入手した資料や情報を分析した結果、この2社が政府の検閲に協力していることが明らかになった。

アムネスティの調べによると、ベトナムには現在、170人の「良心の囚人」(信念や信仰、人種、発言内容、性的指向を理由として囚われている人をアムネススティはこう呼ぶ)がいるが、そのうち69人はソーシャルメディアでの発言で摘発され、拘禁されている。今年、逮捕された27人のうち21人は、オンライン上の活動が問題視された。

この10年でベトナムでは、フェイスブックやユーチューブで個人が自由に意見を言える文化が開花した。ところが、当局はここ最近、オンライン上の意見や主張を国の脅威とみなすようになっている。

ソーシャルメディアは今、検閲官、軍のサイバー部隊、国主導の「荒らし」と呼ばれるネット上の迷惑行為をする者たちがはびこり、表現の自由が抑圧されている。その上、ソーシャルメディア側が、当局の横槍を黙認するばかりでなく、表現の規制への関与をますます強めている。

2018年、フェイスブックのベトナムでの売上高は10億ドル(約1,043億円)近くになり、東南アジア市場全体の約3分の1を占めるまでになった。一方、グーグルは同じ年、べトナムで4億7,500万ドル(約495億円)の売上を記録したが、売上の柱が、傘下のユーチューブの広告収入だった。両社にとってベトナムが、極めて重要な市場であることがわかる。

世界のどこで事業を展開する場合でも、人権の尊重は欠かせない。ベトナムでも同様だ。ベトナムでのフェイスブックの人気は圧倒的で、利用者は数百万人に上る。彼らを当局の容赦ない弾圧から守るために、同社は当局の圧力をはねつけるべきだ。かつてフェイスブックは、自由で開かれた社会の扉を開く大きな希望だった。今も、希望を生む力は持っている。

ベトナム当局は、ソーシャルメディアを表現の自由の弾圧手段として利用することをやめ、権利を行使した市民の処罰を停止すべきだ。すべての市民は、政治的志向と関係なく、オンラインとオフラインの両社会に自由に参加する権利を持っている。

当局の圧力に屈する両社

今年4月、フェイスブックはベトナム政府の要望に従い、批判的投稿の監視を強化すると発表した。同社は、当局による回線速度の遅延措置を回避するには止むを得ないと釈明し、方針転換を正当化した。

同社が11月に公表した報告書によると、国内法に基づいて行った投稿制限は、今年の上半期で834件と、前の期の77件から10.8倍になった。一方、ユーチューブは、これまでも検閲要求をほぼすべて受け入れてきており、検閲当局が高く評価するほどだった。

10月の国営メディアの報道によると、フェイスブックとグーグルが、国に不都合な情報や政府批判の宣伝行為の削除に協力する割合は、これまでになく高く、それぞれ95パーセント、90パーセントだった。

抑圧的な法の下で投稿制限

アムネスティが得た多数の証言や証拠から、フェイスブックとユーチューブが投稿内容の監視を強化していることがうかがえる。利用者の証言の中には、自身の投稿が検閲されていることに気づいたというものも複数件あった。アムネスティは、検閲を定める国内法は、国際人権法に違反していると考える。

タイで難民申請中の民主化運動活動家のグエン・ヴァン・トランさんは、5月にフェイスブックから法規制により一部の投稿が制限されるとの知らせを受けた。それ以来、共産党幹部の名前が入った記事の投稿ができなくなった。ユーチューブでも同様の制限を受けたが、制限への不服を申し立てることはできた。申し立てにより、制限の解除が認められたり認められなかったりするが、それに関する説明はない。

通告なしの投稿削除

フリージャーナリストのチュオン・チャウ・フウ・ダインさんは、フェイスブックで15万人のフォロワーを持つ。3月から5月にかけて、コメの輸出禁止と1件の死刑判決について数百回の投稿をしたが、6月に投稿がすべて削除されていることに気付いたという。

他の利用者もアムネスティに、同様の削除を経験したと語った。昨年から今年にかけて、ある村で土地をめぐる村民と軍系通信会社間で争いがあり、暴力的な衝突に発展、村長と警官3人が亡くなった。土地権利活動家の2人が、事件に関する記事を投稿したが削除された。その後、2人は記事の投稿が国益に反する情報の拡散にあたるとして、逮捕・起訴された。

新型コロナウイルス感染対策への批判などについての書き込みも、嫌がらせや摘発の対象となっていた。

こうした国の対応には、サイバー部隊の性格がよく表れている。隊員は、オンライン上の心理戦に従事するベトナム共産党プロパガンダ部門の直下にある。また部隊は、およそ1万人の治安部隊からなるサイバースペース軍の支援を受ける。サイバースペース軍の役割は、「インターネット上の誤った見解や情報と闘う」ことだという。

彼らの活動内容は謎の部分も多いが、人権関連の投稿や記事の調査・報告をしていることは知れわたっている。サイバースペース軍の報告を受けて、フェイスブックやユーチューブの投稿が削除されたり、アカウントが停止されたりしている。

さらに、ブロガーやソーシャルメディアのユーザーが、投稿が発端で警官や暴徒に襲撃される事件が、頻繁に発生している。事件の背後には当局がいるため、犯人が捕まることはない。

人権侵害への加担をやめよ

ベトナム当局は、オンライン上の表現の自由の抑圧をやめるべきだ。アムネスティは、ベトナム政府に対して表現の自由の権利を行使しただけで収監されている市民を即時無条件の釈放と、抑圧的な法律の改正を求めている。

フェイスブックやグーグルなどの企業は、国を問わず人権を尊重する義務を負う。コンテンツモデレーション(投稿監視業務)上でも表現の自由の権利を尊重すべきだ。また、監視業務が国際人権基準に沿ったものとなるよう見直しも不可欠だ。

10月、フェイスブックは、独立した立場で強い決定権を持つ監視委員会を立ち上げた。コンテンツモデレーションが指摘する人権課題の解決策の一つが、監視委員会の設置だった。しかし、アムネスティが同社に聞き取りしたところ、当該国の国内法に従った監視や削除は、委員会の検討対象にはならないことが判明した。これでは同社の人権問題の解決には無力である。フェイスブックは、審査方針の変更も含めて監視委員会の役割を拡大すべきだ。そうでなければ、ベトナムの多くの利用者を再び失望させることになる。

ベトナムでは、勇気を持って意見を投稿した数え切れない数の市民が、声を封じられている。フェイスブックが、国家の言論抑圧に共謀するという前例は、世界各国の表現の自由にとって計り知れない痛手となる。

アムネスティ国際ニュース
2020年12月1日

英語のニュースを読む

関連ニュースリリース